第23話　犬の正しい育て方（流星side）

「任務を開始する。準備はいいか？」

「――はい」

　支給された服に着替え終わったカガミは、固い表情をしている。

　この前までのほんわかとした雰囲気はもうない。

　俺との間に生まれた軋轢によって、いい緊張感が生まれている。

　舞浜桜の一件から、俺達はほとんど喋っていない。

　喋っていたとしても、それは日常生活を送る上で最低限の会話。もしくは、業務上の会話だけだ。

「今回俺は別件があってお前のサポートはできない。なので、別の人間をつける」

「え？」

　動揺したカガミを見やって、久しぶりに感情の揺らぎを見たが話を続ける。

「『猟犬』という女だ。少々――いや、かなり変わってはいるが、頼りになる奴だ。そいつと一緒の任務についてもらう」

「分かりました」

「詳細は『猟犬』に質問しろ。資料は渡しておく」

　前回の舞浜桜の任務については詳細は教えなかった。

　あれは任務の特性上仕方なかったのだ。

　だが、今回はちゃんと教えてやることにする。

　あまりにも教えないせいで、任務失敗なんてことになったら目も当てられない。

「――また、人殺しの仕事ですか」

「……今回の上官は俺じゃない。『猟犬』に質問しろ」

　随分とトラウマになっているらしいな。

　だが、どう転ぶかは俺にも分からない。

　世間的には人殺し集団と思われているかもしれない。

　だが、俺達『アンダードック』は殺したくて殺している訳じゃない。

　結果的にそうなっているだけだ。

　敵が抵抗すれば、そいつを殺さなくてはいけないかも知れない。

　今回のように護衛対象が命の危険にさらされた場合などは、特にだ。

「今後は色々な人間と組んでもらう。俺も本来は忙しい身だ。これからはずっとお前と一緒に組めるとは限らない。今の内に他の『アンダードック』との仕事に慣れておけ」

「……私はあなたと組みたくないです」

　濁ったいい目をしている。

　どうやら『アンダードック』らしくなっているらしい。

「いい度胸ではあるが、あまり上の人間に舐めた態度を取るな。立場上、お前に罰を与えなくてはいけなくなる」

「…………」

「それでは今回の上官の元に案内しよう。いくぞ『癒し手』」

「了解しました。――『流星』」

　俺達はかつてのような仲にはなれないだろう。

　だがこれでいい。

　甘さを捨てろ。

　俺達はそんな生温い世界じゃ生きていないのだ。

「？　おい」

　『癒し手』がスマホを忘れている。

　先に行こうとしていたので呼び止める。

「ほら」

「ありがとうございます」

　スマホにプリクラの写真が貼ってあった。

　友達との思い出の写真だ。

　身に着けていれば余計に苦しくなるはずのに、貼っているのか。

　本当にいい度胸だ。

　自分が殺した罪から逃れるつもりはないらしい。

　自分の弱さから逃げないこいつはきっと強くなる。

　これでいい。

　今のところ俺の考え通りに動いている。

　こいつを立派な異世界人の犬に育ててやろう。