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吸血女王  作者: 妄想日記
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第十一話 殺戮

 しかし旅は思うようにいかなかった。

 なぜならおチビが吐くからだ。

 私が背負って走り続けると一時間ほどで吐く。

 どうやら乗り物酔いをしているらしい。

 人間ってなんて脆弱な生き物なんだろう……。いや、おチビが脆弱なだけなのかな?

 とはいえ優しい優しい私の献身な介護によっておチビは健康体へと近づいていった。

 年の頃は多分6歳くらいなのかな?

 若いだけあって傷の治りも早く、大した跡も残らなかった。

 そして赤みのさした良好な血行。見ているだけで涎が止まらないけどまだ我慢。人間でしかも子供となるとどれだけ貧弱か分らないからね。

 仕方ないから休憩時間に私はおチビに勉強とか常識とか役に立ちそうな知識を教え込んでいる。

 だって理想は自立思考型餌じゃない?

 今はいいとしても、一生餌の世話をするのとかって考えただけでも面倒だし。

 できれば自分で生活できて、私が欲しいときに血だけ差し出してくれるような餌に育つのが理想だよね。あと人間の街には行かないけど、話し相手くらいは欲しいし。

 とはいえ今まで文化的な生活を送っていた私は完全に一人で自立することは難しい。だって食べるものには困らなくても着るものって自分では作れないじゃない。

 だからこれが私の唯一の収入源。


「た、たすけ…………」

「はい却下却下」


 そう言って私は目の前で命乞いをする男の頭を鷲摑みにして持ち上げ、顔に火を付けた。

 発火能力。炎で焼かれすぎた私は炎を自在に操れるようになったらしい。意味不明だよね。

 でもこれが結構便利で、発火、消化、増幅、減衰、変形、射出などなど自由自在。

 だから顔を掴んで発火するだけで人間なんて簡単に死んでいく。

 まぁ顔を掴んだ時点でどうやってでも殺せるんだけどね。

 そんな風に余裕ぶっていると突然胸に焼けるように痛みが走った。

 下に目を向けると私の胸から矢が生えている。矢ガモならぬ矢吸血鬼である。


「や、やった!」


 私は声のする方へゆっくりと振り返った。

 するとそこには賊の生き残りがボウガンを片手に心底喜んでいる。

 矢が刺さったところから血が広がっていく。

 あぁ、ちくしょう。油断した。


「この服そこそこ気に入ってたのに……」


 そう言って胸から矢を引き抜く私を見て賊が目を見開く。


「あ、あぁ……」

「まぁいいか。どうせお前たちからたくさん貰う予定だし、これで気が済んだでしょ?」

「ば、化け物…………」

「その言葉を否定するつもりはないけれど、今まで私に向かってその言葉を口にして生きていた人間はいないのよ?」


 私はにんまりと笑いながら賊に近づいていく。


「た、たすけ……」


 賊はボウガンを捨て、膝をついて両手を挙げた。

 逃げ道はない。なぜなら私が塞いでいるのだから。


「その言葉を口にして生きていた人間もいないのよね」


 そして私の足は賊の頭を踏み抜いた。

 骨が砕け、中身が飛び散る。

 どうやら靴も変えなきゃいけないみたいね。


 そう、今私は服を得るためだけに賊のアジトを襲撃している。

 賊のアジトは女性ものの服の他、装飾品もあったりするので何かと実入りが良いんだよね。

 でもアジトには決まって胸糞悪い光景が残されている。

 それは誘拐され、監禁されて無残な姿になった娘たち。

 そのような状態になって正気を保っている者は少ない。賊によって生活に支障が出るレベルまで傷を負っている者も珍しくはない。

 中には心を壊したまま賊の子を身篭っている者も…………。

 だから私はそれらを区別することなく一様に処分する。

 攫われて間もない者も、まだ成熟していない幼い少女であろうとも。

 私が足を踏み入れたアジトには例外なく命を残さない。

 なぜなら私は化け物だから。


 だからこの日も人間を残らず殺した。

 化け物が人間を殺すのは可笑しなことではない。

 その証拠にほら、涙一つ流れやしない。


「クイーンは優しすぎます」


 その言葉とともに私の冷え切った身体を暖かい温もりが包みこむ。

 いつの間にか私よりも大きくなってしまったおチビ。

 本当に生意気。


「黙れ」


 私はそう言っておチビの腕のなかでくるりと振り返り、そのまま彼を押し倒した。

 全く抵抗しない彼の首筋に歯を立て、新たな傷を作る。

 そしてそこから滲み出る血を舌でぴちゃぴちゃと音を立てて舐めとっていく。

 豊満な香りが、極上の味が私の口の中いっぱいに広がっていく。

 人を見る目のない私ではあったが、どうやら餌を見る目はあったらしい。

 あのときの神父と比べてもトマトジュースとワインほどの開きがある。

 油断するとすぐに飲み過ぎる。

 しかしもしそれでおチビが死ぬようなことがあれば、この味を一生味わえなくなるということになる。だから私は精一杯の理性を振り絞って飲むのを止める。

 それにしてもおチビは本当に暖かい。多分血の巡りがいいんだろうね。足先までぬくぬくしている。

 もういっそのことこのまま寝てしまおうか。

 私は事切れた娘たちが横たわり、血と情事の匂いでむせ返る部屋の中で目を閉じたまま声を出した。


「おチビを拾ってもう何年になるんだっけ?」

「十二年になります」

「そう…………、私から逃げ出したい?」

「いいえ」

「まぁ逃げようとしても逃がさないけどね」


 私はおチビが私に依存するようにここまで育てた。

 知恵を与え、知識を与え、武器を与え、温もりを与え、肉を与えた。

 与えていないものは女と金だけ。

 純潔を失えば餌としての価値を失う。そして街に近づこうとしない私たちには金は意味を成さない。だから女と金は必要ない。

 幸い私は人間に欲情することがなかった。だからおチビの純潔は未だ保たれている。

 未だ?いえ、訂正するわ。おチビは私の傍にいるかぎり一生童貞ね。


「私が欲しい?」

「…………………………………………からかわないでください」

「ふふっ、今凄く迷ってたね。だけど絶対に駄目」

「純潔を失うから…………ですか」

「そう、そしてそれとともにお前の餌としての価値を失うから」

「分っています」

「本当かしら?ふふっ」


 そう言って私は目を閉じて眠りについた。

 おチビには様々な教育を施してきた。

 勉強を教え、剣を教え、知恵を仕込み、そして私以外のものを一切排除した。

 従順さは元来のものだったかもしれない。

 でもおチビは知らない。同族のぬくもりを。

 同族がおチビに向ける感情は敵意だけ。稀に善意や好意があったとしてもおチビはそれを疑うだろう。

 なぜなら私がそういうふうに育てたから。

 同族を信じるな。人間を信じるな。

 この世界に人間ほど信用に足らない生き物はいない。

 それは事実。そして私はおチビに人間の汚い部分を見せ続ける。

 欺瞞も偽善も必要ない。

 おチビの人生にそんなものはいらない。

 そう。お前はただ餌として私の隣にいればいいの。

主人公

名前   『ミサ』から『クイーン』へと改名

種族   吸血鬼

能力   不死 炎支配

下僕   0人

殺害者数 1785人

死亡回数 207回


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