第31話 司祭様の受難
ここは魔族少将、アルティーナの所領。
森のそばに、一軒の家が建っていた。
「ふん、ここか……悪くはあるまい」
元司祭、タルテスはひとり呟いた。
人間の都市からは追い出されてしまったものの、命だけは助けてもらった。
しかも、家まで用意してもらったのだ。
「ふふふ。甘いな、あのカズヤとかいう男……。アルティーナを上回る戦闘力があるらしいが、この甘さはいずれ身を滅ぼすぞ、ふふふ……」
監視の女が二人、タルテスの近くにいる。
二人とも、見たことのない民族衣装のようなものを見に付けていた。
ニンジャ装束、というらしい。
顔まで覆面で覆っていて、表情はわからない。
「よし、入れ」
女の一人が言った。
タルテスは家の中に足を踏み入れる。
と、中にはすでに人がいた。
ニンジャ装束に身を包んだ女たちだ。
「な、なんだ……?」
タルテスが声を上げると、女が一人ひとり自己紹介を始める。
「こんにちは。私はくノ一、シャワーといいます。あなたに騙されて魔族に売られた音だです」
「こんにちは。私はコマー。魔族に売られた女です」
「どうも。私はサットー。魔族に売られました」
「はじめまして。私はマッヒー。私を売ったお金であなたが儲かったそうですね?」
「こんにちは。私の名前はミヨー。もちろんあなたに騙されて売られた女です」
「やっほー。あたしもいるよー。改めて自己紹介するね、あたしの名前はリチェラッテ! くノ一部隊の隊長やってまーす! そしてここはくノ一部隊の寮でーす!」
それを聞いてタルテスは眉をひそめる。
「りょ、寮……? 私の家は……?」
「あははー。庭にあったでしょ、アレだよアレ」
タルテスは、リチェラッテが指し示す指の先に視線をやる。
そこにあったのは犬小屋だった。
リチェラッテは手になにか革のベルトを持っていた。
「あのねー、これ、首輪! タルテス司祭様が魔族にあたしたちを売るとき、この首をはめてくれたじゃーん? だから、その御礼にあたしたちもタルテス司祭様猊下に首輪をはめてやろうと思って! かっこいいでしょー? これからあんたはあたしたちの犬だから! あとニンジュツの練習相手にもなってもらう! あ、心配いらないよ、あたし、カズヤに褒められるレベルの治癒ニンジュツを使えるようになってるから! 心臓が止まったって二十病以内なら蘇生させられるんだから!」
「ま、待て……」
「待ちませーん! あーーーーーはっはっはっはっはっはっはっは! この世の地獄を見せてあげるよーーー! よし、みんな、この犬をあそこの木にくくりつけて、手裏剣の練習しよーー!」
「「「「「「おーーーーー!!!!」」」」」」
こうして、タルテスはくノ一の犬として可愛がられ、半年後に正常な精神状態を失って死ぬまで、みんなの練習台として大活躍したのであった。
★
「うー。これ、生焼けじゃないのよ? あ、こっちは凍ってる! もっとちゃんと料理してよー」
ファモーは久々に手に入れた人間の肉を、不平満々に、しかし嬉しそうに食うのであった。
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