011-密会
ペール商会にて、一人の男が椅子に座っていた。
険しい顔をした男だが、体格はやせ形で、威圧感はそこまでではない。
「ジュディ・マークソン。まさか君が、人を推薦してくるとはな」
男は呟くように言う。
だが、それは独り言ではなかった。
『ええ、貴方でなければ彼女の取り扱う商品は売り捌けないでしょう』
「会話のログは見た。見た目通りの馬鹿ではないようだな」
『おや? 既に会ったのですか?』
「とぼけるな、身分証を持つ者の写真を手に入れる事など、容易だろう?」
『ああ.....”そう”でしたね』
袖の下を渡し、本来秘匿情報であるポートレートを手に入れる。
そうする事で、二人はリリー・シノの情報を手に入れた。
「第一印象は、頭の悪い女だが。....実際はそうではないようだな」
『ええ。大胆にもこちらを試すように誘導を仕掛けてきましたよ』
「だが、嫌な女のような悪意は感じなかった」
『その道のプロフェッショナルの可能性もありますが...』
二人は暫く沈黙する。
だが、結論は同じだった。
『.....あの方は外国人であり、マサドライトの売却を希望しています』
「何っ?!」
マサドライトは超希少金属である。
用途も限られているが、そもそも纏まった数が手に入らないため価値も高い。
「ど、どこから手に入れた?」
『不明ですが、現物は確認しています。少なくとも、盗品ではないでしょう』
「何故そう言い切れる?」
『ミネラルの状態でのマサドライト等、世界のどこにも存在しません』
直ぐにインゴットに加工されるマサドライトが、製錬後直後のまま届いた。
その驚きは、恐らくジュディ以外には計り知れないだろう。
「......まあいい、出所は聞く必要がないので省略するが、信用は出来るのか?」
『私が全ての責任を負います』
「ならば、信じよう」
ジュディ・マークソンは信頼のおける人間であると、この商会の経営者であるペール・ディストアは理解していた。
何故か?
「.....流石に、サタマイラ伯爵家の執事の見る目を疑う訳にはいかないからな」
『私を慧眼と見るものもいますが、本当に信用できる人間を見分けるのは簡単な事です』
「そうなのか? 聞きたいものだがね」
『簡単ですよ。こちらが投げた”フリ”に乗ってくれる方です』
「成程」
ディストアは頷いて笑った。
そして、二人は挨拶を終えて会話を切った。
彼は秘書を呼び、言った。
「リリー・シノに日程を尋ねろ。近日中にミーティングを申請したい」
「はい、かしこまりました」
秘書は頷き、部屋を去っていった。
ペール・ディストアは額に手を当てるが、現実は何も変わらない。
「冷酷無比なコーポ共にマサドライトの利権は渡せんな....」
国を動かすコーポレーション達は、倫理に縛られないがゆえに強い。
中小企業とは文字通り格が違うのだ。
彼の友人であるジュディ・マークソンが気に留めた少女を、そんな利権の悪魔に、まだそれと戦う術を知らない段階で目を付けられるのは避けなければならない。
「資本」と「知識」を提供することを、ペール・ディストアは決意したのであった。
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