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先にレナが牢から出された。レナは「どこ行くの? 外に出られるなら、彼女も一緒に!!」と私を指さしていたが、そんな願いは受け入れられることはなかった。
何が起こるのか私たちには全く分からなかった。良いことが起きるのか、悪いことが起きるのかすらも。
ただ目の前で強引にレナが連れていかれた。
私はひたすらレナの帰りを待った。数日経っても、レナは戻ってこなかった。だけど、待ち続けた。
レナが殺されてたらどうしよう、拷問を受けていたらどうしよう、そんな不安を必死でかき消した。どうかレナが帰ってきますように、と。
二週間ほど経った頃だった、レナが戻ってきた。……変わり果てた姿で。
すぐにレナかどうか分からなかった。
髪はぼさぼさで、身体中の鱗が剝がされており、酷く痩せこけた痛々しい姿だった。目に光が泣く、顔は絶望に覆われていた。これほどレナを苦しめた連中を私は許せなかった。
レナを牢に戻した男は低い声で「次はお前だ」と私の方へと視線を向けた後、去っていった。
………私の番。
恐怖で震えそうだったが、その時はレナのことの方が心配で自分のことなど後回しだった。
『レナ! しっかりして!! 今すぐここから逃げ出すよ!』
『……ミミ』
彼女はもう自分の力では起き上がれないほど、弱り切っていた。彼女の薄っすらと開いた目が私をしっかりと見つめていた。
『どうか逃げて』
『……貴女を置いていけるわけないじゃない』
『私はもう助からない。……ミミ、私の分の夢も叶えて。ミミなら必ず主を見つけられるわ』
『ダメよ、レナ。しっかりして。見捨てることなんてできない。一緒にここを出るのよ』
そう言った私に、レナは私の胸ぐらを掴んで強い口調で言葉を発した。
『生ぬるいこと言わないで。私の二の舞になってどうするの。ミミはまだここから逃げ出せるでしょ?』
その言葉が私の心に突き刺さった。そして、私はレナを置いて牢から逃げ出した。
逃げ出した時のこともはっきりと覚えていない。……ただ、決して捕まるものかと死に物狂いで走ったのは覚えている。
「ねぇ、どうかした?」
澄んだ声が耳に響き、ハッと我に返った。
つい、昔のことを思い出してしまっていた。
「いえ、何も……。あの、名はなんと?」
私はまだ名前を聞いていなかったことに気付き、そう聞いた。聖女は「名前を教えたら、勝手に契約結ばれたりしちゃう?」と少し怪訝そうに私を見る。
スネークマンが従者となることをそんなに嫌がるなんて珍しい。多くの者は泣いて喜ぶのに……。
手荒な真似をして、主従関係を結ばせようとする者だっている。傷つけ、追い込み、脅迫したりして……。それほどまでして得たい力が私たちにはある。
私は今までそんなものには一度も屈しなかった。
「しませんよ」
聖女の言葉に私は思わずフッと軽く笑ってしまった。
「……ケイト・シルヴィ。……この国にいるのに、聖女の名を知らないんだね」
彼女は名を名乗ってから、少し驚いたように私を見つめた。
「外の情報には疎くて。……ただ、聖女の噂に関しては少し聞いたことがある程度です」
「良い噂なんて一つもなかったでしょ~~」
彼女の明るい笑みに不思議な魅力を感じた。




