第31話 part-a
[part-a]レゼア
レゼア・レクラムは上空から戦況を眺めていた。
ガーディアン・ゲートブリッジという要塞を陥とす作戦は順調に継続中だ。橋の上に敷かれた敵の防衛ラインは確実に後退中だったし、敵の数も目に見えて減りつつある――それは近接戦闘を得意とするミオや、後方から支援を続ける美月や亜月による要素が大きいと言えるだろう。
(やはり今のヴィーアではエーラントに劣るか。たしか新型の量産機が生産ラインに乗るようだが)
どうしたものか、と内心で言葉を続ける。
資源の少ないASEEの量産機では、やはりスペックと汎用性の面で統一連合のエーラントには劣る――つまり量でも質でも優る統一連合に対して、物量戦では優位に立つことが出来ないままだ。そのため、特務班のような戦闘のスペシャリストが状況を整えなければ、ASEEが統一連合に勝つことは難しい。レゼアが開発の一部を担った量産機も、戦場へ飛び出す頃には既にASEEは敗北しているかも知れない。
……ふん、馬鹿らしい。
無駄な考えだったなと雑念を振り払って、レゼアは巨大な橋を見下ろした。
やや距離を置いた位置から、<ハガネシラヌイ>に乗った亜月がブリッジへの攻撃を試みている。エネルギーライフルから迸ったビームの奔流は、しかし橋の脇――ちょうどバリアの装置がある手前で発散してしまった。威力を失った光の矢は無残に散り、淡い光芒と共に消えてゆく。
『駄目だ、ビーム砲ごときじゃ全然ダメージを与えられていない。何か別の方法を考えた方が良いかもしれんよ?』
「やはり遠距離射撃に対しては全くの無敵らしいな。実弾に対しては迎撃装置、ビーム兵器に対しては強力な磁場と電場によるエネルギーセクターフィールドか……しかし近接戦闘に秀でた2機はお出かけ中とはな。ひとまず休む」
量産機を相手にしていたミオはバリア発生装置のいくつかを破壊してくれたが、白亜の特機を相手にしてからはその余裕がなく、1対1の戦いで必死になっていた。
レゼアがマイクに向かって呼び掛けるも、<ブリガン・ヴェイン>に搭乗した2人からはマトモな返答が得られなかった。こちらの送った通信を全く無視して、目の前の獲物へ夢中になっているらしい。一方でミオの方はといえば、こちらも敵の指揮官機と交戦中で、こちらが指示を下せる状況ではないようだ。
は、と内心で溜め息をつくと、
『後方から敵の艦影を確認したわよ。何かコソコソ動いてるみたいだけど、大丈夫かしらね』
美月が声を上げる。モニターに映し出された映像を拡大してみれば、ちょうど敵艦である<フィリテ・リエラ>が、その巨体を露わにしたところだった。巨艦の出撃を見て、
「どうやら敵の方も策があるようだな。これ以上は時間を掛けられん」
……といいつつも、切り札である2機が出ずっぱりではどうしようもないのだがな。
機体を翻して去ろうとすると、ノイズの後に聞こえたのは敵の叫び声。
『おいテメー、オレのこと完ッ全に忘れてただろ! 無視すんなオラ!』
「なんだお前、まだ居たのか。残念だが完全に忘れていたので安心するといい、むしろ作者も忘れていたレベルだははは」
『はははじぇねーよブッ飛ばすぞ。言っていいことと悪いことくらいあるだろーが!』
「いやぁマイナーなキャラは描くだけで疲れるとな。あらかじめ言っておこう、アニメ化されたらお前なんか棒人間で充分だと」
『その扱い酷くね!? って、いったい何の話だこれは。アンタの頭がおかしいって話だっけか』
「さあな」
フッ、とレゼアは口の端を歪めた。
見下ろせば、橋の上には一機のAOFが立っており、脇に抱えているのは超長砲身の狙撃ライフルだ。美月の装備とは異なり、ビーム兵器ではなく実弾を用いているのが特徴である。レゼアの記憶が正しければ、ケニア/ナイロビの戦線でも武器を交えた機体である。
……どうやらこの前のケリを付けにきたらしい。
前回はレゼアの圧勝だったが、今回は隠し種を使うことが出来ない。一見すると中距離支援機にみえるレゼアの<ヴィーア>は、変形すれば超近接戦闘型AOFとなる――というトリックが使えないぶん、自分の立ち回りは限られたものになる。
そういえばと見回して、レゼアは言ってやった。
「今日は相方が居ないのか? もしかしてフラれたとか」
『や、同僚は痔で出撃できねーってよ』
「なんだと……」
『はい隙アリ――――――――ッ!!』
敵の<エーラント>が長砲身狙撃ライフルを向けるのと同時に、レゼアの機体は回避運動に入っていた。
装甲の真横を実弾が擦れ、着地点を失った砲弾は遥か後方の山肌へ直撃して地面を抉る。相変わらずバカみたいに威力のある武器だ。戦艦の横っ腹に直撃すれば、わずか一撃で一隻の艦を墜とすことが出来るだろう。シールドによる防御もおそらく無効だろう、とレゼアは踏んでいた。
『この一発は俺の給料3か月ぶんだぜ! ありがたく直撃しやがれってんだ!!』
バカな男は続ける。
『くらえ! 給料3か月狙撃ライフル!』
いけしゃあしゃあと砲弾を撃ちまくる<エーラント>を見ながら、レゼアは素早く空中へ機体を駆った。続けるのは回避運動からの反撃だ。エネルギーライフルを向けると、敵の機体は幾つかの地走を試したあと、AOFで女走りになりながら橋の上を逃げ回る。
……器用なマネだ。
背面のポッドから16基のミサイルたちを吐くと、群れは敵の<エーラント>めがけて追撃――したように見えたが、橋の上にある敵機まで届かずに撃ち落とされてしまう。原因は1つ、
(やはり迎撃装置が厄介か……!)
爆煙をチャンスとして、敵機は再び砲弾を放つ。
レゼアは機体を左へ操って射線を避けると、何か打つ手はないかと模索した。
『アンタら橋を落とすのが目的なんだろ? だったら悪いことは言わねえ、さっさと諦めた方がいいぜ。衛星装備の陽電子砲でも無けりゃあ破壊は無理だ』
「要らない情報をどうもありがとう。たしかに堅牢な守りではあるが、これも命令なんでな。必ず陥とすさ」
しばらく遊んでやるか、とレゼアは思った。




