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第0章~2~【Battle】

専用コンソールの中へと入った俺は、勝手にしまった扉に目をやりながら首元へとケーブルを持っていく。いくら脳にチップを入れているからと言って、全てがワイヤレスで出来るわけではない。しかもこのケーブルをつなぐのには意味がある。仮想世界で起こった事を、ダイレクトで脳に伝えると言う役目だ。

つまり向こうで死にそうな位のダメージを受けたら、それがこのケーブルを伝ってそのまま脳へと送られていく。

このブレインチップを使ったゲームが開発された当初は、そういった情報をシャットアウトする為の措置が取られていたらしいが今はそういったモノが全く無い。何せ向こうはこちらを必要最低限まで減らしに来ているのだから。


「よしっ、準備完了」


目を瞑りながら俺は静かに呟く。アイコンがいくつも点滅しているが、それを俺は消去しそのまま1つのプログラムを呼び出す。

ヘルヘブンオンライン。そう書かれたプログラムにアクセスしつつ、呟く。


「ダイブッ!!」




◇◆◇◆◇



この特区内では基本的に外で出回っているお金は一切使えない。それは日本の円に限らず、ドルやユーロ、元なども例外では無い。

ではどうやってお金を稼ぐのか? それがこのオンラインゲームである。嘘かと思われるが、これが唯一の方法である。そして俺達が命を掛けている場所でもあるのが、ここでの現実だ。


「よぅ、待ったか?」


不意に後ろから声を掛けられる。振り返るとそこには<Sirito>と書かれたアイコンと共に、四里斗が立っている。もちろんアイツから見れば、俺の所には<Kuro>と書かれているだろう。


「いんや、俺も今没入ダイブしたとこだ」


ここは確か西の方のクレッサだったか? 割と初期のモンスターが出てくる狩場の近くの町だ。ちなみに俺達の顔は現実世界とほとんど同じ様になっているので、ちらほらとクラスメイトの姿を見る事もある。

この世界でモンスターを倒したり、アイテムを売ったりして得られるお金『リリング』。それは特区内の貨幣の単位であり、それが無いと食事すら出来ない。

だから俺達にある選択肢は2つ。この仮想世界で死を覚悟して戦うか、何も出来ず、現実世界で腐っていくか。


「さて、んじゃ狩場に行くか? たまにはいいもの食べたいし」


「そうだな」


手を振ってメニューを呼び出す。そしてアイテムボックスに放り込んでいた装備一式を呼び出し装備。入学してから2ヶ月で23と言うのはかなり上位のレベルだと思う。しかしこの世界は広大すぎるが故にレベルがいくつまであるのか分からない。大学生位は1000を超えている廃人も居るらしいが

だから初期モンスターを狩って、お金と経験値を貯めていく。それが俺達の当分の目標である。


「そう言えばさ、最近知り合いから新しい狩場を教えて貰ったんだけど行くか?」


「うーん、別にどっちでもいいけど」


「そ、なら行こうぜ?」


基本的にこの世界は何でもありである。魔法、超能力、剣術、エトセトラ……。しかし全てはスキルと言うモノを習得する事のみが使用条件である。そこから熟練度が上がっていくのだが、スキル習得が恐ろしくシビアかつ確率が低すぎる。

何とか俺は最初に選択した二刀流と、アイテムドロップ率増加。そして初期についていた防御やら魔法耐性やら何やらだけで。1つだけブラックボックスとしてエクストラスキルと言うのが設定されている。

これはヘルヘブンオンラインの特徴で、プレイヤーは皆エクストラスキルと言うモノが初期から備わっている。しかしその場所に能力が現れるのは、このゲームが始って以来分かっていないらしい。初期レベルで持っているヤツも居れば、高レベルでも発現しない事もある。

ちなみに俺はまだその欄が白いままだ。対してシリトは既にエクストラスキルを持っているのだが、何か微妙な能力だったって言ってたっけ?


「ほらっ、着いた。レベル25~30の狩場」


「おいおい、こりゃまた……」


連れて行かれた場所に着いてみると、確かにモンスターがうじゃうじゃと居る。狼型のモンスター達は群れをなしているわけでもなく、ただその一帯に沸いているのだ。HPバーは500~600の辺りばかり。何とか倒せないわけでもない。


「大体デオンウルフを倒して得られるのは1体30リリング程度、そして2割から3割位でドロップするデオンの肉が1つ19リリング」


「ルート高く無いじゃん……」


「これでも前のスライムよりはいいだろうがぁ!! それにな、この時期でここら辺に居るのは俺達位なもんだぞ? 今年入学した奴らはもう少し下のレベルだし、上級生はそれこそ皆上のレベルだからな」


「独占出来るのは今のうちって事か」


剣を抜きながら俺は呟く。隣でシリトも同じ様に剣を両手で握り締めニヤリと笑う。現時点で俺達は魔法は使えない。だからこそ俺達は近接戦闘を磨いてきたのだ。


「良いか、これはゲームだけど現実だ。ここで死ねば、向こうでも死ぬ」


「だけどHPバーは存在しない。それはこの体が仮想で起こった事を全て現実と受け止めさせて、最終的には『ブレインロック現象』によって俺達は死ぬからだ」


良くHPバーが消失したら脳を焼ききったり、殺してしまうって話をライトノベルで読んだがアレでは計画した人間が罪に問われる。だけどブレインロック現象と言うモノがこの世界には存在する。

簡単に言えば、脳が死んだと思えば現実世界で死んでいなくとも活動停止になってしまうと言うヤツだ。そしてここは痛みをほとんどフィードバックしている。だからこそ脳もその現象を起こしやすいのだ。

しかし誰も罪に問われない。何故ならその現象を起こしたのは紛れも無い自分自身なのだから。それ以前にどうせこの計画は外部に漏れていないんだろうな。死んだヤツもチップの不具合とかで処理されてそうだしな。


「だから金に目が眩んでも、引き際を見極めろ」


「そして死ぬな、だろ?」


いつものやり取りをして俺達はそれぞれの場所へと飛び込んできた。残り数メートルと言うところで、デオンウルフの1匹が俺にターゲットした。瞬間飛びかかろうとしてくるのを見て、俺は両手に握られた剣に力を入れる。元々二刀流とは攻撃に特化した形だ。だからこそ防御では無く、俺はデオンウルフの軌道に合わせる形で、右手の剣を振るう。

スキルが発動している為に、シャンと綺麗な音が耳元を通り過ぎる。そして次の瞬間には激突。物凄い衝撃と共に、腕が痺れる感触が襲ってくる。デオンウルフの牙にぶつかったのだ。そう、これを受け続けるといつかは俺も死んでしまう。脳が勝手に死んだと錯覚するからだ。



――だが俺は戦う。生きる為に



少し後ろに押されたものの、踏ん張って均衡を保つ事に成功した俺は左手に力を込める。そう、これは1つの技。まだ終わっていないのだ。1度右で斬りかかり、一定ダメージを負わせる。そしてここからは双剣では無い二刀流のアドバンテージ、リーチの長さを生かして追加ダメージを与える。その方法は斬り込んでいる右の剣を思い切り押しながら、左手に持った剣を右のソレの先端へと思い切りぶつける。二刀流スキル【ダブルストライク】。1回斬っただけでは皮膚が固かったり、致命傷にならない相手に2回分の攻撃を一箇所に集めてダメージを上乗せする攻撃。

それによってデオンウルフの牙はむなしくも根元から折れて、そのままポリゴン化し響いた音と共に砕け散る。その瞬間、力の均衡が崩れる。思い切り地面を蹴り飛ばし、そのままデオンウルフを押し込む。瞬間、1割程度しか減っていなかったデオンウルフのHPバーがごっそりと削られていく。おそらく牙を破壊した事による部位破壊ダメージと、そのまま斬りかかった事による通常ダメージの上乗せだろう。徐々にヤツの体を引き裂きながら、視界の左端で減り続けるHPバーを眺める。ちょうど斬り終わり、デオンウルフの後ろに立った瞬間、そのバーが完全に消え後ろから先程と同じ様に甲高い音がする。振り返るともうそこにはデオンウルフは居ない。代わりに右端にドロップしたものと獲得したリリングが表示されるが、生憎デオンの肉はドロップしなかったようだ。


「うっし!!」


今までよりも少し多めの経験値とリリングに小さな喜びを覚える。しかしまだ油断してはいけない。シリトの方を見ると、既に何体か狩っているのか慣れた手つきでデオンウルフを屠っていく。


「シリト、コイツの弱点は?」


片手剣であそこまで効率的に狩れると言う事は、弱点を狙って居ると言う事。


「牙を破壊してそのままお前みたいに斬り裂くか、首元を重点的に攻撃すればいいさ」


「了解」


その情報を頭の中で整理して、再び俺は眼前のデオンウルフにターゲットを絞る。再びロックオンされた事に気づいてデオンウルフは突進を仕掛けてくる。

しかし先程の直線的な動きではなく、左右に揺さぶってそれは走ってくる。


「さっきよりもレベルが上!?」


ターゲットした事によって表示されたデオンウルフのレベルは32。さっきは27だったのでレベルが5も上になる。

つまりレベルの差が行動パターンで現れているのだろう。右、左、右とみせかけて直進。ずるずると俺とヤツの距離が縮んでいく。ここは一か八かスキルを発動させるか? しかしもし避けられたら、硬直時間でダメージを大幅に喰らってしまう。どうしよう、そんな事を考えていた時だった。


「うおーーーーんッ!!」


「ガッ!?」


背後から思い切り突き飛ばされ、俺は前方に吹き飛ぶ。痛みは現実世界のそれと同じだ。

何とか受身を取りつつ、俺はその過程で背後を見る。もう1匹デオンウルフが居た。索敵スキルはこういう敵が大量にポップしている場所ではあまり有効では無い。だけど気づかなかったのは、単に俺の不注意とスキルのレベル不足だろう。


「今のでも軽く意識飛びかけたぞ……」


レベルが上がるにつれて、フィードバックされるダメージも減っていく。これはHPバーが増えるのと同じ様なモノだ。しかし俺のレベルは23で、背後から来たヤツも前方のデオンウルフと同じくこっちよりもレベルが9も上だ。必然的に防ぎきれないダメージがそのまま感覚として伝わる。


「おいおい、これ一歩ミスったら本当に死ぬぞ……?」


前方からは先程のデオンウルフが、そして後方からは不意打ちしてきヤツが同時に来る。失敗すれば両方からの突進を受け、おそらく背骨や肋骨が折れたりして最悪……。もう賭けるしかない。

俺は強く地面を蹴って、まず前方のデオンウルフのみに集中する。先程と同じ光を2つの剣が放ち始める。二刀流スキル【ダブルストライク】


「うおおおおおおおっ!!」


先程よりも、いやこの2ヶ月で数えるほどしかない命を賭けた雄たけび。同時に飛び掛ってくるデオンウルフ。しかし先程の様に牙を砕いている時間は無い。

全身を限界まで加速させ、その上で腕を思い切り薙ぐ。


「キャウッ!!」


牙がかみ合うよりも先に、俺の剣がデオンウルフの口を斬り込む。その瞬間HPバーが1割ほど削れる。しかし俺はそれに安堵する事は無く、そのまま左の剣を右のソレへとぶつける。

剣の威力に拍車が掛かる。左端で急激に減り続けるHPバーを横目に、俺は止まる事無く全身する。


「消えろォ!!」


思い切り右手の剣を振りぬく。瞬時赤色になっていたHPバーが完全に削りきり、デオンウルフが消滅する。しかし俺の戦いは終わっていない。思い切り振りぬいた右手と、地面に届きそうな位に下がった左手。そして俺の体はスキル発動後の硬直状態となっている。この状態ではある例外を除いて、次の動作に移れない。

そう、例外を除いては。


「スキルの上書きは、硬直時間を消す」


もちろん連続してスキルを発動させる事はほぼ無理だ。しかしオートで発動するのならばどうだろう?

例えば、今後ろに回した剣にデオンウルフが攻撃する事で防御スキルが発動するとしたら?

直後、甲高い音と共に俺の右手に衝撃が伝わる。ビリビリと手が痺れるのと同時に、体の硬直が解ける。


「――ッ!!」


すぐさま振り返ると、デオンウルフの顎を蹴り上げ距離を取る。立ち上がろうとするが、右手が上手く動かない。

おそらく先程無理をさせたせいで、右手に相当ダメージがいってるんだろう。しかし俺にはそれを嘆く時間も、全く無い。再び体勢立て直したデオンウルフがそのまま突進を仕掛けてくる。

避けられない。その事を瞬時に悟った俺は、直ぐに力の入らなくなった剣を可能な限り握り込む。


「動けぇええええええ!!」


叫びながら、ほとんど力の入っていない右手を振りかざす。瞬間、剣が青色に包まれてスキルが発動したのを知らせる。しかしほとんど使い物にならないこの右手で成功するだろうか? 失敗すれば――死

その瞬間、ゾワリと背中を冷たいものが走った。こんな所で死ぬ? まだたかが13年生きただけで? 寿命を全うしたわけでもなく、ただのAI如きに? 脳の勘違いで?

そう考えると、無性に怒りがこみ上げてきた。こんな所で死ぬなんて冗談じゃ無い。俺はこんな理不尽な運命に従うほどお人好しでも無い。こんなシステムで動いている相手なんてッ!!


「死んでたまるかああああああ!!」


何度目かの咆哮。それによって恐怖が拭い去られる。今俺の頭の中にあるのは純粋な生への渇望。それを原動力として、力の入らない右手を精一杯振るう。


「ギャウッ!!」


デオンウルフよりも先に、剣が振るわれて地面を抉る。そして前進するはずだった俺の体は前につんのめる形で急停止をかける。しかし俺は止まらない。振るった右手を軸にしながら、精一杯体を右にひねる。そしてデオンウルフが俺の軸としていた剣に激突したのは同タイミングだった。

痺れている俺の手が、助走をつけた突進の威力に勝てるはずも無く剣は見事に吹き飛ぶ。しかしその直進方向に俺は居ない。


「死んでろ!!」


感覚の残っている左の剣をシリトが言った首元へと突き刺す。それだけで満タンだったはずのHPバーが実に7割程減った。しかし言い換えれば、3割残ったと言うわけだ。


「ガルルゥ!!」


終わった。おそらく身体的ダメージは先程の不意打ちのみだが、精神疲労は計りしえない。そして極めつけは避け切れなかった事で倒れこんでしまった事。足腰に力が入らない。死んだ。俺はこの後突進で吹き飛ばされて、他のヤツらにもターゲットにされ死ぬ。

だけど最後くらいはちゃんと見てやる。突進してくるデオンウルフに感覚がギリギリ残っている左手で、最後の攻撃を仕掛けようとするが――


「キャン!?」


俺の目の前で突然叫びだし、その体がポリゴン化してはじける。

何故? 辺りをキョロキョロしながら考えていると、目の前に1人の少年が現れる。シリトだ。


「お前が助けてくれたのか?」


内心まだ先程の光景が焼きついており、体が震える。右下でレベルアップのファンファーレと共にドロップしたデオンの肉と言う表示を恐る恐る消しながら俺は問いかける。

するとシリトはデオンウルフの首元に刺さっていて今は地面に落ちている剣を拾い、ゆっくりと俺に返す。


「いや、そういっても良いんだけどな? お前肝心な事を忘れているだろ?」


「肝心な事?」


そう言われて、シリトが俺の剣を見ている事に気がつく。えっと、俺はデオンウルフの首元に剣を刺しました。7割ほどごっそりHPバーが削れました。そして残った3割のHPで、デオンウルフが突進してきました。死を覚悟しました。俺が死んだと思ったら、何故かあっちが死んでました、って所だろ?


「う~ん」


考えても分からない。お手上げだと言う表情をすると、やれやれと言わんばかりの顔をしてシリトは口を開く。


「貫通ダメージだよ」


「あっ、そっか」


武器はそのままデオンウルフの首元に刺さったままだったな。弱点に刺さっているという事で、通常よりも減りが早かったのだろう。


「いや、流石に前後から攻められてるの見たら助けに行こうかと思ったけどお前1人で倒しちゃうんだもん。そのくせ貫通ダメージの事忘れて、1人死んだ様な顔しやがって」


「仕方ないだろ!? 本当に死んだと思ったんだから」


「でもまぁ、初めてにしたら良い方だろう。どうする? もう少し頑張ってくか?」


そう聞かれて俺は右手に力を入れてみる。ダメだ、やっぱり痺れて上手く力が入らない……。


「今日は止めとく。二刀流が使えない状態でデオンウルフを相手するのはキツイ」


「そっか。んじゃ、俺も落ちるとするか」


そういって俺達はメニューを呼び出し、ログアウトを押す。

ログアウト中はこっちは何も出来ないし、攻撃などを受けたら直ぐにキャンセルされるので街中などでするのが普通だ。しかし再び入る時には、前回ログアウトした場所に入る事になる。つまり最短でまたこの狩場にこれるのだ。

ログアウトプロセス作動中と言う文字を見ながら、俺はもう1度視線をデオンウルフの群れへと向ける。


「今度はお前達を嫌って程狩ってやるからなァ!!」


そしてそのまま俺は光に包まれて、この仮想世界を後にした

次回は明日の朝か昼頃を予定しております。

傾向さえ分かればデオンウルフも楽勝なんですけどね。やはり初めての敵は何かと戸惑う事は多いと思います

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