121.おじさん、キョウト③
キョウト キョウト学園――
時計台前広場にて。
戦場に鈍器がぶつかり合う鈍い音が響き渡る。
「うらぁあっ!」
「っ……!」
鎧兜に身を包んだモモが手に持つ小槌を縦方向に振り降ろす。
ミストはそれを弾くように槌を横に振る。
モモは追い打ちをかけるように繰り返し打撃を試みる。
キョウトではミストとモモが激しい戦闘を繰り広げ、ジサン、サラ、そしてコマリがそれを見つめていた。ミストが一人での戦いを申し出たためだ。
戦況として、モモが積極的に仕掛け、ミストはそれを受けるように武具で防ぐという状況が続いていた。
「やるじゃないか……」
「……」
優勢に見えるモモがそれを防いでいるミストを讃える。
「しかし、今の打撃で二十九打目だ……」
モモは得意気な表情でそんなことを言う。
「……二十九……? どういう意味だ?」
「つまり……次の打撃で三十打目だ……」
「……」
思うような解が得られず、ミストは眉間にしわを寄せ、怪訝な表情をする。
「この打出の小槌で三十度、打たれると……おっと……これ以上は打たれてからのお楽しみということで……」
「っ……!」
ここぞとばかりにモモは畳み掛け、小槌を乱打する。
ミストは回避を試み、数発の攻撃は辛うじて避ける。しかし……
「今更、回避しても無駄だぁ!」
モモの猛攻全てを武具なしで避け切ることは難しかった。
「くっ……」
戦場に武具と武具が衝突する鈍い音が響く。それと同時にモモの口角が吊り上る。
「これで……」
「…………」
「…………あれ?」
が、しかしそのモモの脳裏に疑問が生じる。
「あー、楽しみだなぁ」
「っ!?」
奇妙さを覚えていたモモは目の前の男の発言に妙に驚いてしまい、激しく肩を揺らす。
「小槌で三十度、打たれると、何が起きるんだろー、ワクワクー」
ミストはわざとらしく棒読みするかのように言う。
「ど、どういうことだ……打出の小槌の効果が……は、発動……していない……?」
モモは露骨に動揺しながらも、期待した事象が発生していない事実を確認する。
「え……? 発動してないの?」
相手の疑問に対し、モモは言葉を返すことができなかった。
「なんでだろうね? もう一回やってみる?」
「っ……」
「まぁ、無駄なんだけどね……」
「っ!? きさまぁ……」
ミストの発言はこれまでの発言が全てを理解した上でのものであったことに気付き、モモはミストを睨みつける。
「お前さ、この槌の形に違和感覚えなかったわけ?」
「っ……」
そう言われ、モモは改めてミストの槌をまじまじと確認する。
「打撃部分が先細りするような形状…………まさかお前……」
「そのまさか。俺は鍛冶師だ。鍛冶師は武具の性能・性質を変異させる」
「っ……! し、しかし鍛冶スキルはあくまでもフィールドでの話! な、なぜ戦闘中にそんなことが……」
「この槌のことを話していなかったな。こいつは”珠玉槌”。」
「珠玉槌!?」
それが魔王ネネの討伐報酬であることはモモにもすぐにわかった。
「そ、そうか……アングラ・ナイトが……」
モモは居心地悪そうに戦闘の横で佇んでいるおじさんを一瞥する。
「この珠玉槌により、俺はワンステージ上の鍛冶師となれた。つまるところ戦闘中の鍛冶スキルの発動が可能となった」
「そんなことが……」
「当然、対象武具への接触が条件ではあるが、幸い、お前がこれ見よがしに、ぶつけてきたおかげで大分、捗った」
「っ……!」
「てめぇ……わかってて……」
「悪いな、俺は性根が性悪でな……調子に乗ってる奴を貶めるのが、この上なく好きなんだ……」
「っ……」
ミストはニヤリと薄ら笑いし、一方でモモの表情が歪む。
「だ、だが……打出の小槌の特殊効果が無力化されただけであって……拙者の優位に変わりはっ!?」
前向きになろうとしたモモに振り降ろされた強力な打撃が炸裂する。
その一撃でモンスター化により増大しているはずのHPゲージが1/5は減少する。
「さて、そろそろこっちからも攻撃させてもらいましょうかね。ちょうどその武器に弱体化効果も付与した頃合いだしな」
「っっっ……!」
「さて……処刑の時間だ」
「しょ、処刑……?」
「まさか、お前……自分達はプレイヤーをキルするのに、自分はキルされることはないと思っていたのか?」
「……っ!」
「ちょうどお前はモンスターみたいだから、HPがゼロになればゲームオーバーだろ?」
「っ……! ちょ、ちょっと待って」
「……」
制止するモモを無視して、ミストは武器を構える。
「っ…………」
焦りで顔を歪ませるモモは一度、強く目を瞑り、そして幾分情けない表情をのぞかせるも何かを決断する。
その瞬間、モモに表示されていた名称が消滅する。
「あ、あれ……? まさかお前……」
「そうだ! 今、モンスター化を解除した。つまり、これでお前に拙者はキルできない! 残念だったな!」
「っ……!」
「ざまあみろ! お前ごときに復讐は果たせないんだよ!!」
モモは形勢逆転したかのようにミストを罵る。
「はっ、キルされる覚悟もなく、モンスターやってんのか? だっせぇな……」
「っ……!?」
「それにな、どうやらお前は思い込みが激しいようだ」
「……?」
「今、お前は哀れにもひとつの勘違いをして、安全であると思い込んでいる」
「な、なんだ……」
「何もモンスターになれるのはてめえらだけの特権じゃねえんだよな……」
「っ……!?」
「ちなみにお前、俺が誰だかわかるか……? 俺のプレイヤー名と言った方がいいか……」
「……」
「わからないようだな……その答えがこれだ……」
「っ……!?」
ミストの傍らに名称が表示される。
「え……? どういう……みす……」
モモは一瞬、状況を掴めなかったが次第に理解が追いつく。名称が表示されるのはモンスターの特徴だ。そして……
「ま、まさかお前……魔王:タケルタケシを討伐した……」
「そうだ……そして、この名は魔具:改名石により変更したものだ……」
「っ……!」
「元のプレイヤーネームは”ミツミ”」
「っ……!? しょ、哨戒商会の……」
「わかったか? これがお前がキルされる理由だ」
「っ!?」
モモは青褪める。
「わかったようだな? それじゃあ……」
「待て!」
「……」
「待ってくれ……! 拙者じゃない! 拙者は哨戒商会のキルには参加していない!」
「……」
ミストは無言でモモに近づいていく。
「やめて……やめてよぉ」
モモは戦意喪失したのかその場でへたり込み、泣きじゃくる。
「何のつもりだ?」
「え……?」
モモには一瞬、なぜそのようなことを聞かれたのかわからなかった。
顔を上げると、モモとミストの間に一人の人物が割り込んでいた。
その少女は、雨でもないのに、カエルをモチーフにしたレインコートのようなものを羽織っている。
「もう一度聞く……何のつもりだ?」
ミストはその少女……コマリに再度、問う。
「困りましたね……人殺しはダメだと思います……」
「っ……」
意外な人物の制止にミストは眉をひそめる。
「…………なんてね……」
「っ……!?」
コマリはにこりと微笑む。
「元々、きなくせえと思ってたんだよ……」
ミストはそんな言葉をコマリにぶつける。
(……? どういうこと……?)
傍から見ていたジサンには全く状況が理解できていなかった。
「マスター……奴にも名称が表示されています」
「え……?」
サラの助言を受け、確認すると、確かにコマリにも”コマリ”という名称が表示されていた。
「つまり、彼女もモンスターってことか……?」
「そういうことのようです」
「なるほど……」
(でもやっぱり状況がわからん……)
「……な、何なの? お前……」
(……!?)
助けに入られたモモ自身もコマリのことを知らないようであった。
「ふふふ……私は通りすがりの正義の味方…………なんてね……わからなかったかな? 私はパンマだよ」
「パンマ!?」
「そうそう」
「えっ? でもパンマは死んだはずじゃ……」
「ヒロさんから敵を騙すにはまず味方からってね」
コマリは眉を逆八の字にして、ドヤ顔でそう言う。
「え? どういうこと……? もしや被っているから? いや、パンマは被っていても表示名はパンマのままだったはず」
モモは困惑した様子で何かを呟いている。
「……改名石か?」
モモの代わりにミストがポツリと自身も使用した魔具の名称を口にする。
「ご明察……! パンマは死んで、コマリとして生まれ変わったのです!」
「っ!?」
モモは唖然としている。
改名石の他にもパンマは事前にダイレクト・ストーカーによりキリガミネ高原ダンジョンに偶然を装い近づいた。
そして、ジサンとフレンド登録することで、ステルス・ストーカーによる常時、位置把握を可能としていた。
「……パンマ……? どこかで聞き覚えがあるな……」
サラがぽつりと呟くと、
「あ……ちょ……思い出さなくていいから……!」
コマリは少々、焦った様子で両手を前に出して、ちょっと待ってというような仕草で言う。
「ところでさぁ……鍛冶師くん、モモの言ってることは多分、本当だよ?」
そう言うコマリはすでにひょうひょうとした態度に戻っていた。
「あん? どういう意味だ?」
「君のお仲間さん……えーと、哨戒商会だっけ? モモは討伐には参加していなかった」
「……」
「ちなみにではございますが、私は参加しておりました!」
「っ!?」
「うーん、困りました……って、このキャラ付もういらないか」
「てめぇ……」
「ってか、ちょっと興味本位で聞くけど、君さ、復讐が目的みたいだけど、君って、そんなこと言える立場なの?」
「えっ……?」
「君らも私らと同じくらい下衆だと思うけどなぁ……」
「っ……!?」




