十一之巻:手裏剣術!百花繚乱!
「シルヴィア!」
親父殿の声が広間に響く。絹を裂くような女子たちの悲鳴。
聖女の身を剣が貫いた。この場にいる者全てがそう思ったであろう。
「討ち取ったぞ!」
ドレスを着た木人形を貫いた風の四天王とやらが叫ぶ。
ふふ、遁法とは逃走のための技!汝が斬ったは、目が眩んでいる間に用意した変わり身よ!
重い衣を脱ぎ捨てた某は、こるせっとと下着のみの姿となって貴族たちの足元をすり抜け、会場の端、軽食を並べた机の上に飛び乗った。
そこに並ぶ皿を掴みあげて跳び上がる。
「それは変わり身でござる……ですわ!」
貴族たちの頭上より魔族を狙う。
「手裏剣術!百花繚乱!」
無数の瀟洒な皿が舞い、ヒューイに打ちつけられる。
「小癪な!」
怒りの声と共に、剣が振られる。奴は皿が飛ぶ方向へと風の刃を飛ばしてきた。鎌鼬の術か!
皿が砕かれるが某はもうそこにはいない!
再び机の上に戻った某は側転しつつ移動。その際にナイフを幾本も拾い上げ、奴の正面に立つ。
ヒューイと視線が合う。
「飛苦無術!無明影打ち!」
「そんな武器がきくかよ!……なっ!」
眼球狙いで投擲したナイフ。奴が手にした剣で撃ち落とすと、全く同じ軌道で投げられた二本目のナイフが隠れているという飛苦無の技よ。
奴は剣を風に戻し、荒ぶる旋風を壁として二本目のナイフを弾いた。
「ははっ、これならナイフだろうと矢だろうと飛び道具は効かねえぞ!」
某は高く跳び上がり、聖女の力を足裏より放つことで天井を駆け、吊り下げられた燭台の上、奴の頭上を取る。
風の四天王。確かに優れた魔族であった。この王宮へと潜入する力、某の光を弾く力、武装を持ち込めぬ場でも風を剣として戦う力。
「だが剣を手放し、風に戻したが汝の運の尽きよ」
頭上を取った某は飛び降りながら回転。右手に持ったナイフに聖女の力を通してヒューイの首に。
「秘剣、落椿」
落下、回転の勢い、聖女の力を斬擊の威力に変えて。
椿が花を落とすが如く。魔族の首は身体から分かたれ、ごとりと落ちた。
「風の四天王、魔族ヒューイ討ち取ったり!」
男たちの歓声が上がった。
皇太子殿下が溜息をつき、走り寄ると上着を脱いで某に被せた。
「良くやってくれた。でもその姿は煽情的に過ぎる、人前で見せないでおくれ」
何処とも知れぬ闇の中、不気味な声が木霊する。
「ヒューイがやられたようだな」
「ふふふ、奴は四天王の中でも最弱ですもの」
「先走って負けるとは魔族の面汚しめ」
フハハハハと哄笑が響き渡った。




