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第26話 私も、死ぬべき

「で、私はなにをすればいいの」


 マチルダが無表情でそう言った。

 しかしこいつ、恐ろしいほどに顔が整っているなあ。

 茶色のショートボブがめちゃくちゃ似合っている。

 でもその瞳には力がない。

 なにか、すべてを諦めてしまったかのような、そんな表情をしている。


「お、そうだったそうだった。お前の話をするんだったな」


「殺すの?」


 ぽつりとマチルダが言った。


「は? なんでお前を殺すんだよ」


 人間の王族の唯一の生き残り、マチルダ。

 第二王子の末娘だとか言っていたな。


「いやいや、心配するな、殺すわけがないだろう? これからお前は王女として……」


「殺して」


 マチルダが言った。


「ここは、魔族のお城なんでしょ? そこにいるのは魔族の将軍でしょ?」

「うむ! 私は魔王様の末娘にして魔王軍の魔族少将、アルティーナであるぞ!」


 胸を張ってそう言うアルティーナを冷たい目で見てから、マチルダは今度は俺に目を向ける。


「あなたは……人間に見えるけど、本当は魔族? それとも人類の裏切り者?」

「何を言っている。どちらでもない。正真正銘人類の味方の人間だ。

「人類の……味方……? でも……」

「心配するな、実はここにいるアルティーナは俺への忠誠を誓っている。俺の名は東雲和哉。別の世界から来た、人類最強にして最良の忍者だ」

「ニンジャ……ってなに……?」


 と、そこにカルアが口を挟む。


「私も知らないけれど、きっと殺戮兵器をそう呼ぶんですよ……」


 何を言いやがる。


「あのな、ニンジャってのは隠密を旨とし、敵にまぎれこんでスパイ活動をしたり、ばれないようにこっそり暗殺したり……」


「なに言ってんのカズヤ、全部違うじゃーん! ニンジャってのは、拷問官でしょ?」


 そんなことをぬかすリチェラッテ、くそ、こいつにはニンジャとしての誇りを一から教えてやらんといけないな。


 マチルダは生気のない顔のまま、


「どうでもいい。早く私を殺して。それとも、自分で死ねばいい?」


「なんでそんな事言うんだ?」


 十歳の女の子が自殺志願だなんてよっぽどだぞ。


「だって……私の……国王陛下(おじいさま)も、王妃殿下(おばあさま)も、王太子殿下(おじさま)も、お父様もお母様もみんな殺された……。みんな……。私の従兄弟たちも……。まだ小さかった子どももいたのに……みんな魔族に殺された……。私だけ生き残ってる……私も、死ぬべきなの……」


 よっぽどだった。


「私は、魔族に復讐したい。でも、私にはそんな力はない……。あんな教会に匿われて、私ひとりだけ生き残るなんていやなの。だから……死にたい」


 うーん、どうしよう?

 こんな女の子にこんな事言われて、うーん。

 はっきり言って今まで俺の周りにいたやつらって、殺されても仕方がないやつらばっかりだったから、こんな十歳の女の子が落ち込んでいるのを励ます方法なんか知らないぞ。


 と、そこでほがらかな声で前向きな話を始めたのは、銀髪ショートカットの髪の毛をかきあげてふふっと笑ったリチェラッテだった。


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