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黎撃のインフィニティ  作者: いーちゃん
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第14話 part-a

 激闘を繰り広げる空の下、特機<ヴィーア>を駆るレゼア・レクラムは戦闘を繰り広げていた。

[part-A]イアル


 こんチクショー、と奥歯の隙間から猛犬のような唸り声を洩らした。

 イアルは素早くスロットルを掴み、フットペダルを蹴り込む。

 機体が立っているのは瓦礫の上だ。崩れたブロック片や破砕物は足場を不安定にさせる。

 彼が感じたのは重力への反発。得たのは浮遊だ。

 <エーラント>は素早く長砲身狙撃ライフルを掴むと、黒い機体めがけてトリガーを絞った。砲の先端から放たれたのは超高硬度鋼で出来た砲弾だ。装甲貫通弾――もしくは "フルメタル" とも渾名される実弾は、命中すれば戦艦の横っ腹をブチ抜くほどの威力を持っている。

 イアル・マークタレスの駆る<エーラント>は、一般的な量産機に砲戦型の装備をカスタムした機体である。使用するのは全てが実弾兵器であり、よほどのことが無ければ近接戦闘の武器は持たない。砂漠色の装甲にカラーリングされていて、背面には巨大なポッドが、腰部にはショットガンがマウントされている。

 彼はAOF同士の戦闘において近接戦闘を行わなかった。接近戦は同僚であるフィエリアに任せ、自分はひたすら援護と遠距離戦に徹する――それが彼らの「役割分担」だ。

 チラと僚機へ目をやる。相方の<エーラント>はエネルギー切れを起こし、すでに動けなくなっていた。

 敵へ視線を戻す。引いたのはトリガーだ。

「――当たれよ!!」

 2射目の砲撃。

 砲弾はビルの隙間を縫う敵機の左脇をかすめ、その背後にある建物にブチ込まれた。建物の3棟ぶんを悠に貫通するレベルの威力だ。

「チィッ、どうなってんだよ! さっきまでは支援機だったろうが!」

 それが何で――と強く吐き捨てる。

 目の前にいる黒い機体は先ほどとは違い、随分とスマートな形態に変貌していた。バックパックや脚部装備の全てを脱ぎ捨て、拳にはジェットのような推進力を持つグローブが填められている。まるでプロボクサーを模した装備である。

 敵の<ヴィーア>は変形したのだ。フィエリアの放った最後の太刀は敵機の両腕を奪い去ったが、<ヴィーア>は背面にある弾切れのミサイルポッドを変形させ、新たな腕として装備したのである。

「いやいやどんな装備だよ一体! ボクサーパーツって名前は聞いたことあるが、実物を見るのは始めてなんでなぁ!」

 慌ててツッコミをいれた。

 黒い機体はブーストを噴かして急接近してくる。

 イアルは慌てて建物の影へ飛び込んだ。

 何かが爆砕する音――それは楯となった建造物が激しく抉られ、重い拳が壁をぶち壊す音だった。

 間一髪のところでパンチの攻撃を回避し、イアルは長砲身ライフルで壁ごと相手をブチ抜く。

 放ったのは2発。

 大穴が開き、今度こそ建物が木端微塵に砕かれた。12階建てのビルは土台から大きくバランスを失うと、その上体を大きく捩じらせる。ガラス音と同時にアスファルトへ崩落して――圧砕。粉々になる音は大合唱だ。

 土砂崩れのように倒壊した建物の奥には敵が居た。

 黒い装甲をした<ヴィーア>である。

「いやあ困ったぜ。まさかこれほど余力を残してるとは思わなかった」

『それは結構だ、まだ戦えるか。降参したって構わんのだぞ? どのみち停戦交渉は失敗だからな』

「それが最初から狙いだったろ。停戦を申し出て俺たちをおびき寄せ、集まったところをフルボッコかよ。随分と卑怯な気がするぜ。正直なところ見損なったよクソ野郎」

 敵の<ヴィーア>は作戦領域のド真ん中、そびえ立つ摩天楼へ機首を傾いだ。

 停戦の交渉は失敗に終わった。ASEEがみずから停戦を申し出、そしてみずから台無しにしたのだ。

 笑い話じゃねえか、とイアルは思った。

 今まで防戦一方の姿勢でいた統一連合は今回の1件から本気でASEEを潰しに掛かるだろう――今ごろはイアル達とは別の部隊が、世界各地に展開するASEEの基地へ侵攻を掛け始める頃だ。作戦もいよいよ本腰になる。そうなれば犠牲者の数も増えてくるだろう。

 まったくバカな話だ、と彼は思った。自業自得としか言いようがない。しかし、仮に本格的な戦争が始まったとしても数日で終わるだろうとイアルは考えていた。ASEEと統一連合には、実質的にそれくらいの戦力差がある。せいぜい1ヶ月とか、それだけ保てば充分だろう。

 交渉役を乗せたヘリは、味方の<エーラント>たちに護衛されつつ作戦領域の外へ向かっている。

 ASEEの負けだ。つまり作戦上では俺たちの勝利――と思ったところで、イアルは口元に薄い笑みを浮かべた。

 長砲身のライフルを掲げてみせる。

「――さて、じゃあお望み通り続きをやろうぜ」

『大丈夫なのか? もう勝負はついたようなモンんだぞ』

「知るかよ、俺たちの決着は付いてねーだろ。まだまだ余裕は残ってる」

『奇遇だな。私もまだ暴れ足りないところでね』

「話が早くて助かるぜ。俺もそろそろ連合のエースと呼ばれたくて仕方ないんだ。ちィと悪いがアンタには出世の踏み台になってもらうぜ」

 イアルはバックパックから予備弾倉を繰り出し、素早い動きで入れ替えた。

 予備の弾倉を使うハメになったのは今回が初めてだ。ここまで長い時間を戦った経験は無い。AOFどうしの戦闘は、規模にもよるが普通ならば数分で終わってしまう――特に少数対少数の時はそうだ。操縦主の力量差と機体性能の差が明白に現れるため、AOFは長時間戦闘をベースに考えた設計をしていないのだ。

 素早く砲身を構え、照準。発射。

 敵の<ヴィーア>は後方へステップを踏んで砲弾を回避。

「どーしたどーしたァ、接近戦仕様じゃなかったのか? まさかチビってんのかー!」

『うむ。さっきから股がビショビショだ』

「え……っ!?」

『冗談に決まってるだろ、バカめ!』

「ほゲ――――!?」

 一瞬の油断に気を抜かれ、巨大な拳が<エーラント>の頭上を掠った。

 膝を折る動きで危うく回避。イアルは武器をショットガンに持ち替えると2発、3発を立て続けに発砲。

 対する<ヴィーア>は跳躍とともに建物を盾として隠れ、散弾を無効化して攻撃を逃れる。

 そこで敵が踏んだのは2段目の跳躍だ。

 向かうベクトルは上――アスファルトを強く蹴り飛ばすと、機影はビルの群れから空へ抜けた。

 刹那、イアルは自機が照準されたことを知る。短い警告の電子音が、敵が射撃武器を構えたことを知らせてくれた。

『これなら受けきれまい!』

「なんだっ!? 射撃兵装なんて持ってないハズじゃ――」

『飛ばっせ~! 鉄っ拳~! ロケットパン~チ~!!』

 空へ飛んだ姿勢のまま――右の拳を繰り出す。

 ホールドされていたグローブが、まるでジェット機のような推進力と加速を得て――――――飛んだ。

 イアルは想定外の事態に「はぁ!?」とおもいっきり叫声。

 まっすぐ飛翔してきた右の拳を装甲スレスレで避け、

「ウソだろ!? パンチが飛ぶとか聞いてねーぞ!?」

『今~だ~! 出すんだ~!』

「オイオイそれ以上は著作権的な意味で危ないからやめろしかも必殺技出す気だろテメエ!!」

『ブ~レストファイ~』

「やめろォ――――!!!!」

『そんなもん出るわけ無いだろバ――カ!!』

 今度は左の拳が飛んできた。

 身動きを失っていたイアルの<エーラント>は直撃を受け、後ろへ大きく仰け反った。「こんチクショ――――――!!」という喚き声が世界の中心で叫ばれた気もしたが、敵はそれを無視して瓦礫の山へ着地する。

 装甲へモロにダメージを喰らい、彼の機体が示すパラメータは


 装甲値  1325 / 6200


 その下には赤色で[大破]の文字。それと並んで撤退を勧告するメッセージ文が浮かぶ。

「くっそ……まさかここまでコケにされるとは思ってなかったぜ」

『私を本気にさせない方が良かったな。まだ戦うなら付き合うぞ?』

「遠慮しとくよ。アンタ強えーな」

『だろう? またいつでも相手をしてやる』

 そうだな――と頷いて、イアルの<エーラント>はしゃがんだ姿勢のまま動かなくなった。エネルギー切れを起こしたのだ。

 モードがアクティブから休止(パッシブ)へ移行する。


 停止した機体の上、空ではまだ激戦が繰り広げられていた。

「ちィと悪いが、アンタには出世の踏み台になってもらうぜ」

 飄々と言いながら戦闘を続けるイアル・マクターレス。

 砲撃型<エーラント>の残弾は余裕こそないものの、暴れたりないのは相手も同様だ。

 倒したと思った<ヴィーア>は、まさかの支援機から格闘機へと変形した。

 装甲へモロにダメージをもらった<エーラント>はダウンし、活動限界を迎える。


 一方、空では激戦が繰り広げられていた。

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