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第29話 居抜き

 北の町。

 このあたりにある町の中では最大の都市だ。

 十万人の人口を誇り、城壁に囲まれた城塞都市となっている。

 ま、城塞都市とは言っても、その壁は長年の魔族との戦争であちこち崩れ落ちているけど。


 その北の町における権力者といえば、やはりこちらも司祭である。

 王族がマチルダ以外皆殺しにされ、ほかに権威となるものは宗教というわけだ。


 俺達は堂々と教会に乗り込んでいった。

 メンバーは俺とアルティーナ、そして偽の聖女カルア、さらには王女マチルダ。ついでに雑用係としてリチェラッテも連れて行った。


 司祭――タルテスという名前らしい――は、教会の応接室でおどおどとしていた。

 俺達の顔を順繰りに見て、顔を青くしている。

 このタルテス、俺を暗殺しようとして騎士団を送り込んだのだ。

 ま、全員返り討ちにしてやったが、俺とは完全な敵対関係。

 騎士団の主力は俺がやっつけてやったから、もはや俺に抗う術などない。


 正直言ってさ。

 こんなやつ一捻りにぶっ殺してやってもいいんだけどさ。

 何度も言うが、組織というものを一から作り直すってのはめんどくさい。

 できればここの教会組織をまるごと居抜きでいただきたい。


 その旨を、俺は正直に口にした。


「そういうわけで、あんたは引退してほしい。そして司祭の座は俺が指定する人間にしてほしい……ってか聖職者の中から一番無害そうなやつを俺が選ぶ。教会のトップはもちろん聖女カルアだ」


「………………しかし………………」


「モンゴル帝国って、知っているか?」


「は? な、なんですかそれは?」


 もちろん、知るわけがない。

 ここは異世界なのだ。

 俺がもといた世界、つまり地球においては、中世にモンゴル帝国がユーラシア大陸のほとんどを征服していた。

 彼らは極めて残虐で、逆らう部族は皆殺しにしていったという、のだが。

 実は、従属してくる都市に対してはわりと融和的で、以前の統治を認めていたそうだ。つまり、自治権をある程度認めていたそうだ。

 反抗者は皆殺し、降伏すれば自由を与える。

 俺もそのやり方を真似たいと思っているんだが、しかし、とりあえずこのあたりの東西南北の町、それにアルティーナの居城は俺の基本となる拠点にもなるはずなので、完全に掌握しておきたい。


「ええと、タルテス司祭さんよ」

「な、なんですかな……」

「以前、俺のとこに騎士団を送り込んでくれたよな?」

「い、いえ……し、知りません……」

「と言ってももう裏はとってあるんだ、騎士団の本部へ殴り込んでちょこっと拷問したらすぐ吐いたぞ」

「………………な、なにかの間違いでは………………」

「ま、それはいい。俺が一番許せないのは魔族少将の命令だと称し、民衆を騙して女の子たちを無理やり連れ去り、その女の子たちを金品で魔族少将に売り渡していた――これは、事実だな?」


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