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第30話 匿ってやる

「ほんと、許せない……」


 聖女の格好をしたカルアが、冷たい表情で呟いた。

 そりゃそうだ、インチキくじで無理やり徴集され、魔族に売り払われた張本人だもんな。


「これ、いつからやってたの? あたし、こいつを殴り殺したいんだけど。ニンジュツを学んだ今のあたしなら瞬殺だよ!」


 リチェラッテもそう言う。


「ふむ……。一人につきけっこういい値段で私に売りつけておったのー」


 アルティーナにしてみれば、やってもいないことで人間の憎悪を自分に向けさせられていたのだから、彼女も激おこだ。

 ま、人身売買自体が良くないことだと思うが、異世界の魔族にそれを言ってもな。

 女を貢ぐように人間たちに命令しているのと、金を払って女を買っていたのとでは、やはり意味合いが全然違うし。


「で、タルテス司祭さんよ。平和裏に引退してくれるな?」

「そ、その後の私の安全は保証してくれるのか……?」

「…………それは知らん。若い女の子を無理やり徴集して売り払っていた……そのことが民衆に知られれば、どうなるだろうなあ」

「た、頼む! 命は! 私の身の安全だけは保証してくれ!」

「うーん、そうは言ってもな。現状の確認をすると、人類は魔王が率いる魔族に完全に支配されている、と。で、ここにいる魔族少将アルティーナがこの地域の責任者なわけだ」


「うむ、そうじゃな」


 アルティーナが頷く。


「アルティーナにとっても人民の慰撫は重要課題だ。アルティーナはなるべく人間に負担をかけさせないようにしていたって言うし」


 ま、これはどこまでホントか眉唾ではあるけど。


「で、人間をまとめていたのはお前が率いる教会だったわけだが……。これからマチルダ王女が健在なことを発表し、以後マチルダ王女を権力の頂点、聖女カルアを宗教的権威の頂点として組織を再編する。それに当たって余計な反抗を受けるとめんどくさいから、お前には静かに引退してもらいたい、とそういうわけだ。うーん、まあいいよ、お前のことは俺が匿ってやるよ。本当のことがバレたら人民にリンチされて死ぬだけだからな」


「カズヤは甘いなあ」


 リチェラッテが不服そうに言うが、こんなやつの生命は大事の前の小事に過ぎない。


「た、助かる……」


 よし、これでこっちも一件落着とするかな。


 あとはさらに勢力拡大を目指すのだ。


 ……ま、この俺がタルテス司祭を本当に安全なところに匿うわけがないのだが。


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