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31 元気が出る(?)時間


 翌朝、僕はスカートの中で目を覚ました。


「カケルさーん、起きてください、朝ですよー」

「うーん……?」

「カケルさーーーん」


 マキナに呼ばれて、目を開けた僕がまず思ったのは、朝なのになんか薄暗いなあ、ってことだった。


 それもそのはずで、僕の頭の周りを取り囲むように、長い薄手の布が垂れ下がっていた。

 ちなみに、布の内側は、なんだか良い匂いで満たされている。


(なんだこれ……カーテン……とは違うような……?)


 布は薄手だったので、あたりを囲まれてはいても、中を見通すのに十分なだけの光量はあった。

 僕は周囲(というか真上)の光景を、念入りに観察し始める。


(この、僕の頭を挟み込むように二本立っている、ほっそりしていながらも肉つきのいい白いモノは……人間の脚……それも、妙齢の佳人の脚だ。いやあ、見事な脚線美だなあ……)


(だとすると、その足の付け根にある膨らみを包む、薄い青色をした布は……)

(布は……)


「うわあああああああああああああああああああああああああああっ!」


 僕は悲鳴を上げて飛び起きた。


「きゃあっ!?」

 僕の頭の上にまたがるように立っていたマキナは、ビックリして背後に倒れる。僕たちの身体は重なる。が、僕は驚愕のあまりそれどころじゃない。


「ててて……もう、何するんですかカケルさん! 急に起きないでくださいよ!」


「何をするかはこっちのセリフだあああああっ! この……この痴女!」


 僕はずっと言おうと思って言わずに来た一言をついに言ったが、マキナは全く気にしていない様子だった。


「えー? だってほら、私って、基本ロングスカートじゃないですか」

「だからなんだよ!?」

「だから、こうでもしないと、パンツを見せる機会がないなって」

「頭がおかしい! 頭がおかしいよ! なぜそうまでしてパンツを見せようとする!?」


「だってカケルさん、昨日一日色々ありすぎて、疲れてるだろうと思って。元気を出してもらおうと思ったんです。ほら、そういうのは私の役目じゃないですか。ローラさんに負けてられないですよ」


「そんな理由でさっきの痴態を正当化できると思ってるのかよ……」

「えー、まったくもう、カケルさんったら。こんなことで大騒ぎして、ウブだなあ。これぐらい、若いカップルならみんなやってますよ」

「え……そうなの?」

「さあ? どうでしょう?」


 やめて! 僕の脳に一生答えが出ない問いを植え付けていくのやめて!


「ったくもう……昨日までのシリアスな雰囲気がぶち壊しじゃないか……どうして君は、少しでもチャンスがあるとすぐ下ネタに走ろうとするんだよ?」


「まーたまたぁ、そーんなこと言っちゃって♪」

 マキナは悪戯っぽく笑って、人差し指を、これ見よがしに唇に当ててみせた。

「昨日、あれだけのことをしておいて……いまさら私の身体に興味がないとは、言わせませんよ?」


「ぐっ……」


 僕が口ごもると、マキナは畳みかけるように言う。


「なんだかんだ言って。元気だって、出てるみたいじゃないですか」

「……ああそうだよ。出てるよ、元気……」


 言いつつ、僕は頭を抱えて慟哭した。


「でもそれと同時に! 僕はいま、猛烈に悲しいんだ!」

「何がですか?」

「男に生まれたことがだよ!!!!!!」


「……まあ、でもほら」

 しばらくの間、僕がたっぷり頭を抱えた後、マキナは口を開いた。彼女はまだこの話を引っ張るつもりらしかった。


「ユリアさんとの初夜では、カケルさんがリードしなくちゃいけないわけじゃないですか。つまり、これは私に課せられた重大クエストでもあるんですよ」

「なんだよ、そのクエストって」


「私の責任で、最低限の知識と経験を身に着けさせた上で、きちんとユリアさんにお引き渡しするクエストです」


「……ツッコミどころが二カ所ある」

「やだ、カケルさんったら、朝からツッコミはまずいですよ、遅刻しちゃいますよ。しかも二カ所だなんて……変態さんじゃないですか」


「黙れこの妖怪下ネタ女! ……君にそんなクエストは課されていないし、そもそもそのクエスト自体が必要ない」

「でも、夫婦生活は最初が肝心ですよ?」

「……僕はユリアと結婚しないよ。もし申し込まれても、丁重にお断わりするつもりだ」


「ええっ!?」

 マキナは本気で驚いて言った。

「それじゃあ、交易路を脅かしているモンスターは!?」


「それはきちんと討伐する。困っている人が、たくさんいるはずだからね」

「つまり、モンスターを討伐して、ユリアさんとの結婚は断ると?」

「そういうこと」

「……なんですかそれ。最低じゃないですか、そんなの」


 一転して、冷え切った声で軽蔑するように言ったマキナを前に、僕は一瞬、動揺する。


 だって……好きな女の子から、そんな声を浴びせられても平気でいられる男なんて、いないだろう?


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