32.濡れた服(イタリア)
~ 幼い子どもを亡くした女が、子を諦めきれず、昼も、夜も、子どもの墓の上で泣いていた。
ある※公現祭の夜のこと。
美しい魔女の女王、青い服のブレクタに導かれ、亡くなった子どもたちが連なり、長い長い行列をなしていた。
その列の最後尾を歩く子どもは、服がぐっしょりと濡れ、重そうにしながら、必死に皆の後を追いかけている。
あまりに疲れ果て、寒そうにしている子どもを見かね、女が近づいてみたところ。
なんと、その子は失った我が子であった。
驚き喜ぶ母親に抱かれながら、子どもが言った。
「また会えて嬉しいよ、お母さん! でも、あんまり泣かないでね? お母さんが泣くとホラ、僕の服、いっぱい濡れちゃって、皆についていくのがやっとなんだ」
子どもの言葉に、母親はハッとし、そして、もう泣かないことを約束した。
服が軽くなった子どもは、皆に続いて、天に昇って行ったという。 ~
(絵 2006年)
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子どもを失うと、それはもう泣き暮らすこと間違いなしかと思います。泣くなというのも無理な話。だけど、子どもの服が重く濡れるのは、親として望むことではなく……。むむぅ。元気に生きててくれるのが一番! ほんとそれに尽きます。
日本でも言われてますよね。生者の嘆きは死者の成仏を妨げる。
遠く離れた北イタリアでも、同じように考えられているのは興味深いです。
寒い山岳地帯に伝わるお話ですが、青い服の女王は、魔女の女王にして豊穣の女神。彼女が亡くなった子どもたちを連れ歩くのは、古代の大地母神として、命を再びその胎内に迎え入れる特性を示しているそうです。
参考にした図書『イタリア異界物語』(東洋書林)によれば、彼女はフラウ・ホッレとイコールでつながれていました。フラウ・ホッレ? ドイツの魔女の? へぇ――。
こちらの書での名前はブレクタ。優しく厳しく、美しく恐ろしくといった多面性を持つ、まさに北山の化身のような描かれ方をしています。
山が白くなるのは、女王がシーツを直したから。
ドイツでも雪が舞うと、"フラウ・ホッレが羽根ぶとんを直している"と言われているらしいので、やはりブレクタ = フラウ・ホッレなのでしょうか?
エピソードがつながっていて、面白いです!
(絵 2008年)
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※公現祭 = エピファニア (Epifania)
キリストがはじめて公の場に姿をあらわした祝日。1月6日。子どもや庶民のために働く人たちに贈り物をする風習があり、ここでの魔女の名前はベファーナ (Befana)。サンタクロースのようにお菓子を配りながら、箒で1年の厄災を祓う良い魔女だそうです。
お読みいただき、ありがとうございます(^^)/
ご感想たくさんいただいていて、嬉しい悲鳴をあげております!
が、いかんせん、お返事の方がまるで追い付いておらず、申し訳ありません。
かけていただくお言葉、とても有難く、いつも宝物のように読ませていただいております!!




