35.リントヴルムの花嫁(スウェーデン)
~ 「私だけが脱ぐのでは恥ずかしゅうございます。どうか私が1枚脱ぐごとに、あなたさまもその皮を1枚ずつお脱ぎになって」
新妻の懇願に、リントヴルムは1枚ずつ竜の皮を脱ぎ始めました。 ~
◆◆◆
昔々。スウェーデンの女王には、世継の子どもがありませんでした。困った女王は占い師に相談します。
占い師は言いました。
「生のタマネギをふたつ食べなさい」
女王は占い師の言葉を最後まで聞かずに急いで帰り、タマネギを持って来させました。
あまりにも慌てていた女王は、1つめのタマネギを、皮もむかずに食べてしまいます。
それはとてもひどい味だったので、2個目のタマネギはきちんと皮をむいて食べました。
やがて女王は身ごもり、数ヶ月後、念願の赤ん坊を産み落とします。
双子の王子の誕生。
弟は健やかで愛らしい普通の赤子。しかし、兄のほうは固いウロコに覆われた蛇龍のような姿で生まれてきました。
やがて年月が経ち、ふたりの王子も年頃になって花嫁を探します。
けれどどうしたことか、兄はもちろん、弟にも嫁が決まりません。
兄リントヴルムは言いました。
「我の嫁が決まらぬうちは、弟の嫁も決して決まらぬであろう」
人間ならぬ姿をしたリントヴルムの花嫁探しは困難を極めましたが、ひとりの娘が名乗りをあげます。
そして彼女は、新床で夫に言いました。
「私が服を1枚脱ぐごとに、あなたさまもその皮を1枚ずつ脱いで下さいませ」
リントヴルムは了承し、彼女と交互に服と皮を脱ぎあっていきました。
最後の1枚を脱ぎ終えたとき、娘の前にいたのは、竜姿のリントヴルムではなく、立派な体躯の凛々しい若者でした。
こうして、娘と王位継承者のリントヴルムはめでたく結ばれ、国は永く繁栄するに至ったのです。
「女王が助言を最後まで聞き、皮をむいてからタマネギを食ていれば、王子はふたりとも人間の姿で生まれていたのに」
後に、占い師はそう語ったそうです。
◆◆◆
名の知れた竜、リントヴルムの物語。
今回は『龍のファンタジー』(東洋書林)の説をご紹介しました。
別の説、それは"タマネギではなく赤白のバラを食べる"とか、"娘が羊飼いで、嫁入り前に助言を受ける"とか、です。
バラよりタマネギの方が、皮をむいていくお話とリンクしていて説得力があるので、タマネギ説が好きだなぁ。
女王様の"せっかち"ぶりが、とても伝わってくるお話。占い師の言葉は最後まで聞きたいものだし、タマネギは皮をむいて食べたいものです。
この言い伝えは、個人的にとても大好きです。王子出るし、竜出るし。良き!!
服を1枚ずつ脱ぎ合うのも、なんだかワクワクします。ちょっと"野球拳"っぽい。(違う)
それにしても、リントヴルム、リントブルム、リンドブルム……どの表記が正しいのでしょう?
リントヴルムは蛇龍なので手足がないはずですが、こちらも国によって記述がマチマチです。中世以降の紋章にも描かれていて、「容赦のなさ・雄々しさ」などを表しいてるそうです。その際には翼付きだったりもします。つまり。何でもありですね?
お読みいただき、ありがとうございました!(^^)/
私、この話、民話集の中でも上位レベルで好きなんです。ぜひ、感想欄でご共感いただけたら嬉しいなぁと思いながら、ご紹介させていただきました。




