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奇運のファンタジア   作者: みたらし団子
高校生活の始まり
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第65話 カーラに頼み事(下)

昨日は更新できず、申し訳ございません。

 時刻は、深夜十二時を回ったころ。

 美琴は何の感情も宿らない瞳で、窓から移ろいゆく景色を眺める。


――バタバタバタ……


 星々と月が漆黒の闇に輝く。

 都会ではまず見ることができない光景だ。対面に座るカーラは全く興味を示さないが、それは特殊な例と言えるだろう。


――バタバタバタ……


「ねぇ、姫様……」


 美琴もカーラも何もしゃべらない。

 沈黙が包み込む中、不意にカーラの隣に座っていた勇気が美琴に声をかけてきた。


――バタバタバタ……


 美琴は、窓から視線を外すと勇気に視線を向ける。

 何故彼がここにいるのか。深夜に女性二人は危ないと強引に付いてきたからだ。以前の勇気なら別の意味で危険だが、今の勇気は心配するだけ馬鹿らしくなる。

 夜更かしは美容に悪いと肌ケアをしながら嘆く男子の姿には、徹夜が日常茶飯事となっている女性二人がなぜか敗北感を覚えるほど……。ふつうは逆ではないのか、とはだれも突っ込まない。


「何ですか?」


「私たち、どうしてこんなところまで来てしまったのかしら?」


「知りませんよ。まさか、こんな辺鄙なところにいるとは思わないじゃないですか」


――バタバタバタ……


「辺鄙って、これは辺鄙って言えるの……?」


「百貨店どころか、コンビニもないのですから辺鄙な場所でしょう。カーラに連絡を取ってもらったら、ここだと言われたのですから。私だって、思いもよりませんでしたよ」


「それは、そうだけど……。というより、にコンビニがあったら、怖いわよ」


 そう、美琴たちが今いるのは海上千メートルに位置する場所。

 先ほどから聞こえてくる騒音は、ヘリコプターのブレードスラップ音だ。


「それにしてもカーラ。フロート型のヘリは用意できなかったのですか? せっかくの光景が台無しですよ」


「リアリストが何を言っている。……一応言っておくが、お前にロマンティストは似合わないぞ」


「確かに……。外を見る目が、カエルを解剖しているような感じだったもの」


「……」


 なんてことだろうか。

 二人には、人を見るような目がないらしい。カーラも大概失礼だが、新生勇気は女性に対するデリカシーを失ってしまったようだ。

 嘆かわしいこと、この上ない。


(いえ、この二人は性根が腐っているのでしょうね。だからこそ、色眼鏡をかけてしか相手を見れないのでしょう)


 そう結論付けた美琴は、憐憫れんびんの視線を二人に向ける。


「おいっ、さりげなく性根が腐っているとか言わなかったか?」


「いえ、そんなこと言っていませんよ」


 どうやら、内心が口に出ていたようだ。

 誠の鉄面皮に比べれば未熟なポーカーフェイスで、さらりと嘯く美琴。あまりにも白々しい姿に、カーラは「女狐が……」と舌打ちをする。

 どうやら、研究室前でだまされたことを根に持っている様子だ。


 まるで子供同士の言い合いを見る大人のように、慈愛の笑みを浮かべた勇気が、パンッと手をたたき合わせると美琴に話を振る。


「それで、姫様。これから、会う人……えっと、川口さんってどんな人なのかしら?」


 舌なめずりをして尋ねる勇気。

 その目は「良い男かしらぁ?」と語っていた。最近、勇気のしぐさがますますキャサリンに近づいてきた。

 尤も、キャサリンのSAN値が削れるようなしぐさではなく、女性受けしそうな感じだ。主に西川中学の元女子生徒たちにだが……。

 美琴は脳裏によぎったどうでもいいことを頭の片隅に追いやると、勇気の質問に答える。


「引きこもりですね」


「引きこもりだな」


「えっ、引きこもり……?」


 美琴とカーラが引きこもりと称すると、勇気は目を丸くする。

 まるで「えっ、あなたたちが言うの……?」とでも言いたそうな目だ。そんな意図のある言葉に気づきながらも、美琴たちは無視をする。


「あの人は、対人恐怖症なんですよ。わた……金田誠は、そんな彼が心を許していた数少ない相手でした」


「へぇ」


 美琴が思い描くのは、弘人と戸塚のような関係。

 フィクションのような出来事があって、心から自分を信頼してくれる者の眼差しを向けられ、鉄皮面を緩める誠……。


「良い話のように語っているところ悪いが、あれは恐怖が一周回って逆に克服できただけだろう。心を開いたというよりも、マコトに絶対服従だったからな」


「「……」」


 カーラの言葉に、美琴に疑わし気な視線を向ける勇気。

 さりげなく視線を逸らす姿が、真実を曝け出す。


(べ、別にいいじゃないですか……。私だって、お父さんの娘なんですから、心から慕ってくれている後輩が欲しいんです)


 美琴が思い浮かべる後輩や部下の姿。

 対面に座るカーラの姿や、勇気の姿を見て父親である光秀を思い出す。


「はぁ……。私は、後輩にも部下にも恵まれていませんね。上司には恵まれていたみたいですが」


「おいっ、私を見てため息をつくな。私はお前の後輩になった覚えはない」


「あれっ、もしかして姫様の部下って扱いなのかしら……? あらやだ、随分と出世しちゃったわね」


 いやそうな表情を浮かべるカーラとは対照的に、勇気はどこか嬉しそうだ。

 光秀と違って信用はできそうだが……。


(嫌ですね、こんな部下……)


 ファッション誌の一面を飾ってもおかしくない美青年。

 並みのアイドルでは対抗できないくらい、端正な顔立ちをしている。そんな勇気が、ほほを赤くして体をクネクネしている光景には、思わず白けた目を向けてしまう。


(というよりも、カーラ。やはり、あなたの中では私はマコト妹なのですね……)


 美琴になってからは、もう一年近い付き合いだ。

 しかし、美琴が誠であるとカーラから疑われたことはない。今回も、連絡を取ってほしいと言っても何の疑問も抱かなかった。

 普通抱くだろうと思ったが、おそらくカーラにとっては美琴が誠であろうが何であろうが、それこそ妖怪であっても関係ないのだろう。本当に、悩みがなさそうなうらやましい性格をしていることだ。


「はぁ」


 思わずため息をつく美琴。

 本当に、この世はままならぬものだ。川口がこんな辺鄙な場所にいるのには、理由がある。その理由を思い出すと、連れてくるのは難しそうだ。


(弱気になるのはやめましょう。お父さんにあれだけの啖呵を切ったんです。手ぶらでは帰れませんから……)


 そう思って、ポツリと呟く。

 美琴が恐れるのは断られることではなく、弘人に失望されること。あれだけの啖呵を切ったのに、収穫ナシなど許されることではない。


「ふふっ。川口君、君なら断りはしないだろうね」


 ポロリと笑みが漏れる。

 きっと、彼ならば無理をしてでも色よい返事をくれることだろう。


「「……」」


 不意に、視線が向けられていることに気づく。


「何か?」


「「な、何でもない!」」


 美琴が笑みを浮かべて尋ねると、二人は首が取れるのではないかと思うほど勢いよく横に振る。

「あ、悪魔よりも悪魔らしい……」という声が聞こえたような気がしたが、ヘリの騒音に掻き消えていくのであった。





 しばらくの間海上を進むと、目的地周辺にたどり着く。


「そろそろ、着きそうですね」


 空に浮かぶ光源。

 外の景色にまったく興味がない様子だったカーラも、窓から外を覗く。


「大きい……。あれが、天道の所有する世界最大の船【箱舟】」


「もはや、船じゃなくて巨大な島だな、あれは……」


「ええ。流石は、天を統べる一族と呼ばれるだけありますね」


 カーラの言う通り、船ではなく島だった。

 日本近海に浮かぶ無人島を丸々フロートシステムで浮かばせているらしい。噂によると、内部は巨大な軍事施設となっており、箱舟と命名されているが、他国からは空飛ぶ要塞と呼ばれている。


「いったい、あれだけの質量をどうやって浮かばせている? 力技、ということはないだろう……まったく分からん」


 興味深そうに観察をするカーラ。

 因みに、あれほど研究室を出ることを嫌ったカーラが出てきたのは、川口がここにいると知ったからだ。

 そうでなければ、わざわざヘリを用意してついて来はしなかっただろう。


「では、元気そうな顔を見せていただきましょうか。川口先生(・・)


 その目は獲物を狙うライオン。目的地である天道学園にいる哀れなチワワを思って、口元に不吉な三日月が浮かぶのであった。








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