第21話 家族
「なんの話もなにもない。聖女カルアを襲わせたのはお前だな?」
「なにを失礼なことを。私は神に使える聖職者ですぞ。アルティーナ様が信頼されている聖女様を襲わせるなど、するわけがございません」
俺と司祭は睨み合う。
黒髪のポニーテールまで血にまみれているカルア、床は血の海、そしてその血を獣人魔族のファモーが直接舌でぴちゃぴちゃと舐めている。
俺が刈った人間の首がそこかしこに転がり、首を失った胴体も放置されたまま。
こんな地獄みたいな部屋で、俺たちはただ睨み合った。
ふーん。
そっか。
「なるほど、司祭、お前は聖女を輪姦して足の爪をはいで脅して言うことを聞かせてやろう、などとは考えてなかったと?」
司祭はわざとらしく身体をぶるっと震わせて、
「そんな恐ろしいこと、聖職者たる私の想像をはるかに超えておりますぞ」
うーん、どうしてやろうかね。
こいつが黒幕なのは明らかだ。
この世界では、教会の幹部たちが人間を魔族に売り渡していたってことはもうわかっている。
こいつも、そんな鬼畜の一人なのは間違いない。
そしてそんなやつが自分のやったことを素直に認めるわけがないよな。
「………………わかった。強のところは引き下がっておいてやる。あとで、ゆっくり話し合いをしようじゃないか」
はっきりいう。
俺は人類史上最強にして最良のニンジャ。
勇者ですら恐れた男。
この俺をここまでコケにするなんて、それ相応の覚悟あるんだろうな?
「おい、ファモー。もう人間の血を舐めるのはやめろ」
「いや、だって、カズヤが人間を殺すのは禁止っていうから……。最近、人間を食べてないのよ。死んでる人間の血を舐めるくらいはいいでしょ?」
「まあいいけど、カルアが怖がってるからやめてやれ」
「じゃあもう一口だけ……ペチャペチャ……」
まじで人間と魔族はわかり合えないなあ。
だが。
それはそれとして、人間と人間もわかり合えない。
★
俺は、家族というものが好きだ。
大好きと言っても過言ではない。
なぜなら、俺には家族というものがよくわからないからだ。
ネグレクトされて育ってクソみたいな人生を送っていたが、ダンジョンという素晴らしい場所に出会って俺の才能は開花した。
俺には家族と呼べるようなものはいない。
どうも、俺以外の人間には殆どの場合家族がいて、それは大事なものらしい。
それも、自分の子どもとなると格別かわいいらしいな。
人生で一番大事なもの、とまでいう人もいるくらいだ。
だから、俺は家族が好きだ。
なぜなら。
脅迫に使うのに最適だからだ。
★
次の日の夜。
俺は、一人でとある一軒家を訪ねた。
コンコン、とやさしくノックする。
ドアの向こうから返事が聞こえる。
「どなたでしょうか?」
「はい、私、司祭の使いのものでして……。お子様にお届け物があるのです」
ドアが開いて、出てきたのは三十歳なかばくらいの綺麗な女性。
「まあ! それはそれは! あの人も今日がこの子の誕生日ってことがわかっていらしたのね!」
十歳くらいの男の子が女性の後ろに立っている。
「えー! なになに! お父さんがプレゼントくれたの!」
喜色満面だ、かわいいなあ。
しっかしまあ、聖職者たるもの妻帯は禁止されているらしいが、愛人に子どもを産ませてるってのはどうなんだろうなあ。
これも一応家族って言えるんだろうかなあ。
俺は叫んだ。
「忍忍! 忍法、捕縛の術!」
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