第23話 part-f
相互ブクマ&相互評価とかやってるからね!!!!
基本的に高い評価しか付けないよ!!!!!
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[part-f]亜月(continued)
ん? と亜月が見る先には見覚えのある姿があった。
「セレンじゃないか」
「あれ、本当だ。やっほーいこっちこっちー」
美月がブンブン振ってみせると彼女はそれに気付き、相変わらずの笑みでやってくる。
歩くたびに金髪ブロンドのロングヘアが揺れるのを見ると、やや上機嫌なのが伝わってきた。
「ごめんねー、待ったかしら?」
「15分遅刻だな。ってか1人か? 大事な『みーくん』はドコに隠した?」
「まさか異次元の穴に呑まれて消えたとか」
「もしかして食べてしまったとか」
美月と亜月が深刻そうな表情を作ると、外から「んなワケあるかー!」とかいう叫び声が聞こえたような気がしたけど、たぶん気のせいだろう。
セレンは苦笑して、
「みーくんなら、ちゃんと後ろについてきたハズなんたけど――ちょっと『ワケアリ』で」
「わ、ワケアリ……?」
ぎく、と美月が身動きを凍らせる。さっきまで触れていた話題と同じ響きだったからだ。
セレンは頬に手を宛てる仕草で一笑し、
「そうなのよ。1階にある噴水広場のブース、見た?」
「あー、さっきからワーワー楽しそうにイベントやってたよね。興味なかったから見なかったけど。何かやってたの?」
そういえば、と亜月は思い出した。
ここカナル・ウォークと呼ばれるショッピングモールの1階には、円状に広がった憩いの場がある。中央には立派な噴水が設置されており、カップルや観光客はその周りで休めるようになっているのだが――今日に限って、何かの催し物によって貸し切られていたのである。
美月は街中を歩き回っていたせいでウダウダ言っていたし、どうせ覗いても面白いものは無いだろう――ということで素通りしてしまったのだが。
セレンは嬉しそうに、
「うん、実は小さなコンテストが開催されてたんだけど。そこにみーくんを出場させたの」
えぇっ!? と美月と亜月が立ち上がった。危うくタバコを落としそうになり、亜月が空中で拾う。
アイツが人前に出るなんて無茶だ! と口を揃えたところで、セレンは恍惚とした表情。
瞳が潤んでいるのは涙か、あるいは嗜虐心からの興奮だろうか――
「ふふ、みーくんってば必死に泣き叫んでて可愛いかったわ……」
「悪魔だ……亜月、目の前に悪魔がいるよ。嗜虐趣味の超級ドS魔女だったよこの人」
「実は私も驚いているところだ。ひとつだけ言ってもいいか? コイツはヤバいかも知れん」
「同感」
「で、みーくんは一体どうしてるんだね?」
ふふ、とセレンは後ろを振り返った。美月と亜月は目で追いかける。
視線の先が向かったは喫茶店の入り口だ。
店内のチャイムが鳴り、サービスの店員が「いらっしゃいませー」と応じた。ドアの横には観葉植物があり、陰からヒョッコリと「何か」が覗く。
(ん……誰だ今の?)
怪しげな人影はもう一度だけ葉の隙間から覗いたあと、あたかも恥ずかしがるようにして頭を引っ込める。
(小動物みたいなタイプの女の子、か?)
一拍、二拍すると、やがて諦めたように少女の白い脚が動いた。
植木鉢の影からあらわれたのはすらりとした美脚で、O脚とは無縁な感じがする。その先、胴へ続く部位にあるのは薄いピンク色のスカートだ。上に着ているのは水色の服で、首のあたりに白いレースの編み込みが見える。袖口から覗いた腕は細く、そこから覗く肌はやっぱりシルクのような白だ。
(パステルカラー系の組み合わせとは、これはまた何というハイセンスの持ち主だ)
身長は170前後だったからスタイルも良く、均整のとれた体つき。細身のせいで実際の背丈よりも華奢な印象を受ける。
思っていたよりもウエストが細いのが特徴で、スカートを押さえるベルトは白色だ。
頭の上にはカチューシャが置かれていて――という部分まで見たところで、亜月は唇から煙草を落とした。
ちゃぽん、と吸い殻が音を立てて珈琲へ沈む。
「あ――も、もしかしてコイツ……?」
遅れて入ってきた女の子は急に歩幅を大きくして猛然と椅子を引っ張り、ドスンと音を立てて着席。そのままの格好で無言のまま俯いた。
肩がチワワみたいにわなわなと震えている。唇が何か言いたそうに動くが、声は小さすぎて何を訴えているのかさえ分からない。
美月は目を見開いたまま、震える指で少女を指差し、
「も、もしかして―――――――――――ミオ、なの……?」
「はーい大正解♪ というワケでみーくん女装コンテストで優勝しちゃいましたー! いぇーい、ぱふぱふー♪」
「ま、マジで……?」美月が上擦った声で「替え玉とかじゃなく本気……?」
「そうよー? 専門のメイクの人がいてね、下地とファンデーションから綺麗にやってもらって、アイラインも引いたの。みーくん睫毛が長かったから、そこらへんはテキトーにいじっただけね。チークは恥ずかしがったから軽くつけてもらって、あとはグロス塗って完成よ?」
「どんだけクオリティ高いのよコイツは!」
「そうみたいねえ。なんだか化粧品の販促イベントらしくて。ほら、商品券こんなに貰っちゃったの。見て見て~」
セレンは懸賞の封筒から何枚かのチケットを取り出したが、美月は未だに信じられないという表情で少女(少年?)を眺めていた。
おいおい顎が開きっぱなしだぞ、と亜月が横で漏らす。
これは唖然というか、茫然というか――亜月はカップのコーヒーを啜って、灰の味に思わず咽こんだ。落ちたタールのせいでクソ不味くなっている。
それより男って化粧するとこんなに可愛くなるのか――という疑問が鎌首をもたげて、亜月は思わず首を横に振った。
いやいや落ち着け自分。どう考えても男の子がこんなに可愛いワケがない。
と思ってチラ見してみたけど、やっぱり外見はどう見ても女の子のそれだった。
美月が叫ぶ。
「ま、待って…あたしは信じないわよ! だって、こんな――」
「こんな――なぁに?」
セレンが首を傾ぐ。
その隣では、怒られた犬みたいな表情をしたミオが上目遣いで美月を見上げていた。
まるで「信じてくれ」と懇願するような瞳に殺され、少女は顔を真っ赤にして椅子にストンと落ちる。
セレンは口元を押さえつつ微苦笑して、隣にある少年(?)の頬を突ついた。
「喋ったら男の子だってバレちゃうでしょ? だからずっとこんな調子で黙らせてるの」
「それってある意味拷問でしょーが……で、午後はずっとこんな感じなの? つまり――この格好で行動するつもりだったの?」
ミオは前のめりになって首を横に振った。髪の毛にカールが掛けられているらしく、横へ動くたびに大きく揺れる。というか涙目のまま両手をブンブン振ると、もう仕草が女の子にしか見えない。
可哀想に……セレンからいっぱい虐待されたんだろうなとか思っていると、ウェイトレスが珈琲カップを新しいものに交換してくれる。亜月は珈琲のお代わりへ手を伸ばした。
「まぁ、なかなか似合ってるぞ、少年。それじゃあ動きにくいだろ。とりあえず着替えてこい」
「えー。せっかく可愛いカッコしてるのにぃ」セレンが唇を尖らせる。
「いいけど、今から男の子版みーくんを見たらきっと惚れるぞ」
「うーん。それもそうねえ……じゃあ着替えてもらおうかしら。場所は分かる? それとも女子トイレでお着替え手伝おっか?」
それじゃ逮捕されるだろ、と亜月は言ったがセレンはそれを無視した。
女装したミオは首をブンブン横に振って、次は縦へコクコク頷く合図。どうやら場所は分かっているらしい。
テーブルの脇に置かれていた紙袋を猛然と掴むと、ミオは大股で喫茶店の外へ出ていった。
……よっぽど女装が嫌だったんだろうな。
はぁと嘆息して、
「美月。顔が真っ赤だぞ」
「あ、赤くなんてないわよ!」
「あらあら美月ちゃん、みーくんのこと好きになっちゃった?」
「なりませんー! だいたいアイツはセレンの持ち物でしょ! 今さら泥棒猫みたいな真似しませんから!」
「ホントはしたいんだー?」
「違うー! なんで2人してからかうのよー!」
美月は一喝するとコップに入ったお冷やを一気に飲み干した。
居酒屋だったら「これが飲まずにやってられるか!」とでも言いたい気分に違いない。残念ながら美月は未成年だったが。
亜月は頭を掻きつつ煙を吐いて、
「で、午後はどうするんだね? ここまで来たら帰るワケにも行くまい」
「うん、それでね。さっき貰った商品券なんだけど、センターシティの水族館でも使えるらしいのよ」
「センターシティ? あぁ、あの80階建ての高層ビルか」
「たしか屋上に水族館があるんだっけ?」美月が口を挟む。
「大人2人と学生2人で入ってもまだ余裕があるし、水族館に行って、それからみんなで夕ごはんを食べてから帰ろうかなって思ってるの。いーい?」
「あたしは賛成ー!」
真っ先に美月が飛び上がる。
内心で呆れながらも、ならば仕方ない、と亜月は吐息。腕を組む。
どのみちケープタウンに巣食った統一連合の勢力は、自分たちだけではどうにも出来ない問題だ。こっちは生身の人間が3人、向こうは500以上の兵士たちと100機以上のAOFを保有しているのだから。
「分かった。そうしよう」亜月は静かに言った。
「じゃあ決まりね♪」
笑みとともに言う先、男の格好に戻ったミオが息せききって帰ってきた。
どうやら着替えは済ませたらしく、ドスンと椅子に座る。
美月はポカンとした表情で、
「……今度は男装?」
「んなワケあるかっ!!」
今度は美月が首を絞め上げられていた。
part-fまできたのでここでいったん第23話を切ります。
あんまり気にしてなかったんですが「話数の数字をなんで半角数字にしないの?」って思いました。
でも実際使ってみると全角数字の方が文字サイズが変わらないので使いやすいんですよ、これがね。
お疲れ様でした。




