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吸血女王  作者: 妄想日記
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第十話 おチビ

「う、うぅ……」


 服も顔も身体も薄汚れていて男の子か女の子かもよく分らない。

 どう見ても死に掛け。暴行の跡まで見える。

 多分この子が消えたところで誰も気づかないんだろうね。

 可哀想に。きっと誰も助けてくれない。

 私と…………同じか。


 そう思うと私はその汚いボロ切れを担いで歩いていた。

 そして街を抜け出し街道から逸れるとすぐに森の中へと飛び込んだ。


 私が化け物だからかな。月の光の届かない森の中でも全然見える。

 私は音を頼りに川を探して、河川敷に子供を横たえた。


「ひっ!」


 いつの間に目を覚ましたんだろう?

 子供が私を見てめちゃくちゃ怖がってる。


「ほーら、怖くない怖くない」


 私が子供の恐怖心を解くように笑顔で話しかけると……。


「ひぅ!」


 悲鳴をあげやがった……。

 なんて失礼なガキなの。

 花の乙女に向かって悲鳴をあげるなんて躾がなってないんじゃないかな?

 私は子供の首元を掴んで顔を上から覗きこんで言った。


「怖くないって言ってるのが分らないの?次に悲鳴をあげたら川に沈めるわよ」

「ぅ…………。」

「いい?私はこう見えて子供好きなの?私の言うとおりにさえすれば殴らないし殺さない。返事は?」

「…………?」

「私が返事はって聞いたら全部『はい』って言えばいいの。それ以外言ったら川に流すから」

「!?……はぃ…………」

「よろしい。じゃあその汚い身体を洗うから動かないでね」

「……はぃ」


 私は自分の着ている服の袖を引き裂いて川の水で濡らし、子供の身体を優しく拭ってあげた。


「……っ!」


 傷に染みるのか子供は叫びそうになりながらも何とか堪えている。うんうん、物分りの良い静かな子供は好きだよ。


「ふーんふふーんふふーん」


 私は上機嫌に身体を拭い続けた。

 汚れは落ちていくものの、その分暴行の跡が目立ってきた。

 とはいえこれはどうしようもないよね。私は医者じゃないし。

 洗って綺麗に拭ってやるしかできない。

 そうして全身を拭ってやると随分マシになった。

 そしてその過程で分ったことだけど、どうやら男の子だったらしい。

 うん、可愛らしいのが付いてたよ。

 それがなんであれが大人になるとあんな凶器みたいになるんだろうね。

 そうなる前に潰してやろうかと思ったけどこれ以上身体に負担を掛けたら本当に死んじゃいそうだったからやめてあげた。


「さて、お姉さんはちょっとここを離れるけどお前はここを動くんじゃないよ」


 そう言うと子供は私の服を掴もうとして触れる寸前で止まり、涙を流し始めた。


「え?もしかして捨てられるとか考えてる?」


 そう言うと子供はこくりと頷いた。


「心配しなくても捨てたりなんかしないってば。何たってお前は私の記念すべき餌一号なんだから」


 そう言って私は笑顔で子供の頭をゴシゴシ撫でてやった。

 そう、実は身体を拭ってやるときにちょっぴり味見をしたのだ。

 と言っても出血してたところをちょっと舌で舐めてやっただけだけどね。

 その味のなんと美味しかったことか。

 もう完全にあの神父を超えてた。

 当たり前だけど童貞だったんだね!

 というわけでこの子供には死ぬまで童貞を貫いてもらって私の餌になってもらうことにしました!


「そうそう、逃げられても面倒だからねー」


 私はテキパキと子供の手足を布で縛ってその辺に転がした。


「これでよしっと。じゃあちょっと行って来るね」


 子供が何か言おうとしたのを無視して私は狩りに出かけた。

 今の私であれば一ヶ月くらい何も口にしなくても全然大丈夫な気がするけど、人間は食べないと死ぬしね。

 それにしっかり栄養を取らないと治るものも治らないでしょ。


 そしてそれから十分もしないうちに動物の気配を感じ取った私は獲物を引っさげて子供の下へと戻った。

 よしよし。大人しくしてたね。


 私は獲物であるイノシシを地面に放り投げ、子供の拘束を解いた。


 さて、イノシシの肉が食べられることは常識だけど、さすがに化け物の私でも生食は嫌だなー。

 とは言え火を起こす道具もないし……。

 はぁ……このイノシシ勝手に焼けてくれないかなぁ…………と考えていたら突然イノシシが燃え盛った。

 ちょ!?え!?何この自然現象!?せっかくの獲物が炭になる!


 焦って燃えるイノシシに手を突っ込むと火がすぐに消えた。


 ……。


 燃えないかなー。


 ボウッ!


 消えないかなー。


 シュッ。


 燃えないかなー


 ボウッ!


 消えないかなー。


 シュッ。


 萌えないかなー


 しーん……。


 ちっ、引っかからないか。

 って、もしかしてこれって魔法!?私って魔法まで使えるの!?

 よし!これから……。


 私は胸元に忍ばせていたナイフでイノシシを解体して焼き始めた。


 ジュ~~~~~~~~。


 うーん。いい匂い。

 タレがないのは残念だけど、結構美味しそうだよね。

 私は肉を手に持ったまま燃やして焼肉を始めた。

 しかしそれを横で見ていた子供が慌ててオロオロしはじめる。

 一丁前に心配してくれてるらしい。


「大丈夫大丈夫。私は化け物だから」


 そう言って焼きあがった肉を一口サイズに切り落として子供に手渡した。


「ほら、食べなさい」


 受け取った子供は熱かったのか焼肉でお手玉を始めた。


「あは、あははっ!お前上手ね!」


 子供のクセに思った以上に器用みたい。

 程なくして熱くなくなった肉を手のひらの上に乗せて私の方を不思議そうに見ている。


「私の言ったことが理解出来なかった?言っておくけど、二度も同じことを言うつもりはないわよ」


 それでも子供は動かない。

 はぁ……やれやれ。


「そう。分ったわ」


 そう言って私は子供の手から肉を取り上げると、子供は未練たらしく私の手の中にある肉をじっと見つめていた。食べたいなら食べればいいのに。


「私に逆らうとは良い度胸ね」


 私は足で子供を押し倒してそのまま馬乗りになった。


「お前に拒否権なんてないから。さぁ食え。食って肥えろ」


 言って見ればこの子供はガチョウの子供。私がフォアグラ(童貞の血)を美味しく頂くための家畜同然なのである。

 口に焼肉を押し込む。


「よく噛みなさい。いい?いきなり飲み込んだりしたら川に流すわよ」


 口に無理やり肉を詰め込まれた子供は目を白黒させながらゆっくりと租借をはじめた。


「よろしい。飲み込みなさい」


 子供は飲み込もうとして…………肉を喉に詰まらせた。

 私は慌ててそれを無理やり吐き出させる。


「ごほっごほっ!」


 そして子供の口から出てきた肉は全然噛めていなかった。


「全然噛めてないじゃない……。ちょっと口の中見せなさい」


 子供の口の中を見ると歯はある。特に折れているようには見えない。確かにイノシシはちょっと硬いけど…………うーん、単純に噛む力が弱かったのかな。貧弱すぎる。


「はぁ……仕方ないわねぇ」


 私は仕方なく焼肉を口に含んで噛みまくってミンチにしてやった。


んあんしあひゃいお(がまんしなさいよ)


 そして口に含んだ食べ物をそのまま子供の口へと直接口移しする。


「!?」

「吐き出したりなんかしたら川に流すから」


 子供は私が口移しした肉をゆっくりゆっくり飲み込んでいった。

 口移しは一見すると変態行為というか性的虐待に思えるかもしれないけど、そんなつもりは私には一切なかった。

 理由はただ単純に自分の噛んだものを見たくなかっただけ。

 だって嫌じゃない?

 口の中でもぐもぐした肉を一度吐き出してそれを子供に食べさせるなんてそれこそ変態だと思う。

 それにほら、私は化け物だし、人間に対して憎しみを抱いたとしても恋愛感情や性欲なんてものは抱くわけがない。

 ましてやショタでもあるまいし。

 とは言え食欲はあるんだよねー。

 もしかしてと思って口移しのときにちょっと子供の唾液を拝借したけど、血ほどじゃないけどまぁまぁ美味しかった!

 血を芳醇なワインに例えるとするなら、唾液は甘いトロピカルジュースってところかな?


 うん、これからは口移しで食べさせようか。

 子供は栄養取れるし、私は美味しい思いが出来るし、一石二鳥だよね。


 私は子供が食べられなくなる限界まで口移しで肉を与え続けた。

 まるで雛にエサをやる親鳥の気分。

 この子も基本されるがままで反抗しないから楽でいいな。


 それから私は子供《暖房器具》を抱いて眠りに付いた。





 明朝私は子供の身じろぎによって目が覚めた。


「ふああああああ。ん、おはよう」


 そう言ってぽんぽんと頭をたたくと、子供は小さな声でおはようございますと言った。

 そしてそのままの体勢で再びイノシシの肉を焼いて口移しで与えて子供を手の中から介抱した。


「さて、お前はこれから私の餌として育てられることになるわけだけど…………ああ、餌って言っても別にお前をバリバリ食べたりなんてしないから安心して。時々血を飲むくらいよ」

「……はぃ」

「で、お前。名前はあるの?」


 私が子供に尋ねると子供は首を振った。


「そう。名前がないと不便ね。私が考えてもいいけど…………やっぱ面倒だからパス」


 餌に名前を付けたら情が移って食べられなくなっても困るからね。


「これからお前のことをおチビって呼ぶことにするわ。実際小さいし」


 ナニがとは言わないけれど。


「……はぃ」

「それでこれからのことだけど、私は化け物だから人間の街にはいかない。だから私から逃げられるとは思わないで」

「……はぃ」

「それでおチビはしっかり食べてしっかり太ること」

「……はぃ」

「私の名前はそうね…………」


 次の名前は何にしようかしら。

 って、ちょっと待って。そもそも人間じゃない私に名前なんているの?

 必要…………ないわよね


「クイーン。これから私を呼ぶときはクイーンと呼ぶこと」


 同族がいるかどうかは知らないけど、私が知る限り私が唯一にして頂点。だからクイーン。


「……クイーン」

「よろしい。早くこの国を離れたいからとりあえず体力が付くまではおチビは私が運ぶから今は身体を治すことと太ることだけ考えなさい」

「…………はぃ」


 こうして私とおチビの人間を避ける旅が始まった。

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