お墓参りには花持って来いや~
ルー先生の剣術の訓練も順調。
今日もいつものようにリシャール邸の広々した庭で訓練中。
私の訓練中はシュガーも自分の訓練とばかりに庭中駆け回って庭師のカントさんをヤキモキさせている。
カントさんには申し訳ないが、子犬はやっぱり外で走り回らなきゃね。
良く食べ、良く寝て、良く運動をするシュガーは順調に育って一回り大きくなった。
そして、私の剣士服姿もなかなか様になってきたんじゃないかと思う今日この頃。
ちなみに、お兄様のお古です。
最初は体力がなくて10分も経たないうちにへばってたけど、一週間もするとだいぶ慣れ、一カ月たった今ではルー先生と剣を交えるまでに成長した。
ルー先生は私の護衛も兼ねているのでこの屋敷の従者の部屋に住み込みだ。
あれからアンドレお兄様は身の危険を感じたらしく、必要以上にルー先生に近づかなくなった。
部屋には鍵と結界を張って自衛しているようだ。
うん、自分の身は自分で守る、これ鉄則ね。
リシャール邸の侍女達も最初はルー先生の美男子ぶりに我先にと世話をしたがったが炸裂するオネエ言葉にだんだん女友達のように接するようになった。
かく言う私もその一人。
「マリア様。剣を振る体力と太刀筋も良くなってきたので明日から魔法の訓練を始めましょう。今日の午後は王家の墓地に行くのよね?」
そう、今日は私の四十九日なのだ。
まあ、この世界に四十九日という概念は無いけどね。
もと日本人としては故人の供養をキチンとしたいものね。
それに、墓地に埋葬されているのは私の遺体だけど、天に召されたのはマリアーナの魂だもの。
この世界でひっそりと亡くなった私と私のお墓参りなのだ。
「はい。そうです。ルー先生と初めてのお出かけですね。よろしくお願いします」
「あんもう、可愛いわね。やっぱり可愛いは正義だわ! 写真撮って売ったら儲かるわよ」
「何言ってるんですか、ルー先生。ルー先生の写真の方が馬鹿売れしますよ。だって見た目だけなら一級品ですもの」
「見た目だけって…」
「あ、すみません。つい本音が出ちゃいました」
「本音って、もう、重ね重ね失礼な発言ね。悪い子にはお仕置きよ!」
ルー先生はそう言って私の頬を両手で摘みビヨーンと伸ばした。
「ひゃー、やめてくらはい」
子供のほっぺは良く延びるんだよ。
ひとしきりじゃれあった後、ルー先生は私の頬を優しく撫でて微笑んだ。
この人、オネエじゃなかったらモテモテだろうな。
あ、オネエでもモテモテなのかな?
そっちの世界でね。
これだけの美貌だものね。
そんな事を考えながらルー先生の手に自分の手を重ねて私も微笑んだ。
ルー先生とじゃれあっているときはなぜか妹を思い出す。
懐かしさと寂しさと愛おしさがない交ぜになった感情。
どうしてだろう? ぜんぜん似ていないのにね。
ルー先生に護衛されてシュガーと共に墓地の入り口に到着。
付き添いでナタリーさんも一緒だ。
ナタリーさんも一緒なのには訳がある。
オネエ様でもルー先生は生物学上「オス」。
こんなお子様でも家族以外の男性と二人きりで馬車に乗るのは御法度らしい。
貴族ってば、めんどくせぇー
だいたい10歳の子供とオネエの間にどんなロマンスが生まれるというのだ?
王城まで来たが今日は騎士団の所はスルー。
だってルー先生は騎士団を退団した身。
昔の彼(?)に鉢合わせなんて嫌だろうし。
きっと退団の理由もそこらへんの事情だろうと睨んでいる。
痴情のもつれってやつね。
彼氏の浮気か、はたまたルー先生の浮気か?
私は腐女子では無いので男同士のアレコレにはまったく興味はありません。
むしろ、男同士でくっつくな! 女が余るじゃないか!と、声を大にして言いたいくらいだ。
でもまあ、他人様の性癖に口を出す権利は無いので黙っているのだ。
目的の石碑の前に到着。
いくつもある石碑の中でひっそりと端っこに建てられた石碑が私のものだ。
庭師のカントさんに用意してもらった花束をそっと供えて手を合わせる。
私の隣でシュガーも大人しくお座りをしている。
(マリアーナ、ちゃんと天国のお母様に会えた? こちらはお父様もお兄様も元気だよ。この体にもだいぶ慣れたよ。これからたくさん勉強してマリアーナの名に恥じない生き方をするから見守っててね)
手を合わせながら心の中でそう話しかけると暖かい風が頬を撫でた。
まるで「わかった」と言うように。
輪廻転生。
叶うなら、近い将来に私の子供として生まれてきて。
そうしたら誰よりも愛情を注ぎあなたの幸せを一心に願うよ。
しんみりとそんな事を思っていると、急に周りが騒がしくなった。
「誰か来る」いつものルー先生のオネエ言葉ではない声にハッとして、顔をあげる。
こんな声も出せるんだ。
ものすごく小さな声のためナタリーの耳には届かなかったようだけど、私にはしっかりと聞こえましたよ。
イケメンボイス、御馳走様です。
ルー先生は私を守るように背中に隠した。
こらこら、これじゃあ前が見えないではないか。
私はルー先生の背中からひょっこりと顔を出してみた。
少年?
お兄様くらいの少年が騎士を2人侍らせてこちらに歩いてくる。
しっかし、墓地だって言うのにずいぶん煌びやかな衣装だな。
蜂蜜色のミディアムヘアに明るいブルーのコートスーツ。
いったいどこの王子様だよ。
「マリア様、あのお方は第二王子のラインハルト殿下ですよ」
ナタリーの言葉に目を丸くした。
おう! 本物の王子様でしたか。
え? でもなんでここに?
墓参りにしては賑やかなご一行様ではないか。
頭の中「?」でいっぱいになっているところにルー先生は騎士の礼、ナタリーは淑女の礼を執り始めたので私も慌ててカーテシーの姿勢を取った。
「おや? 先客がいたのか。ああ、楽にしてくれ」
ラインハルト殿下のその言葉に私達は顔を上げた。
「マリアじゃないか。久しぶりだな。事件の事は宰相から聞いたぞ。何事もなくて良かった。すぐにでも会いに行きたかったが、セドリック殿とアンドレの許可がなかなか降りなくてな」私に向かってそう言うラインハルト殿下の顔をまじまじと見つめる。
艶やかな蜂蜜色のミディアムヘアに綺麗な水色のアーモンド型の瞳。
スッと筋の通った高い鼻。
少年らしい線の細さも相まって中性的な印象。
おお、芸術的な美貌だ。
眼福、眼福。
年はアンドレお兄様と同じくらいか?
しかも私のことを知っていらっしゃる?
あ! もしかしてマリアーナの日記に書いてあった誕生日のお披露目会の王子様とはこの子のことか?
ん? 学校はどうした? サボリか?
「マリアお嬢様、殿下にお返事を…」ナタリーの小さなつぶやきにはっとして口を開いた。
「ラインハルト殿下、お久しぶりでございます」
「マリア…どうしたんだい? 殿下だなんて他人行儀な」
いやいや~どこをどうとっても他人だよ?
って言うか、今までなんて呼んでたのかわからないし。
記憶がないことはあまり外部には言わない方が良いとお父様から言われているしね。
うーん、ここは猫を被るか。
「申し訳ありません…ですが…」と言って目を伏せてみた。
するとラインハルト殿下は笑顔で言った。
「アンドレの妹は僕にとっても妹みたいなものだからね。いつも通り、ライで良いぞ。ここには僕の護衛とマリアの従者しかいないからな」
なるほど、アンドレお兄様とラインハルト殿下は仲良しらしい。
そして私は身内しかいないときはライ様と呼んでいたようだ。
「ありがとうございます。そのように思って頂けて嬉しく思います。ライ様。こちらには、どなたかのお墓参りにいらしたのでしょうか?」
「ああ、もしかしたら僕の婚約者になっていたかも知れない界渡りの乙女のね」
婚約者?
なんでも、界渡りの乙女と聖巫女様は王族の花嫁となるのがこの国の慣例だという。
聖巫女様って言うのは光属性を持っていて聖巫女の称号を持つ乙女のこと。
まあ、年頃が合わなければ慣例通りには行かないけどね。
じゃあ、もし満里奈が生きていたらライ様と結婚しなくちゃいけなかったの?
えーそりゃ勘弁だよ。勝手にそんなこと決められるなんて泣けて来るじゃないか。
いくらイケメンでもショタの趣味はないし、墓参りの作法もわからないお子様はごめん被る。
墓参りなら花の一本でも供えろや~
「そうですか。良かった婚約しなくて…」思わずライ様を見上げて微笑んだ。
するとライ様は目を見開き顔を赤くした。
「そうか。僕が婚約しなくて良かったか」
あ、まずいか。
これじゃあ、婚約者が亡くなって良かったと言っているよなものだよね。
わっ、ライ様の顔が赤くなってる。
もしかして怒っていらっしゃる?
「あ、あのごめんなさい…界渡りの乙女がライ様の婚約者になるなんて知らなかったものですから…」
「いや、それは慣例の一つだと言うことだ。必ずしもそうなるとはかぎらないんだよ」
あら、そうなの?
じゃあ、良かった。
「そうなんですね。ホッとしました」そう言って私は満面の笑みをライ様に向けた。
「あ、ああ。そんなに安心したか。なんにしてもマリアの笑顔が見られて僕も良かった」そう言うとライ様も笑った。
ライ様ったら、耳まで一気に赤くなったけど大丈夫かな?
でも笑顔だし、どうやら怒って無さそうだ。
ホッと一安心。
さあ、帰っておやつでも食べよっと!




