075-唐揚げへの挑戦
夜。
俺は厨房に立って、料理をしていた。
といっても難しい物を作っているわけではない。
この間は見事大失敗したが、今日は行ける。
「失敗するわけないと思ってたけど、一回失敗した後だからね.....よっと」
高熱の油に、パン粉をまぶした鶏肉を放り込む。
数時間前に、味付け用のソースに浸して冷蔵庫に入れていたものだ。
けたたましい音を立てて、放り込んだ鶏肉が揚がっていく。
二分五十秒ほど揚げて、出してから二度揚げする。
「その間にっと」
菜切り包丁を振るって、野菜を切る。
俺は野菜は味噌汁にぶち込む派で、この世界にも味噌は存在していたので購入済みだ。
若干磯臭い(似たような匂いというだけで海産物は入っていない)が、慣れれば味わい深く楽しめる。
「そういえば、棒味噌も売ってたな....野戦食糧なんだろうか」
野営で棒味噌を溶かして飲むという文化は多かれ少なかれあったはずだ。
いや、このSF世界で自力で火を起こせる人間がいるかどうかも分からない。
もしかしたら、オヤツ扱いなのかもしれないな。
人類より腎臓が強い種族なんて、掃いて捨てる程いるのだから。
「おっと」
タイマーが鳴ったので、一度油切り網の上に唐揚げを菜箸でつまんで乗せる。
粗熱を取り、再び揚げるのだ。
切った野菜をまな板を傾けて放り込み、鍋の蓋を閉じる。
この鍋は小さすぎるなと感じていたが、アルと俺の小さい胃袋ならこれでも充分であった。
余熱を取った唐揚げを二度揚げし、その間に味噌汁に浮いたアクを取って、冷蔵庫からお茶の入ったピッチャーとコップを取り出した。
唐揚げを取り出し、再び油を落として皿に盛り付け、アルの分のお盆に載せる。
今日はしっかり成功したな。
前はべちゃべちゃになってたからな.......
「よーし、ご飯だよ~」
俺は厨房から出て、俺の分を先に置いた。
そうしないとアルが先に食べ始める事があるからだ。
もう一度戻って、真ん中によく冷やしたピッチャーとコップを二つ置き、最後にアルの分のお盆を置いた。
「いただきます」
「,,,いただきます」
アルは前回の大失敗を見ていただけに、唐揚げには慎重だったが.....
「あ、美味しい....!」
「よかった」
二度揚げが効いたか?
何にせよ時間管理をしっかりしなければ、中が硬いままになる。
そうでないという事は、きちんと仕上がっているという事だろう。
「そういえばお米変えたんだけど、気付いた?」
「え? う、うん、ちょっとモチモチしてるかも....?」
さては気付いてないな。
まあいい。
不健康と分かっていて毎食レーションを食べなければいけないほど食糧が無かったという事は、米も無かったという事だ。
ラストレビク星系に寄った時に、流通センターでお米の試食が行われていて、そこで日本米により近い性質のものを見つけたので、定期購入することにした。
その第一弾がこれだ。
「それにしても...リリーさん、これってどこの料理なの?」
「私の故郷の料理だよ」
「リリーさんの故郷、もう帰れないの?」
「どうだろう......」
いつか見たあの夢では、俺の故郷には願いをかなえる存在であるアレすらも届かない場所だという。
マジの夢だったかは分からないがな。
帰郷願望を持っても、もうあそこには帰れない。
だいいち、俺はもう性別も姿も違うんだ。
帰っても、俺の居場所はない。
「ご飯冷めるよ、ほら早く食べて」
「う、うん!」
俺はアルを急かして、微妙な空気を誤魔化すのだった。
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