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20-7 喧嘩は花火大会の華

 十年に一度の大花火大会は、ソッスカー山頂平野で行われ、多くの人が集まっていた。


 オットーを留置所から連れ出したノア、ユーリ、ウルスラは、途中でガリリネとチャバックと合流し、山頂平野の一角の人気の乏しい場所に赴く。


「おーっ、始まったーっ」


 出だしから大輪の花火が打ち上がるのを見て、ウルスラが歓声をあげる。

 続いて次々と花火が打ちあがり、空に轟音が谺する。


 オットーは不思議な感覚に包まれていた。とても和やかな気分だ。


「誰かと花火を見るなんて……初めてだ」


 夜空に上がる花火を見上げたまま、ぽつりと呟くオットー。


「俺、昔は花火なんて嫌いだったんだよ。仲の良さそうな奴等が……家族連れが、楽しそうに大勢集まりやがってよ……。何もかもやかましくて目障りでよ……」


 五人の前で語りながら、オットーは涙していた。


「ごめんな……ウルスラ、チャバック、ガリリネ……。俺でごめんな。俺、人殺しでごめんな……」

「何言ってるの? 謝ることなんてないでしょ」


 泣きながら謝るオットーに、ウルスラが言う。


(オイラには……オットーさんの今の気持ち、ちょっとだけわかる。自分だからごめんという気持ち)


 チャバックはオットーに共感していた。自己評価が極めて低く、自分のせいで他人に嫌な想いをさせてしまっているのではないか、迷惑になっていないかという、気遣いというか強迫観念が、チャバックの中には常にあったからだ。今でも少しそんな気持ちがあるが、以前に比べればましになった。


「ノア」


 ユーリが神妙な面持ちで声をかける。何のことか察し、ノアは帽子のつばに手をかけて頷く。


「ちょっと行ってくるね」


 そう言ってユーリが移動しだす。ノアもついていく。


「どこ行くの?」

「野暮用」


 ガリリネが尋ねると、ノアが端的に堪えた。


「あー、スィーニーおねーちゃんも来たー」


 チャバックが声をあげ、丘陵の下から歩いてくるスィーニーとミヤを指した。

スィーニーとミヤがやってくる


「おいすー。ここは空いてるねー。ていうか、山頂平野に空いてる場所いっぱいあるのに、何で皆わざわざ人のいる場所に集まるんだか」


 合流したスィーニーが言う。


「ノアとユーリは?」

「やぼよーって言ってたー」


 尋ねるスィーニーにチャバックが答える。


 一方でミヤは、先程ユーリとノアが歩いていった方向に、視線を向けていた。丘の先だ。


(ミカゼカの気配があるね……。つまりユーリ達は……)


 ここからは丘によって視線が遮られて見えないが、ミヤにはわかっていた。丘の先に、ミカゼカがいると。


「こんな時に……悪いけどよ。皆に話したいことがある。ユーリとノアいないけど、後で伝えてくれ……」


 オットーがそう前置きして、語りだした。自分が罪を犯した理由を。自身の過去を。


***


 スィーニーとミヤがチャバック達の前に現れる数分前から、ミカゼカはその場所にいた。


 ミカゼカは留置所からずっと、こっそりとオットー達の後をつけていた。


(まさかオットーを連れ出すなんてネ。そんな大それたことをするとは思っていなかったヨ。これは面白くなってきたネ)


 ウルスラ達の予想外の動き、そして予想外の展開は、ミカゼカにしてみれば新鮮な喜びへと繋がった。


(さて、どうしようかナ? 色々考えると楽しくて仕方ないヨ)


 今回はなるべく不干渉という立場を取るつもりのミカゼカであったが、この展開を黙って見ているのも味気無いと思う。


「おや?」


 丘を越えて現れた二人の魔法使い見習い――ユーリとノアの姿を見て、ミカゼカはさらに喜びを覚える。またしても予想外の展開だ。


「僕の読み、当たったみたいだね。確信していたわけでもないんだけど」

「いやあ、流石は先輩だよ」


 ユーリとノアが言う。


「で、どういうことなのか、一応聞いておく。役人達とつるんでいたの?」


 ノアがミカゼカに冷めた視線を送りながら問う。


「つるんでいたと言われてもネ。役人達を連れてきたわけじゃないヨ。それどころか、役人達は僕が抑えていたヨ。ずっと監視して報告するから、しばらくは泳がせておいてってネ」


 肩をすくめ、正直に答えるミカゼカ。


「でも今になって役人達をオットーさんの元に連れてきた。そのタイミングを操作していたのは、ミカゼカ、君だろ」


 ユーリが冷たい怒りを宿した声で指摘する。


「そんなことされて……オットーさんはどうなる」

「殺した人数が人数だし、あれは間違いなく死刑だネ」


 ユーリの言葉に対し、ミカゼカはあっけらかんと言い放った。


「そういう意味で言ったんじゃない。何でそんな残酷なことが出来るんだ?」

「残酷? 僕はオットーに関しては何もしてないヨ? 役人に捕まらないように手配もしていたしサ。少しの間だけネ」


 ミカゼカの言い分を聞いて、さらにユーリの怒りが増す。

 そんなユーリを傍で見ていて、ノアは気が気でなかった。変な暴走をしないかと。それを抑制するのが自分の役目だと、ノアは心得ている。


「せっかく魔術師になれるっていうのに、人生で輝ける瞬間にようやく巡り合えた、そんな人を、奈落に突き落とした。そうなるって知っていたうえで、甘い餌をちらつかせて、餌を与えて、食べる前に取り上げた」

「一口くらいは食べれたと思うヨ? それに、何度も言うけど僕は何もしてないヨ?」

「でもこうなるって全部わかってただろ!」


 のらりくらりな言動のミカゼカに、ユーリはとうとうキレて怒鳴る。


「悪趣味だ……。最悪だ。わかっていて、それを口にせずに楽しんでいた! 許せない!」

「先輩、どうどう」


 ノアがユーリの背中を撫でてなだめる。


「大丈夫……冷静だよ。キレてないよ」

「いや、絶対今キレてた」


 ユーリの言葉を聞いて、思わず笑ってしまうノア。


「でも彼は人殺しだヨ? しかも何人も殺しているし、親まで殺したヨ? 犯罪者がこうなるのは当たり前だし、自然な報いだよネ。それとも人殺しを野放しにしておけばよかったノ?」

「犯罪者だと知って近づいて、力を貸して、一緒に行動もしていて、しかし逮捕されることも知っていた。そして逮捕されるとなったら、助けるどころかそれを見て笑っている君のことが気に入らない。何でそんなひどいことをするんだって、聞いているんだ」

「何故僕がこんなことをするか、教えてあげるネ。それは僕が魔族だからだヨ。そして僕の存在を望み、創ったのは、アルレンティスなんだヨ」


 そう答えるミカゼカの顔には、今までと違った笑みが浮かんでいた。それは憫笑のように、ユーリとノアには見えた。


「アルレンティスはネ、魔族のくせに気弱で優しい子だったのサ。父親から実験的に創られた合成魔族だったせいかナ。兄や姉達にもいじめられ、クロード――彼の父親にも魔族らしくないとよく叱られていたんだヨ。だからアルレンティスは僕を創ったんだネ。魔族らしい魔族の性格をした、理想の僕をネ」


 一瞬だが、自虐的な口調に変化するミカゼカ。


「僕は最初に創られた別人格だし、アルレンティスが自身の個性を否定して生み出した正反対の虚像でもあるから、人格の支配力はかなり強いんだヨ。だから一度出ると長期間出っ放しでいられるノ。しかし同時に不安定でもあるから、引っ込むとしばらく出られなくなるし、アルレンティス含め、他の四人の人格全てに厄介者扱いされて、四人がかりで閉じ込めてくるから、支配力が少しでも緩むと、引っ込んでしまうのサ。ま、僕はそういうことで、悪いことをしたいからしているのサ。せっかくそう創られ、生まれたんだから、アルレンティスの理想を叶えてやっているんだヨ」


 ミカゼカが遠い目で語る。


「話を戻すけど、オットーは人殺しなんだヨ。そんな彼に、捕まる前にいい夢を見せてあげた僕は、そんなに悪趣味かナ? 正直今回は、大して悪いことしたつもりは無いヨ?」

「俺も人を殺しているし、これからもきっと殺すし、それに親も殺しているョ? でも捕まる気は無いし、先輩も婆も承知のうえで、婆の弟子してるョ? 犯罪なんて、バレなければ、捕まらなければ、犯罪にはならないと思うョ?」

「それ僕の真似? 微妙に下手糞だネ」


 自分の口調の真似をするノアに、ミカゼカは苦笑する。


「ようするに僕のことが気に入らない、そう言いに来ただけかナ?」

「いいや。それだけじゃ済まさない」


 ミカゼカが問うと、ユーリは闘志を漲らせた。


「え? 僕と戦う気なノ? 散々修行したし、ビリーとも戦ったし、二人がかりでも勝てないのはわかってるよネ? 半人前の魔法使い二人で、八恐筆頭の僕と本気で戦うノ?」

「どうかな? 君との修行では俺達、奥の手は出してなかった。ねえ? 先輩。あれを出してよ。俺も出す」


 ノアがそう言った直後、ノアの右手に大きなルビーがついたガントレットが装着された。


「おやおや、大分強い力を持った魔道具……いや、それはイレギュラーだネ」


 ノアの手甲――ミクトラを見て、ミカゼカは興味深そうに言った。イレギュラーには目が無いのは、アルレンティス全ての人格に共通している。イレギュラー目当てに人喰い絵本に何度も潜っている身だ。


「アルレンティスさん達には悪いけど、ミカゼカ、君は叩きのめす。そして、引っ込んでもらう」


 ユーリが宣言する。


 ただ八つ当たりをするわけではない。ミカゼカに今のオットー達の時間を、邪魔させないため――だけでもない。ミカゼカの人格を退けて、他のアルレンティスに、オットーにこれ以上手出しをさせないため、そしてオットーを助けるよう働きかけるという計算を、ユーリは巡らせていた。さらに、ミヤやロドリゲスに頼むだけではなく、アルレンティスの力も借りれば、オットーが助かる可能性はより高くなると考えている。


「できると思うノ? 何度も言うけど、君達の実力はわかっていル。二人がかりでも、僕に勝てないヨ? それとも勝つ算段がちゃんとあるのかナ?」

「セント、来て」


 おちょくるような口調で問いかけるミカゼカの前で、ユーリが小声で呼びかけると、ユーリの姿が変貌した。

 体色は白くなり、体表のあちこちに様々な種類の宝石が浮かび上がり、何本もの足が生え、全身が大きく伸びていく。胴には人の姿のユーリが埋まっている。


 ほんの数秒で、ユーリは宝石百足へと変化していた。


「宝石百足? どういうことだろうネ。それが君の切り札カ。素晴らしいし面白いヨ」


 興奮の声をあげるミカゼカ。つくづく自分を楽しませてくれると、ノアと、宝石百足となったユーリを見て思う。


「ペンギンロボ」


 ノアが一声発する。手にステッキを持ち、シルクハットに燕尾服姿のペンギンが出現し、シルクハットを取ってぺこりと一礼した。


 宝石百足の触覚から細いビームが放たれ、戦いの火蓋が切って落とされた。


 ビームは一瞬放たれたわけではない。二条のビームが放たれ続け、触覚の動きに合わせて、逃げるミカゼカの後を追っている。


 ペンギンロボがくるくるとステッキを回すと、ステッキの先を、ビームから逃げ回っているミカゼカの方へと突きつける。


「え?」


 ミカゼカの進行方向に長方形の箱が現れる。丁度人が入るほどのサイズの箱が、立っている。


 箱の蓋が開き、ミカゼカを飲み込もうとしたが、ミカゼカはあっさりとかわす。箱の中に入ったらどうなるか興味もあったが、これが攻撃であることは間違いないし、身をもって試すつもりは無かった。


 さらなる攻撃の気配を感じて、ミカゼカは足を止めず逃げ回る。


「む……」


 ミカゼカが唸った。体が大きく傾く。すぐ近くに、ノアが放った重力弾が落下した。


 攻撃の気配を察してすぐに避けるミカゼカ。直撃は受けなかったが、強い重力の影響を多少受けて、体勢が崩れ、体の動きが鈍った。


 動きの鈍ったミカゼカに、長方形の箱が迫り、箱の中にその体を納め、蓋を閉じてしまった。


 それを見て宝石百足のユーリは逡巡し、ビームを止める。箱にどういう意味があるのか不明だったからだ。箱の上から攻撃をしたら不都合があるかもしれないと考えた。


「ワン! ツー! スリー!」


 ペンギンロボが勢いよくかけ声をかけてステッキを振りかざすと、ステッキの動きに合わせて大きな赤い布が出現する。


 さらにステッキで、赤い布をめくってみせると、そこにはミカゼカの姿があった。


 ミカゼカは呆然としている。ノアも呆気に取られている。ユーリの表情はわからないが、動きは停まっている。


「え……? どういうことなノ?」


 わけがわからずミカゼカがきょろきょろと辺りを見回す。箱の中に閉じこめられたかと思ったら、布の中にいた。布がめくられると、別の場所にいた。

 瞬時にして空間移動の力が働いたうえに、抗うことも出来なかったので、これは不味いかもしれないとミカゼカは緊張もしたが、移動しただけで何も起こっていない。何が何だかわからない。


 ペンギンロボが恭しく一礼する。それを見て、ノアは弾かれたように動いた。


「誰が手品して遊べと言った!」

「プギャア!」


 珍しくノアが怒号を発し、ペンギンロボを蹴り飛ばす。ペンギンロボは悲鳴を上げて吹っ飛んだ。

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