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黎撃のインフィニティ  作者: いーちゃん
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第18話 part-c

 港町から林道を越え、ミオとセレンは「第六地区」と呼ばれる旧市街区域へ到達した。

 第六地区、という名前を耳にして、古い記憶を辿るミオ。思い出したのはAOF<オルウェントクランツ>を奪取した第六施設島だ。

「みーくん、大丈夫? 考えごとしてた?」

「あぁ……少しだけ、な」

 買い物をする間、ミオとセレンは別行動になる。集合は1時間後だ。

 そういえば――と周辺を見渡した際、ミオは発見する。

 街のはずれ。郊外にある小高い丘の上。周辺が森となっている場所には、白亜をした建物の一角が見える。ちょうど木の隙間から見えたそれはガラス張りの窓とコンクリート造りの立派な建造物だ。

[part-c]ミオ


 研究施設の敷地を取り囲むように立った2メートルの柵はその上に有刺鉄線を掲げており、金網の向こう側に建物の入り口が見えた。

 乗り越えるのは危険だろうな――と踏んだミオは柵の周囲をぐるぐる歩き回る。見つけたのは、身を屈めれば大人がひとりぶんだけ通過できそうな穴だ。草の茂みに隠れて目立たない位置の網がペンチによって切られており、そこから侵入できるようになっている。

(入ってみるか……?)

 峻巡する。

 研究施設の中には何が居るか分からない。特務のメンバーに遭遇できれば話は早いのだが、もしもそれ以外の相手と出会った場合、つまり敵だったときは面倒なことになる。メンバーの名前も顔も知らないのが厄介である。

 護身用に――と胸ポケットへ手を伸ばしたところで、ミオはようやく気がついた。

 レインコートの男に自動拳銃とナイフを奪われてから、ミオは完全に丸腰の状態なのだ。すっかり忘れていた。

 自分の阿呆さ加減に思わず溜め息が出て、

(仕方ない。今日のところは引いておくか――と。ん?)

 ミオはそこで3種類の音を耳にした。

 1つは、飛行機が低空を飛んでいるときに聴こえるような高周波音。

 空気の塊を重く切り裂くようなそれは共鳴音で、しかし距離が近いようにも感じる。

 2つは、金属どうしが激しくぶつかるような打撃の音だ。

 そして3つ目の音がした。それは爆発音。

 次の瞬間、疑問の答えを欲するようにミオは見た。

 自分の周囲に出来た黒い影を。足元から半径1メートルに出来たのは黒い闇だ。

 ――何故、という問いを放つより早く天を見上げる。

「って、おい! マジで冗談じゃね――――!!」

 20メートル近くの大きさを持つ鋼鉄の巨躯が、ミオの真上へ落下してきたのだ。しかも自由落下の速度で。

 少年の身体が慌てて木々の間へ飛び込むと、深い青色の機体はタイミング良く山の斜面へ激突した。樹木たちが薙ぎ倒される破砕音と、それと同時に起こったのは大地が引っ剥がされるような轟音――青い機体は斜面の茶けた大地へ引きずられつつ起き上がると、すぐに態勢を整えた。

 露出したのは茶色い大地だ。コンマ数秒でも反応が遅れていたら間違いなくミンチにされていた。おそらく出荷が見送られるほど跡形もなくなっていただろう。

 樹木の間から立ち上がるのは青色の巨躯。金属製の装甲を持つそれは――

「バカな…どうしてAOFがこんな場所に居るんだ。しかもあれは――」

 先ほど旧市街地のメインストリートで見た骨董品(オンボロ)なんかより、遥かに先進した機体である。その鋭角的なフォルムは現在の量産ラインに載せられている<エーラント>、<ヴィーア>に共通している箇所があった。

 したがって第三世代のフレームだと推察して間違いないだろう。

「第三世代の機体が、なんでこんな場所にいるんだよ!」

 あんなものに町が攻められたら――とまで考えて、ミオは背筋が寒くなった。

 第二世代の旧式AOFと第三世代のそれでは、戦闘力の差が圧倒的すぎるのだ。扱うことのできる武器の火力による違いも大きいが、装甲や機動性、その他のあらゆる性能において第三世代の機体が遥かにリードしている。文字通りに桁が違うほどの差がある。

『そこの民間人、何をしている! さっさと逃げたまえ!』

 外部スピーカーから発せられた声は男のものだ。

 ミオは我に返る。

 青色の機体は背部のブースターに点火、地面を蹴って空へ。

 握られた実弾系ライフルの引き金を絞ると、猛烈な速射が放たれた。

 銃口の先にあるのは高高度を飛翔中の黄色機体。かなりスマートな見た目で、射線を見事な回避とともにかいくぐってゆく。

(すごい。軍の所属機じゃないのに、こんな動きが出来る連中がいたのか……)

 黄色は相手の射撃をひととおり避け切ると、今度は加速とともに急接近。背面から抜き放ったのは実体のブレードだ。

 下から鋼刃を跳ね上げるような動き。

 反応が遅れた青色は間一髪のところでシールドのついた腕を押し出し、一撃を防ぎきる。

 ――が。

『甘ェんだよォッ!!』

 次に響いたのは若い男の声だ。

 シールドが真っ二つに折られ、青い機体は危ういところで緊急回避。ブーストを噴かして相手との距離を取る。その動きを黄色が追ったところで、ミオは2機を見失った。

 視界の邪魔をするのは樹木の群れだ。ここからだと動きを追えない。

(ん……アイツらもしかして旧市街地へ行ったのか!?)

 胸騒ぎがする。

 ミオは沈黙した。追うべきか、追わざるべきか。

 普段の自分なら「どうでもいい」という一言をもって切り捨てていただろう。

 他人が死のうが、誰が泣き叫ぼうが――自分には関係ない。

 耳を塞いで目も塞いで、そうすれば誰が悲しもうと関係ない。

 なのに、どうしてか今は。

(セレン――!)

 気付いた時には、ミオは斜面を駆け下りていた。



 旧市街地にて研究施設とおぼしき建物を発見したミオ。

 特務7班はここで消息を絶ったのか?

 有刺鉄線で仕切られた敷地へ侵入を試みたミオ。だがそれとタイミングを同じくして、空から高周波音が降ってきた。

「って、おい! マジで冗談じゃね――――!!」

 20メートル近くの大きさを持つ鋼鉄の巨躯が、ミオの真上へ落下してきたのだ。

 AOFはおそらく傭兵のものだろう――第三世代型の青と黄色のAOFは丘の斜面で戦闘を行ったのち、市街地の方へ向かう。

(セレン――!)

 気付いた時には、ミオは斜面を駆け下りていた。

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