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令嬢勇者  ~断罪された侯爵令嬢に転移してしまった俺は、生き返った本人と身体を共有することになったので、わたくしたち最強を目指します~  作者: くまひこ
第4章 今さら謝られても、わたくしフィメール王国には絶対に帰りません

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第87話 アスター分家領奪還作戦(後編)

 俺はアンリエット、ジャン、ケン、バンやアスター伯爵以下分家たちを集め、今から行う作戦を伝えた。だが話を聞いたみんなは怪訝な表情を示す。


「本当にそんなことができるのか、ローレシア」


「たぶんできます。あなたのカタストロフィー・フォトンもちゃんと防ぎきることが出来たでしょ。その応用です」


「なるほど。だがそれ以外の魔法は大丈夫なのか?」


「わかりません。だからここで試してみるのです」


「ぶっつけ本番という訳か。まあいい、ここはお前に任せるぞ、ローレシア」


「元お父様のくせに随分偉そうな口を叩くのですね。今はわたくしが当主なのをお忘れですか」


「ふん、そっちこそ偉そうに・・・だがお前に家督を譲ったのだから、命令には従うよ」


「では皆様、今わたくしが申し上げたことを配下の騎士に指示したら、またこちらに戻ってください。すぐに作戦を実行します」


「「「はっ!」」」






 冬の冷たい空気が首筋をなでて身体が凍りつくように寒い。だが俺たちが寒いなら、この平原に潜んでいるであろう敵兵も寒いはず。アスター家の分家たちが全員配置についたことを確認すると、かじかんだ手を擦りながら、俺は作戦を実行する。


「アスター家の皆様、魔法の詠唱を始めてください」


 伯爵や分家たちに指示を出すと、俺も闇のティアラに軽く手を触れて詠唱を開始する。


 アカデミーの遠足の優勝賞品である闇のティアラ、そして指にはめた金剛石の指輪。この2つは俺の貧弱な闇属性魔法を何倍にも増幅し、一流の闇魔法師のように魔法が行使できる破格のレアアイテムたちだ。


 こいつの力を今回は最大限に利用する。


 ここから分家領まではまだかなりの距離があり、敵が潜んでいると思われる場所までは、双方ともに矢も魔法も届かない。だがこの2つのアイテムを使えば、小さなワームホールならギリギリ到達するはず。


 人間みたいな重いものはとても送り込むことはできないが、俺は魔力を振り絞って、敵兵のはるか上空に小さなワームホールを出現させる。



 【闇属性魔法・ワームホール】



 俺の目の前にも対となる闇の球体が出現し、これで2つの場所が繋がった。この状態が維持されている間が勝負だ。


「今です!」



 【光属性魔法・ライトニング】



 闇の球体を囲むように半円状に並んだアスター家の面々は、闇の球体に向けて色んな角度から同時にライトニングの光を放った。すると闇の球体を通った光が出口となる遠方の球体から出てきて、あたり一面をまばゆい光で照射した。


 照明弾だ。


 領地の近くの暗がりがそこだけまるで昼間のように照らし出され、そこにはやはり多くに敵兵が潜んで待ち構えていたのだ。


 おそらく救援要請を受けた敵軍は、こちらを狙ってくることを予想していたのだろう。暗がりには騎馬兵をまとめて串刺しにできるような大型の杭が多数並べられ、その後ろに敵騎馬兵が潜んで逆撃を加える作戦だったようだ。


 だが、この照明弾によって敵の位置は全て丸裸になったため、その罠はもう通用しない。


「全軍、突撃開始っ!」


 150騎の騎士たちが敵軍めがけて突撃する。だが敵兵に接触するまでまだ距離があるため、先に敵兵力をできるだけ損耗させていく。


「アンリエット、フレアーをこのワームホールめがけて撃ち込んでください」


「本当によろしいのですか、お嬢様?」


「フレアーは炎の核が爆散して周囲に炎熱を発生させる魔法だから、核をワームホールで転移させるのよ。ジャン達も質量が小さくて破壊力のある魔法なら飛ばせるかもしれないから、いろいろと試してみてくださいませ!」




 俺は、敵のたくさんいる地点に新たなワームホールの出口を出現させる。


「今よ!」



 【火属性魔法・フレアー】



 アンリエットがフレアーを唱えると、赤い炎の核がワームホールを通り抜けて敵兵のど真ん中に着弾。


 巨大な炎熱魔法がさく裂し、大爆発を起こした。



「アンリエット! うまく行きました」


「はい、お嬢様!」


「続けてどんどん魔法を撃ち込んでくださいませ!」



 【雷属性魔法・サンダーストーム】



 俺の前の闇の球体の上に魔方陣が出現し、サンダーストームが起動。俺は慌てて球体から離れて闇の球体に電撃の雨が降るのを見ていたが、敵側のワームホールの出口からはそのうちの数本しか放出されず、効果は思ったよりも小さかった。


 これはイマイチだったな。



 【水属性魔法・アイスジャベリン】



 次にバンの作った鋭い氷の矢は、俺の前の闇の球体に突き刺さり、それを破壊した。


「もうっ! そんなに大質量のものはダメって言ったでしょっ!」


「すみませんでしたお嬢様・・・でも質量ってなんですか?」


「・・・ごめんなさい。質量とは物の重さのことよ」


「なんだそういう意味か。うーん、だったら水属性魔法にはいい魔法が見当たらないな」


「お嬢、土属性魔法にも見当たりません」


「わかりました。ジャン、ケン、バンはここはもういいから、敵に突撃なさい」


「「「はっ!」」」


「アンリエットはわたくしとここにいて、一緒に遠隔攻撃をいたしましょう。次は右の端の方に隠れている人たちがいたので、そこを丸焼きにしましょうね」


「はい・・・お嬢様!」





 後はこの繰り返しだ。ワームホールの寿命が尽きればまた新たなものを作り、アスター家のライトニングによって敵の上空には常に照明弾が輝いている状態を作り出す。敵が移動すればもちろん追尾する。


 そして、より低空にはアンリエットのフレアー専用のワームホールが、哀れな獲物を求めて徘徊する。


 俺たちは常に安全な場所からの攻撃ができ、敵は防ぎようのない理不尽な暴力を一方的に受ける。そして騎士団150騎からも矢が雨のように降り注ぎ、敵は我が騎士団の位置が暗くて見えないため、反撃したくてもどうしようもない。


 騎士団が到達する頃には敵は戦意を喪失しており、俺は敵が制圧される様子を遠くからのんびり眺めているだけだった。


 アスター家のみんなにも敵制圧に加わるように指示すると、ここに残されたのは俺とアンリエットの二人だけとなった。



「アンリエットのおかげで、随分と簡単に戦いが終わりましたね」


「いや、ナツのワームホールがあったからこそ勝てたようなものだ」


「ケンの雷魔法はイマイチでしたし、ジャンとバンは問題外。わたくしとアンリエットの魔法の相性が良かったのよ。まるでわたくしたちみたいですね」


「ナツ・・・私はナツの役に立っているのだろうか」


「もちろん! だからこうしてこの戦いを楽に勝利することができました」


「だがそれは、私がナツにしてあげたことではない」


「わたくしにしてあげること?」




「私はナツにブライト家を救ってもらった。救援がもう少し遅れれば城は陥落し、お父様は殺され、騎士団も壊滅していただろう。そしてその救援も、ローレシアお嬢様がお手上げのところを、ナツがアスター伯爵から強引に領地を奪い取ったおかげで間に合った。臣下のためにそこまでして助けてくれる主君など普通いない」


「わたくしはアンリエットの友人であって、主君ではございません。貴族としての常識もありませんので、ローレシアからやりすぎだって、怒られてしまいましたからね」


「そうだ! ナツはいつもやり過ぎなんだ。だから、そこまでして助けられた私は、これからどうやって恩を返せばいいのだ! それが分からないのよ・・・」


「そんなもの返さなくてもいいのですよ」


「ダメだ! それでは自分自身が許せない。それに、昼間の戦いで公爵軍を消し去ったあのカタストロフィー・フォトン。たぶん初めて人を殺したのではないのか。ナツは戦争のない平和な国に住んでいたと言っていたからな。私はナツにそんな覚悟までさせてしまったのだ」


「あれは確かに覚悟がいりました。でもそれは安易に領地を奪い取った自分自身の浅はかさに対する罰のようなものです。アンリエットが気にすることではございません」


「気にする! それが全て我がブライト家を助けるために起こったできごとだから、全て私のせいなのだ。だから教えてくれ。私はどうやったらナツに恩を返せるのだ、頼むから教えてほしい・・・」


「アンリエット・・・。ではこの先もずっとローレシアの側にいて、彼女を守ってあげてください。それがわたくしへの恩返しということにしましょう」


「・・・それはナツの側にずっといろということか」


「・・・結果的にそうなりますね。わたくしとローレシアは、もう分かれることがございませんので」


「そうか! では私はナツの側から一生離れないことを騎士の誓いとして立てよう。別に間違ってはいないよな」


「そ、そうですね。別に間違ってはいませんが、誓いを立てる相手が違うような」


「ローレシアお嬢様には既に誓いを立てているので、最早必要はないだろう。だからこれから行うことは、ナツに対する誓いだ」




 そう言って、アンリエットは地面に膝を立てると、胸に手をやって真っ直ぐに俺を見据えた。


「私、アンリエット・ブライトは、この生涯を通してナツに忠誠を誓い、この心、この身体、この命の全てをあなたに捧げます」


 アンリエットがそう言うと、赤い魔力のオーラが身体から浮かび上がり、俺の身体を優しく抱きしめるように包み込んでいった。


 しばらく身体全体をふわふわと触れていた後、その赤いオーラは俺の身体の中にすっと入っていった。


 心臓に手を当てると、まるでそこにアンリエットがいるかのように、優しくて頼もしい気持ちに心が満たされた。


「アンリエット・・・あなたはそこまで」


 俺がゆっくり近づくと、アンリエットも地面から立ち上がって俺の方にゆっくりと近づいてくる。そして両手を広げ俺を強く抱きしめた。


「このアンリエット、死ぬまでナツのお側にいます。だから今しばらくこうして抱きしめさせてください」




 凍りつくような冬の寒さはもう感じない。


 そこにはただ、アンリエットに抱きしめられた暖かさだけがあった。

次回、ナツが眠っている間に、ローレシアとアンリエットが再び話し合います


ご期待ください

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