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19-11 神様なんて大嫌い。でも神様にお祈りはかかさない

 人喰い絵本から帰還後、ミヤ、連盟議長ワグナー、黒騎士団長ゴート、白騎士団長マリア、黒騎士団副団長イリス、シモン、さらにブラッシーとサユリも混ぜて、会議を行っていた。人喰い絵本で起きた出来事は全て報告してある。


「シクラメ・タマレイが手に入れた力とは、どれほどの脅威なのですか?」

「軽視してよいものではないが、太刀打ちできなくなるほどの力というわけでもないさ」


 ワグナーの疑問にミヤが答える。ミヤとて坩堝の力を引き出して、アザミとの戦いを優勢に覆したが、その後のシクラメの不意打ちでまたピンチになっていた。坩堝から引き出される力の程度は、ミヤ自身がわかっている。


「カッカッカッ、我が師を出し抜くとは、シクラメもやりますなあ」


 シモンがおかしそうに笑う。


「儂も耄碌したもんさ。思えばシクラメの動きも妙だったというのに、気付かないなんてさ」

「誰も気付かなかったのでしょう? ミヤ殿だけが責められる事でもありますまい」


 嘆息するミヤをゴートがフォローする。


「シクラメ含めたK&Mアゲインにも警戒は必要でしょうけど、最も注目すべき点は、魔王を生み出す坩堝なる存在が活性化し、いずれ次の魔王が誕生するという話です」

「おとぎ話が現実になるというわけですか」


 マリアが言い、ワグナーが唸る。


「儂はその存在を知っていた。すまん。知っていて黙っていた。人の口には戸が立てられんから、儂の胸だけにしまっておくつもりであったし、知っていてなおその力を悪い形で利用もした。アザミとの戦いでな」

「それもミヤ様を責められることではないわ~ん。K&Mアゲインと命懸けで戦ってたのよーん」


 謝罪するミヤに、今度はブラッシーがフォローした。


「それと、人喰い絵本の創造者というダァグ・アァアアなる存在が現れたことですよねー。嬲り神含め、彼の世界の住人がよからぬ動きをしだしたと見ても、よいのではないですか~?」


 イリスがミヤの方を見て尋ねる。


「そうかもしれないね。儂も驚いたよ。唐突に出てきて、色々と謎が解けた。魔王の封の件も含めて、何か動き出しているのかもしれないね。ダァグ・アァアアの言葉を額面通りに受け取るのは楽観的な見方になるが、ダァグ・アァアアは必ずしもこちらに災禍をもたらす気ではないようだ」


 ワグナー達の手前、楽観的な物言いをするミヤだが、言葉とは裏腹に、ダァグ・アァアアの干渉が、災禍をもたらす可能性は高いと見ている。


「最早我が国だけの問題とは言えませんね。しかし国外どころか、国内に公表するのも憚られる大事です」


 と、ワグナー。


「ぶひー、あたくし、もう帰りたいとして。これってサユリさんに得のある話ではないのでして」


 サユリが不満げな顔でぶーたれる。


「マイナス2。K&Mアゲインに加担したとして、拘束逮捕されても文句言えない立場で何言ってんだい? 今後はしっかりとこちら側で働いてもらうよ」

「え~、そんなの酷いのである。社会のためとか、他人のためとか、そんなんで働きたくないのだー。犯罪者にもなりたくないのだー。どうか許して」


 ミヤが冷たい口調で断ずると、サユリは心底嫌そうな顔で訴えた。


「マイナス1。後先考えずに欲かいて突っ走る性格は、いつまで経っても直らないんだね」

「ううう……それ言われるの何百回目であるか……。どうしてあたくしはこう、人から否定ばかりされるのだ? ひょっとしてあたくし、この世界に不要な存在なのでして?」


 サユリが半泣き顔になって頭を抱える。


「そう思う気持ちがあるならマシですよ。自分を変えていきましょう」

「嫌なのだ。この世界の全ての人間がサユリさんのことをどう思おうと、あたくしは今のサユリさんが一番好きでして」


 マリアが柔らかな口調で励ますも、頑なに突っぱねるサユリであった。


***


 K&Mアゲインの隠れ家。


「お兄ちゃんはパワーアップしちゃったよう。これでアザミも安心だねえ」

「あたしがサボってたせいで、兄貴に力が渡っちまったってことかよ。ケッ、あたしも行きゃあよかったぜ」


 朗らかに笑うシクラメを見て、テーブルの上に乗ってあぐらをかいているアザミが、つまらなそうに言った。


「まあ多少の力を手に入れたのは収穫であったと言っておこう。盤面を覆すほどではないが、収穫は収穫としておこう」

「ジャン・アンリ的には物足りねーって言い草に聞こえるぜ、そりゃ」


 実はジャン・アンリはより大きな力を狙っていたのか、あるいは大きな力を得られる見込みがあったのかと、アザミは勘繰る。


「うむ。力の収穫という面ではな。しかし私は、力の収穫よりも、知識の取得の方が有益だったと見なすが、それでよいか?」

「確かにな。人喰い絵本の創造主様に、魔王を生む力の源――坩堝か。やっぱりあたしも行きゃあよかったなあ」


 溜息をつき、大きく伸びをするアザミ。


「三百年越しに次世代の魔王が現れるかもしれないとか、べらぼうな話だぜ」

「べらぼうとは?」


 アザミの台詞を聞いて、ジャン・アンリが勘繰る。


「東洋の言葉だ。馬鹿みてーにとんでもねー話ってことさ。こいつをあたしらの理想を成し遂げるために、利用しねー手はあるめえ」


 猫科の肉食獣を連想させる、獰猛な笑みを広げるアザミ。


「世界中の全ての人間に力を与えるために、そのくらいの大きな力が必要であるとしておく」


 眼鏡に手をやり、ジャン・アンリが淡々と述べる。


「大丈夫かなあ? いくらなんでも危険じゃなあい? 世界を滅茶苦茶にして、今なおその滅茶苦茶な影響を残しているあの魔王だよぉ?」


 言葉のうえでは案ずるシクラメだが、相変わらず屈託の無い笑顔のまま、全然心配していなさそうな様子だ。


「大魔法使いミヤは、人喰い絵本の知識に関して、我々より精通していたようだ。坩堝の存在を知っていたうえで、アザミとの戦いで利用したのだからな。しかも魔王廟の中に入るわけでもなく、こちらの世界から門を開き、その力を引き出した。これも中々の離れ業ではないか?」

「ああ、ミヤはこっちが思っていた以上に、人智を越えた存在みてーだな。全くもって油断ならねえ。しっかし……あの猫婆は何でこっちについてくれねーのかねえ。あれがこっちについてくれれば、これ以上無く心強いってのによぉ」


 ジャン・アンリの言葉に同意したアザミは、テーブルの上に寝転がり、嘆息した。


***


 ユーリとノアは肩を並べて、ソッスカー山頂平野の繁華街を歩いていた。


「先輩のダークな面が結構見えていた感あったね。ちょっと俺は不安だよ」

「ごめんね。僕も抑えようとしているんだけど」


 憂い顏のノアに、申し訳なさそうに謝るユーリ。


「すまんこって言おう。本気で悪いと思っているなら言えるはず」

「それはないよ」

「俺、先輩が心配だよ。余計なお世話と言われても心配。もう少し先輩のこと知りたい。知っておきたい」


 ノアの言葉を受け、ユーリはうつむき加減になって思案する。


「そっか。じゃあノア……これは恥ずかしいことだけど、話しておくね」

「おー、先輩の恥ずかしい話。期待しちゃうなあ」


 それまで心配そうな顔をしていたノアが、期待と共に破顔する。


「僕は神様を呪っている。いや、神様に怒っている」

「いつもお祈りしているのに?」


 ユーリの言葉に対して以外そうに問い返すノアであったが、実の所、ノアは驚くことはなかった。先日人喰い絵本に入った際に、ミヤから聞いていたからだ。ユーリはこの世の理不尽な悲劇に対し、激しい怒りの火を宿していると。


「祈ってるよ。でも同時に怒っている。神様にクレームつけてる。神様に脅しをかけてる。この世界を創って、この世界の運命を全て操っているのが神様なら、神様って存在は相当ろくでもないものとしか思えないんだよね。だって世界には悲劇が溢れているじゃない」


 怒りを滲ませた暗い面持ちで話すユーリを見て、ノアは興味深そうな顔になって顎に手を当てる。


「祈りを捧げている裏で、そんなこと思っていたのか。人の二面性って面白いね」

「気分じゃなくて、二面性そのものだね。あのダァグ・アァアアっていうのは、正に世界を生み出し、悲劇を創り出す、嫌な神様そのものだった。僕の怒りの対象がそのまま出てきたんだよ」

「それで先輩、ずっと御機嫌斜めだったわけだ」


 人喰い絵本という世界の造物主に相当するダァグ・アァアアに、ユーリが怒りを抱く理由を、ノアは理解した。


「ダァグ・アァアアの言動にもカチンとくるものが多かったしね。妙に偉そうというか」

「ええ? 俺はそんな風に感じなかったけど……」


 しかしユーリが口にしたこの発言は、ノアには共感も理解も出来なかった。ノアからすれば、あの少年は別段不快な言動は取って。そのようには受け止められなかった。


「僕がダァグ・アァアアを神様という色眼鏡で見ているから、あるいは捻くれてるから、そう感じちゃったのかな……」


 意外そうな顔のノアを見て、ユーリは自嘲気味に言う。


「先輩、話してくれてありがとさままま。また先輩のこと一つ知れてよかった」

「そ、そう……?」


 ノアが悪戯っぽい笑みを浮かべてユーリを覗き込み、ユーリは照れ臭そうに微笑む。


「先輩にはいつも世話になっているし、そんな先輩を俺が支える時だって来る。そのためには、少しでも先輩のことを知っていた方がいい。でも俺だって、先輩に話してない秘密がいっぱい。全てを一度には話せない。先輩も多分そうだろうから、気が向いた時に少しずつ教えて。俺もそうする」

「うん。わかった」


 真摯な目で訴え、主張するノアのことが、ユーリは非常に頼もしく見えて、自然と笑みを零しつつ頷いた。


「でも、ダァグ・アァアアほどの力があれば、婆の病気も何とかできそうな気もするね」

「そうだね……」


 ノアのその台詞を聞き、ユーリはあることを思い出す。


(セントがナイトエリクサーを取ってきてくると言った。それに期待しよう。頼むよ、セント)

(大丈夫よ。次来た時には渡すわ)


 ユーリが心の中で呼びかけると、宝石百足の姿がユーリの頭の中に浮かび上がり、柔らかな女性の声が響く。


(本当に?)

(もう手にいれたから)

(ありがとう、セント)


 セントの報告を受け、ユーリは口元を綻ばせた。


***


「とうとう動き出したなあ。あっちとこっちが繋がるようになって、三百年間、だんまりだったってのによ」


 ダァグ・アァアアを前にして、嬲り神がへらへらと笑う。


「あっちの世界では三百年も経っているんだね」


 複雑な気分になるダァグ。彼の時間の流れとはかなり異なる。


「ねえ、あの髪の長い魔法使いの子、どうして僕をあんなに睨んでいたんだろう」

「ユーリって名前だ。覚えておくといいぜ」


 不思議がるダァグに、嬲り神はいつも以上に歪んだ笑みを浮かべて告げた。


 よくぞその話題を出してくれましたと、嬲り神は小躍りしたい気分になっていた。


「覚えて……? どうして? 何だか怖かったんだけど……」


 ダァグが怪訝な表情になって問う。


「あいつは母親と一緒人喰い絵本に吸い込まれて、母親はどろどろに溶かされて死んだ。ユーリは俺が助けてやったけどな」

「そんな……」


 嬲り神に伝えられた事実に、ダァグは蒼白になって固まった。


「ひゃはははははっ、お前が恨まれるのも当たり前だろぉ~? お前があいつの母親を殺したようなもんだしなァ。ま、あいつの母親を死においやったのは、お前だけに責があるわけじゃねーと、俺は思うけどなァ。だははははははははっ」


 ダァグの反応を心底面白がって、嬲り神は大笑いした。


「人喰い絵本をあの世界に呼び込んだお前も、ユーリの母親を死なせる原因を作った一人だぜ。わかってるよなあ? ミヤ」


 心底心地好さそうな笑みをたたえ、嬲り神はその場にいないミヤに向かって、届かぬ声で語りかけていた。

19章おしまいっ

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