第22話 こういうのは俺が一番得意
アルティーナの居城には、いま百人ほどの人々が集められていた。
そのほとんどが女性か、まだ小さい子どもたち、それにじいさんやばあさん。
全員、南の教会に属する幹部の家族たちだ。
もちろん、騎士団の幹部の家族もいる。
心配しなくていい、劣悪な環境にはおいていない。
全員広間に集めてはいるが、ちゃんとそこそこの食事も与えているし、プライベートスペースも確保できるよう、ベニヤ板みたいなので仕切りもしている。
ただし、誰もここから逃げ出せないよう、ゴブリンやコボルドに見張りをさせているけどな。
「ふむー、さすがカズヤじゃな。たった一晩でこれだけの人数を攫ってくるとは……」
腰まで伸びる赤い髪の毛をかきあげながらアルティーナが言った。頭に生えている二本の角が毒々しく輝いている。
「あのー、やっぱり家族を誘拐するってのは、やりすぎでは……?」
黒髪のポニーテールを揺らして俺の方を振り向き、そう言うのはカルアだ。
「何を言ってるんだ。そもそも標的になったのはお前なんだぞ? なんでお前がかばうんだ?」
そこに、銀髪ショートカットのリチェラッテが口を挟んだ。
「そうだよ! カルア、おかしいよ! あたしだったらさー、こいつらなんか今頃丸焼きになってファモーの餌だよ! カルアは優しすぎだよ! まあそういうとこ、あたし、好きだけどさー。……ねーカズヤ、見せしめに一人くらい殺しておいたら?」
カルアはうげーっと顔をしかめた。
「私はリチェのそういうとこ、嫌い……。もっと穏便にすませられないかなぁ」
リチェラッテは俺好みの性格してるけど、カルアは甘いなあ。
しかし、穏便にすませられる段階はとうに過ぎている。
あんな方法で聖女――カルアを襲撃させたんだからな。
「お、やってきたぞ」
俺は窓から外に目をやった。
三台ほどの馬車、そのまわりを数十人の騎士が囲んで守っている。
「謁見室に通しておけ」
★
アルティーナの居城、その謁見室。
上座に座るのは名目上はここの君主となっているアルティーナだ。
その護衛のフリをして隣に立つ俺。
……なんか不便だから、俺にもなにか適当な役職つけようかなー。
立っていると疲れるもんな。
座りたい。
さて、司祭がやってきた。
「アルティーナ様、ごきげんうるわしゅう……」
アルティーナは足を組み直して司祭を睥睨する。
「ふむ。で、聖女カルアを襲わせたのは、本当にお前らではないのだな?」
「もちろんでございますとも、アルティーナ様」
すかさず俺が口を挟む。
「聖女カルア様は教会の一室にいた。それを、外部からの侵入者をやすやすと通し、カルア様を弑せんとした。これは、教会の落ち度ではないか? 教会が責任をとるべきだ」
「そんな……。教会は城とは違います。外部からの敵を防ぐようにはできておりませぬ」
「問答無用。司祭、お前は教会から追放し、あらたな教会のトップとして聖女カルアをすえる」
「馬鹿な! あんなインチキ女を……」
「インチキ女と言ったな! 馬脚を表したな、このものぐさ坊主が!」
俺が叫ぶと、司祭も大声で怒鳴り返した。
「アルティーナ様! こやつが悪の根源ですな! 偉大なるアルティーナ様の側近ヅラしてそんなところに立ちおって! アルティーナ様、君側の奸を除くことをお許しください!」
いやまあ実質アルティーナは俺の部下となっているわけで。
名目上だけ魔族少将やらせているけどさ。
そのアルティーナは俺の顔を窺っている。
司祭は懐からごつい装飾の小さな笛を取り出すと、それをピーーッ! と吹いた。
とたんに、謁見室に武装した十人ほどの騎士どもがドアを蹴破って入ってきた。
ドアの外には見張りをさせていたコボルドの死体。
ほう、やってくれるな。
まさか、こんな強行的な方法をとってくれるとは。
助かるぜ。
俺は政治みたいなチマチマしたことは嫌いなんだ。
剣を抜いている騎士たちを前に、俺は叫んだ。
はっきり言ってこんなレベルの奴らに忍法を使う必要すらない。
俺は素早く飛び跳ねる。その動きは、騎士程度のやつらには目で追うことすらできなかったはずだ。
「……なっ!?」
突然俺が懐に飛び込んでやると、騎士は驚きの声をあげる。
次の瞬間。
俺はプレートアーマーに守られたその土手っ腹に軽くボディフックを入れてやった。
ガコンッ! と金属製の鎧がへこむ。
「ぐ、ぐううううう……」
うめき声とともに床に沈む騎士。
「貴様!」
騎士どもが俺に襲いかかってくるが、うーん、アホだなあ。
こういうのは俺が一番得意なんだよな。
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