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聖女候補と防護魔法


「うん、味は大丈夫……なはず」


 味見をしてから煮立った鍋の灰汁を掬って、最後に追加する香草をみじん切りにする。調理を始めた時はかなり焦ってたけど、なんとか大きな失敗をせずに料理が完成しそう。


「良い匂いですね」

「サイラス君! ディートリッヒは大丈夫だった?」

「ご心配をお掛けしてしまい申し訳ありません。確認しましたが問題ありませんでした」

「良かった……」


 ディートリッヒもこれから旅をする仲間だから何も問題が無くて本当に良かった。


「あともう少しで夕食が出来上がるから、もう少しだけ待っててね!」

「はい。楽しみにしています」

「そんなに期待されると緊張するな。用意してくれたのが使い慣れた食材ばかりだったから助かったけど、ケルンの料理と比べると……その、凄く素朴な味だからお口に合わないかも……」


 学園に入学してからもたまに自炊はしてたけど、サイラス君はどこでメルネ草なんて手に入れたんだろ? 村の外では初めて見たかもしれない。


「そんな事はありません。ケルンの食は……私にはいささか濃い味付けが多かったので」


 もしかしてケルン出身じゃないのかな……? 私サイラス君の事何も知らない……でもそれはサイラス君も同じだよね。


「食べ物の好みだけじゃなくて、えっと、これから色々話そうね!」

「はい」

「……」


 くぅ……会話が続かない。そもそも学園でもずっと一人だったから、どうやって話を広げるのか分からないよ!!


「エリス様」

「あ、わっ!?」


 目を離した隙に吹きこぼれそうになった鍋をサイラス君がさっと焚火から離してくれた。


「ありがとう」

「どういたしまして。鍋はどういたしましょう?」

「えっと、香草を加えてあとひと煮立ちさせたら完成だから、横に置いてくれるとうれしいな」

「分かりました」


 料理は任せてって言ったのに恥ずかしい……サイラス君が焚火の傍に置いてくれた鍋に準備してた刻んだ構想を加えてから、もう一度焚火の上に移す。少しの間待って、煮立った直後に鍋を火から避けてもう一度だけ味見をする。


「うん、完成! 器によそうね」

「ありがとうございます」


 夕食の準備が整って、食事を開始する直前になってまた緊張し始める。サイラス君はああ言ってたけど、口に合わなかったらどうしよう……。


「体の芯まで温まりますね」

「うん! 冬は特別おいしく感じる料理なんだ。私の村では、季節なんて関係なく年がら年中食べてるけど」

「凄く美味しい……大好きな味です」

「よかった、お代わりもあるからいっぱい食べてね!」


 木のスプーンを使って上品な仕草で味わってるのに、物凄いペースでサイラス君の器に盛られたスープが減っていくのにびっくりしながら私も食べ始めた。


 お母さんが作るスープには敵わないけど今回は大成功だ。


 ケルンの街では手に入らないメルネ草とかを代用せずに、ちゃんとレシピ通りに作った香草スープを飲むのはいつぶりだろ……久しぶりの実家の味が心に染みる。


 誰かといっしょにごはんを食べるのも久しぶりだけど、やっぱり――。


「エリス様?」

「あっ、ごめんね、おかわり?」

「いえ、考え事をされてるようだったので」

「大したことじゃないから心配しなくても大丈夫だよ! 誰かと一緒に食べた方がごはんが美味しく感じるな~って思ってただけだから」


 学園の食堂で一人で食事をするのはハードルが高かったから、よく寮で自炊してたけど……逆に料理の腕がなまってなくて良かった。


「……私もそう思います。毎日エリス様の料理が食べられるなら、これからの旅が更に楽しみになりました」

「わ、調理番としての責任重大だね!」


 作れる料理のレパートリーを増やさないと……!


「このスープだけでも十分です」

「ずっとスープだと飽きちゃわない?」

「そんな事ありません。毎日食べたい位です」

「ふふ、ずっと同じものを食べてたら栄養が偏るから他の料理も頑張るけど、スープも定期的に作るね!」

「お願いします」


 久しぶりに誰かと一緒に食べる夕食を堪能してたら、気付かない内に鍋が空になっちゃった。後片付けをしようと器を持ち上げると、サイラス君にそっと手を下げられる。


「後片付けは私がさせて頂くので、エリス様は休んで下さい」

「いや、二人でやった方が――」

「先程の件のお詫びも込めて私にお任せください。今後は一緒に片付けさせて頂くので」


 雑用を今後全部一人で引き受けるつもりなのかったちょっと心配だったけど、これからは一緒に後片付けをしたいって聞いて安心する。


「……分かった! じゃあ先に休むから、夜番を交代したくなったら起こしてね!」

「はい。ただ……お休みされる前に、一つだけ確認してもよろしいでしょうか?」

「確認?全然いいよ?」


 サイラス君が私の傍に近寄って、全身を確認される。


「……こんな魔法ではエリス様を守れませんね」

「え?」


 バリン。


「……え? え!?」

「貞操を守る魔法を施されていましたが、邪な感情を抱いた相手を近づけさせないだけでは足りませんね。こはぁぁ……」


 んん!?


「これでもう大丈夫です、元々施されていた防御魔法をより強固なものに書き換えました」


 え……!? あれって学園長が手配した魔術師様に掛けて貰った、かなり高位の魔法だよね……? それを書き換えたっていうか破壊……え??


「おやすみなさい、エリス様」

「お、おやすみなさい??」

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