54 戦いの果てに
……。
…………。
………………。
どれだけの時間が経ったのか、わからない。
実際には大した時間では無かったはずなのだが、その時の僕には、よくわからなかった。
僕は、横たわるマキナの腕の中で目を覚ます。
「うう……」
全身が激しく痛む。肌にぬるぬるした感触があり、鉄の匂いがする。出血している。
瓦礫の山の上に仰向けに横たわっているらしく、背中が瓦礫に当たって痛む。
でも、僕は生きていた。
その僕の嗅覚に、刺すような痛みをもたらす刺激臭。
何かが……焼け焦げる匂い。
僕が目を開け、痛む身体を起こすと、僕の上には、マキナが覆い被さるように倒れていた。
その背中は、真っ黒に焼け焦げていた。
「マキナッ!?」
僕は身体が痛むのも忘れて、マキナの肩を揺さぶる。
「しっかりしろ! マキナッ!」
「カケル……さん……」
生きてる! まだ生きてる!
「すごいダメージ……じゃないですか……計測……できませんでしたよ……」
「マキナ、しっかりしろ! すぐに手当てを……」
だが、マキナはゆっくりと首を横に振った。
「カケルさん……」
マキナの手が……真っ黒に焼け焦げた手が……ゆっくりと上がって、僕の頬に触れる。
「どっち……なんでしょうか?」
「え……?」
マキナは問いかける。
「私が……こうしたのは……人形としての務めを……果たすため?」
「それ……とも……」
マキナが、何かを言いかけた瞬間。
その手から力が抜けて、パタリと僕の膝の上に落ちた。
後に残されたには、瞳から輝きの失われた身体だけ。
「マキナ! マキナアアアアアッ!」
僕がいくら揺さぶっても、マキナは反応を返さなかった。
「ああ……ああっ!」
僕の口から、声にならない声が漏れる。
……これは……報いなのだろうか?
安定した生活を捨ててでも、冒険の日々に戻りたい、と言ったことへの。
その先に、死と別れが待っていたとしても構わない、と言ったことへの。
当然の……報いなのか。
僕は、震える手でマキナのまぶたを閉じ。
その肩を抱いて、泣いた。
……だが、それもまだ終わりではなかった。
泣き叫ぶ僕の周囲を、黒い影が覆う。
何か大きな物が動く気配を感じて、僕が泣いたまま顔を上げると……そこには、全身のウロコを真っ黒に焦がした、マザードラゴンがいた。
マザードラゴンは、手を伸ばせば届きそうなほど近くで、首をもたげ、僕とマキナのことをしげしげと見下ろしていた。
見ると、その腕の中には三体のリトルドラゴンがいて、彼らも一心に僕のことを見つめている。
あの死と破壊の嵐の中を、彼らは生き延びたのだ。
「……殺せ」
僕は、ドラゴンたちを見返しながら叫んだ。
「殺せよ……早く僕を殺せ!」
その時、マザードラゴンが、カッと目を見開く。
……だが、僕に訪れたのは、死ではなかった。
代わりに、僕の頭の中に、ある暗い夜の光景が流れ込んでくる。
逃げ惑う人々。
途中で転んでも、誰からも手を差し伸べられず、次々と踏みつけられる人。
誰かを突き飛ばして、自分だけ逃げようとする人。
自分から注意を逸らそうと、赤ん坊を投げつけてくる母親。
その全てが、次々と爪と牙で引き裂かれて、血霧を撒き散らし、火の玉の直撃を受けて生きたまま焼かれていった。
次の瞬間には、僕の目は再びマザードラゴンの瞳を見ている。
言われずともわかった……いまのは、このマザードラゴンがまだ子供だったころ、目の当たりにした光景なのだ。
その時、僕の頭の中に、直接声が響いてきた。
『……私は、人間という種族には、愛がないのだと思っていたよ』
そう言った後、マザードラゴンはしばらく僕たちのことを見つめていたが、やがて子供たちと共に、空へと舞い上がっていった。
彼らが飛び去っていくのは、街とは逆方向……山へと帰る方角だった。
それを見送った後、僕は再び、マキナの亡骸を見下ろした。
そして、決意した。
僕は、もう一つの大魔法を唱え始める。
死者を生き還らせる大魔法を。
だがそれは、大魔法とは名ばかりの、ロクに効果が実証されていない……というより、ほとんど成功例のない、不安定な魔法だった。
ごく稀な成功例も、仮死状態だった人が治療によって息を吹き返しただけで、死者を蘇生させたわけではない、などと疑問が呈されている。
だがそれでも、今の僕はそれにすがるしかなかった。
杖は、どこかに吹っ飛んでいってしまって、手元にない。僕は激しく魔力を消耗しながら、手の力だけで魔法を扱おうとする。
唱えられたとしても、この一回だけ。
この一回で成功しなければ……マキナは、今度こそ死ぬ。
「<大魔法>……」
そして、僕は祈りを込めながら、その魔法を唱えた。
「<死者蘇生>!」
……。
…………。
………………。
結論から言おう。
マキナは、生き還らなかった。
【お知らせ】
タグの「ハッピーエンド」は詐欺ではありません!
完結は目の前です。もう少しだけお付き合いください!




