53<地上の太陽>
「ああっ!?」
僕に蹴り飛ばされ、短い悲鳴を上げたマキナは、尖塔から弾き出されて、眼下の教会へと落ちていった。
僕の視界には映らなかったが、ちゃんと計算はしてあった……マキナは屋根に開いた穴を通って、地下聖堂まで落ちる。
怪我はするかもしれないが、あれだけ頑丈なマキナのことだ、きっと死にはしない。もしかしたら、無事に着地に成功して、ピンピンしているかもしれない。
いずれにせよ、あの地下聖堂にいてくれれば……マキナは、これから起こることから、生き延びられる。
マザードラゴンは、次のファイアボールを撃とうと構えていた。
だが、僕はそいつの鼻先に、十分に熱した白球を突きつけてやった。
マザードラゴンの目が見開かれる。
だが、もう遅い。
「<大魔法>……」
僕は、その魔法の最後の工程を発動させた。
ギュッと握りつぶすように、熱魔法を一気に収縮させたのだ……目に見えないような、小さな点になるまで。
これにより、もともと高温高圧の極みだった球体内の圧力と温度は、さらに数段階上まで、一瞬のうちに急上昇する。
そして、その現象は起こる。
かつて、とある高名な魔法使いが、水素爆発の研究中に偶然発見したと言われるその現象……いや、大魔法は……そのあまりにも強い閃光と高熱、そして衝撃波ゆえに、こう名付けられた。
「<地上の太陽>!」
とっさにマザードラゴンが、子供たちをかばうように抱え、白球に背を向けるのが見えた。
次の瞬間……閃光が、僕たちの周囲を包んでいった。
いや。
僕の周囲だけではない。
爆発の半径数キロメートルが、瞬く間に激しい閃光によって包まれ……次の瞬間には、爆心地にある物体は全て熱により蒸発し、それを免れた物でさえ、衝撃波により粉々に破壊されて吹き飛ぶ。
……もちろん、その破壊の嵐の中で、僕だけが無事でいられるはずもない。
そう。
これだけ強力な攻撃魔法なのに、これまで一度も実戦で使われたことがないのは、その超高難度な発動手順だけが理由ではない。
<地上の太陽>の最終工程では、球体内を均等に加圧・収縮させねばならない。そうでなくては、球体が破れてしまって、十分な圧力が得られないからだ。
それには、術者による複雑にして精巧な魔力操作が要求される。
そのために、術者は肉眼で白球を目視しなくてはならない。
それゆえに……<地上の太陽>を撃てば、術者は確実に死亡する。
……だが、いまの僕には、そんなデメリットはどうでも良かった。
マキナを生還させ、ドラゴンを倒す方法。
そんな都合の良い方法なんて……これしかなかったんだから。
(そう、これでいい、これでいいんだ……)
そう思いながら、僕はとても穏やかな気持ちで、これから来る死を迎え入れようとしていた。
……だが、その時だった。
何かの力が、急に僕の肩を掴んだかと思うと、次の瞬間、その何かは僕の身体の前に回って……僕をかばうように、前から抱きしめてきた。
その懐かしい感触が、僕の声を震わせる。
「嘘だろ……」
「いいえ、カケルさん」
マキナの声が聞こえた。
「忘れたんですか……私、とっても足が速いんですよ?」
「マキナ……よせ、逃げろ!」
マキナは答えず、無理矢理僕の頭を引っ張って、胸に抱えた……僕をかばうように。
「マキナ……マキナアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」
僕の絶叫は、すぐに迫ってきた熱と風と衝撃に、全てかき消されていった。
衝撃波に吹き飛ばされて、足が屋上から離れ、身体が宙に浮いた……それでも、マキナの腕は、決して僕を放さなかった。
そこまでは覚えている。
次の瞬間、僕は意識を失っていた。




