第26話 part-e
[part-e]レナ
通行人の注目が集まるなか、大掛かりな喧嘩はすぐに始まった。
「ちょ、ちょっと!? どうなってるの――」
周囲がメインストリートを取り囲み、まるでリングのようなエリアを作り出す。通行人や商人たちが喧騒喝采とともに前に飛び出して騒ぎ、目の前で繰り広げられるストリートファイトを見物し始める。レナは輪の中でオッサンどもの腹の脂肪と汗のにおいに埋もれながらあっぷあっぷして、なんとか這うようにして前に出ると、そこには信じられない光景が広がっていた。
不良グループたちが細身の少年たちに襲い掛かるが、彼は軽い足捌きとともに一撃を避け、チャンスさえあれば隙を衝いて大の男どもを投げ飛ばす――という荒業を行っていた。
一方的な展開はまるでドラマの撮影のようにも見える。この見物人の中には、実際に撮影ロケと勘違いしている輩もいるだろう。
だが断じて違う、と少年の動きに見惚れながらレナは思った。
ここにはカメラマンもディレクターもいなければ、撮り直しのチャンスだって無い。目の前に広がっているのは正真正銘の現実だと灰色の脳細胞たちが合唱していた。
少年の動きは引き締まっていて無駄がなく、しかし柔らかな動きを持っている。あの細身をどのように駆使したら大男を投げ飛ばせるのか、理解が追い付いていなかった。
「あの人、なんでこんなに強いの……? 強すぎる」
レナは素直に感心しきっていた。
と、そこで何者かに腕を引かれる感触を得る。小さな悲鳴とともに横を見ると、そこに居たのはフィエリアだった。黒髪の少女は肩で大きく息をつき、
「何事かと思って捜しました。急に居なくなったので来てみれば、こんな所で乱闘騒ぎの見物なんて……いったい何が?」
「ごめん、ちょっと巻き込まれ事情みたいな感じで。あたしが発端なんだけど」
「はぁ?」
両手を擦って申し訳なさげに弁解すると、フィエリアは珍しく呆れた表情をつくった。
途端、おぉ、と見物人たちの合間にどよめきが走る。
何が起こったのか――と見てみると、不良グループに残った最後の1人が胸ポケットからナイフを取り出したところだった。刃渡りは5センチ程度のカッターみたいな刃物だが、それでも充分な殺傷力がある。
さすがの少年もこれにはビビッたようで、思わず身を引いていた。
レナは思わず声を上げる。
「え、ちょ……っ!? ちょっとちょっとナイフは禁止でしょ――――!!」
だが遅かった。
男が躍りかかった直後、広場で発せられたのは遠雷のように低い声だった。
やめんか愚か者ォッ!!!!
瞬間、あらゆる動きが停止した――というよりも、レナやフィエリア、見物人を含めて、その場にいた全ての人が身を縮こませたのだ。
慌てて目を走らせる。
そこには数人の武装した制服たちが立っていた。
全部で6人で、格好を見る限り街の武力警察なのだろうか。
その後ろから悠然と出てきた男を見て、横にいるフィエリアが小さく息を飲んだ。
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