34.ナイル女王の宴(エジプト)
~ 遥けき古代。
ナイルのほとりにあるエジプトが、ローマと危うい関係にあった頃。
国の機運を賭けて、女王クレオパトラはアントニウスをもてなしました。
連日の豪勢な宴でアントニウスを歓待しますが、彼は「大したことないな」と、がっかりした様子をみせます。
クレオパトラは、侍女にきついお酢の入った杯を持って来させました。
「アントニウス様。この宴を、1万セステルチアを越える宴にしてみせましょう」
1万セステルチアとは、当時、国がいくつも買えるほどの大金です。
宴席にどれほどのお金を使ったところで、そんな大金は使いきれるものではありません。
訝しげに眉を顰めるアントニウスをよそに、クレオパトラは、自分がしていた大きな真珠のイヤリングを外しました。
小国なら、15は買えると思われるほど、高価な真珠です。
彼女はそれを、酢の入った杯に落としました。
じゅわっ……!
あっという間に真珠は酢に溶かされ、驚いているアントニウスに、女王は宣言します。
「これで、この杯は、1万セステルチア」
あっけにとられているアントニウスの眼前で杯を飲み干すと、今度はもう肩耳にしていた同じ真珠のイヤリングを外しながら言いました。
「今、あなたのためにもう一杯同じものをご用意しましょう」
用意された別の杯に真珠を落とそうとした彼女を、アントニウスは慌てて止めました。
こうしてクレオパトラは勝利し、彼女の国エジプトは守られたのでした。 ~
(絵 2003年)
◆◆◆
今回は伝説というより、歴史の逸話から。
クレオパトラといえば、ぐるぐる巻きの絨毯に隠れてローマ陣営に潜り込み、カエサル将軍に面会した逸話が有名ですが、アントニウスとのエピソードはカエサル死後のこと。庇護者カエサルを失って、エジプト再びピンチ!! そんな中、クレオパトラのとった心理策、豪胆!!
お酢に、世界最大の真珠を溶かして飲んじゃうって、すごいです。
そして、お酢の一気飲みもキツそうです。(違う)
ワイン・ビネガーとも言われていますが。いや、ワインって言葉ついてても……お酢はお酢味では……。
さすが、美貌の女王は、お酢程度には動じないということか。
それに自国がやられるくらいなら、お酢くらい飲んじゃう?
王様って大変なんだなぁと感じると共に、名のある男性をも圧倒する、クレオパトラの魅力炸裂・真珠飲み干し事件は、緊張感続く宴での優美な大勝利として、私の心に強く残ったのでした。
◆◆◆
ちなみに、もっと詳細に語りますと、まず前日にクレオパトラがアントニウスに「1万セステルチアを越える宴を披露してみせる」と"賭け"を持ちかけ、当日は勝負の審判(アントニウスの配下)もその場にいたとのことです。
敵将の配下が審判って不利。にもかかわらず勝ったクレオパトラ。
さらに言われているのが、「そんなに簡単に、大きな真珠がお酢に溶ける? もしかして、真珠に見せかけて白亜でニセ真珠を作っていたのでは?」と、いう説。
わぁぁ、面白そう。真実は歴史の当人にしか分かりませんが、小説のネタとして盛り込むと、いろいろと盛り上がりそうですよね?
お読みいただき、ありがとうございました(^^)/
昨日は、なんと拙作に"レビュー"を賜りました!! 今作には初レビュー!! 嬉しい――っっ。
月イチ・マイペースで、自由気ままな連載スタイルですが、今後ともどうぞよろしくお願いいたします。
個人的には絵の古さが気になります。が、直す時間が取れず、すみません。




