二十九之巻:こんな夜にどうしたにござるか
その夜、殿下が某の部屋へとやってきた。
某はしゅみいずなる薄い衣の上にがうんなる温かい衣を羽織った姿である。
「おや、殿下」
「……そんな姿で男を部屋に入れてはいけないよ」
入ってから言われてもな。カチューシャを見る。しれっと頭を下げて部屋から出ていった。……良いのでござろうか。
某が長椅子の真ん中から腰をずらすと殿下は隣に腰掛けた。座布団よりも柔らかい椅子が沈み込む。
「殿下はこんな夜にどうしたにござるか」
「今日はあまり話せなかったからね」
ふふーん?
「クリストフ殿に妬いているでござるか?」
「うん」
殿下は某の手を取り、こちらに目を合わせる。
「妬いているとも、子供相手に大人気なくね。君は私の婚約者だぞと叫びたくなる」
ぬぬぬ、そう正直に言われると照れるでござる。
「シルヴィアは私と婚約しているけどそれで良いのかい?」
「むしろ殿下は某で良いのであろうか」
「私が君を愛していないとでも?」
真顔ずるいでござる……。某は目を逸らす。
「某、小石惣二郎は日本という、此処とは違う世界の……男の魂でござる」
「シルヴィア……いや、おいしそう・じろうさん」
殿下は某の顎を摘むと、くいっと持ち上げて視線を合わせた。
「男なのに私と目を合わせて頬を赤らめるのか?」
「身体が女故か、内なるシルヴィアに引きずられている故か……」
「それは何よりだ」
殿下は獣の如き気配を纏う。
「そう言えばクリストフ君は、シルヴィアに抱かれて泣いていたと言ったね」
「ひっ」
「悪い子だ……無論、婚約者であるわたしはそれ以上を要求しても良いのだよね?」
殿下に手首を掴まれる。
「逃げないのかい?いつかみたいに木になったりはしないのかい?」
「掴まれていると変わり身は使えぬでござる……」
殿下はにやりと笑みを浮かべる。手を離し、ゆっくりと顔を近づけると某の額に唇を落とした。
「ななな」
「逃げられるようにしたのに逃げないんだね?」
そう言って某の首筋に唇を落とし、持ち上げると膝の上に横抱きにかかえた。顔にかあっと血が昇る。
ぱさり、とがうんが落ちる。
「むむむ、変態皇子!」
「誰からもそうは見えないと思うよ」
殿下は某の腰を自身に押し付けるように抱きしめる。頬が触れ合い、耳元で囁かれる。
「君を魔族領へと送り出さねばならない、私たちの不甲斐なさを許しておくれ」
「それが、某のお役目なれば」
耳が甘く食まれ、ぺろりと舐められる。うひいぃぃ。
「続きは君が戻ってきてくれたらにしよう」




