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25 判決の刻


 その時、僕は、時間が無限に引き延ばされるような、不思議な感覚を味わった。

 僕は、その長くて短い時間の間に、これからのことを考えていた。


 僕だって、マッシュやミリアムと同じだ。冒険者以外の仕事なんて、したこともないし、できない。


 冒険者ギルドを追い出されたら、きっと悲惨な人生が待っている。

 これから先の一生、僕は今日の決断を後悔し続けるのかもしれない。


 ……でも、そうじゃないのかもしれない。


 もしかしたら、僕はマキナと一緒に、ここじゃないどこかの土地に根を下ろして、なんとか仕事を見つけるなり、畑を耕すなりして、二人だけで慎ましい生活を送っていけるのかもしれない。


 ……将来がどうなるのかは、正直言って、全くわからない。


 でも、一つだけ確かなことがあった。

 それは……


 いま、この瞬間だけは、僕はすごく晴れやかな気持ちだった、ってことだ。


「主文……」


 そして僕は、マキナの手を固く握りながら、そっと目を閉じて、ギロチンの刃が落ちてくるのを待ち受けた。


「……原告の訴えを認めます。冒険者ギルドの規約変更は、法によって保護された原告側の権利を侵害するものであり、無効です」

「また、被告から提起された、原告が心神を喪失している旨の訴えについて、本法廷はこれを認めません。却下します」


「……え?」

「……うそ」

「……は?」


 僕、マキナ、ローラは、あまりのことを前に、唖然として固まっていた。


 なぜなら……裁判長が言ったことは、()()()()()()()()()()を意味していたからだ。


 まだ僕たちが何も反応できずにいる中、裁判長は判決理由の読み上げに移った。


「審理において、自動人形に心があるか否かが争われた場面がありましたが、本法廷はこの争点に関する判断を保留します。ただし、仮に自動人形に心があるとした場合、被告の行為は奴隷的労働を禁じた王国基本法に違反しますし、仮に自動人形に心がないとした場合であっても、被告の行為は王国基本法によって保護される原告の所有権を侵害します。また、公共の福祉に関する被告の主張は、王国基本法を悪意をもって曲解したものであり、本法廷はこれを妥当と認めません。したがって、自動人形に心があるか否かのいずれに関わらず、判決は同じです」


「また、被告から提起された、原告が心神を喪失している旨の訴えについては、なんの根拠もない言いがかりとしか言いようがありません。本来ならば法廷侮辱罪の適用が検討されるべきですが、本法廷は寛大な処置により、これを見送ったことを付言します」


 何度聞いても、それは……僕とマキナの、完全勝訴を意味するものに、変わりなかった。


「……では、これにて閉廷!」


 裁判長が再び木槌を打ち鳴らし、裁判の終わりを知らせる。


「……勝ったんですか?」

 マキナが、僕の顔を見て言う。泣き腫らした顔で、笑っていた。

「私たち、勝ったんですか!?」


「信じられない……」

 僕は、肩の力がどっと抜けるのを感じながら言った。

「一体、何が起こったんだ……?」

「なんでもいいですよ! カケルさん!」


 マキナに名前を呼ばれて、僕は彼女の方に向き直る。

 向き直った瞬間、マキナは僕に抱きついてきた。身体一杯に広がる、マキナの体温と重み。


 けれど、いまの僕はそれに動揺したりしない……その代わり、言いようのない嬉しさが、胸いっぱいにこみ上げてくる。


「ありがとうございます……!」マキナが、僕の耳元で言った。「私なんかのために、あそこまで戦ってくれて……私なんかのために、カケルさんは自分の人生まで投げ打とうとして……カケルさん、とても勇敢でした」


 僕は、照れ隠しに頬をかきながら言う。

「ありがとう……でも、本当に何が起こったのかわからなくて……」


「裁判長!」

 その時、納得がいかない様子のローラが、裁判長に食ってかかった。

「話が違うじゃないですか!」


「話が違う? なんのことかな」

 裁判長は、全く何のことかわからない、という様子で言う。

「やめて欲しいな。それじゃまるで、私と君との間で、密約があったみたいじゃないか」


「なっ……!」

 明らかに切り捨てられたローラだったが、彼女はまだ食い下がるつもりだった。

「そ、それじゃあ、あの件は! あの件はどうなさるおつもりですか! 解決できるのは、私たちしかいませんよ!」


 だが、裁判長は平然と言ってのけた。

「そんなことは、君の知ったことではないよ。私には、私の考えがあるんだ」


「そん……な…………」

 最後の希望が断たれたのか、ローラは完全に力を失って、ヘナヘナとその場にへたり込んでしまう。


 そしてローラは、両手で頭をかきむしりながら、ぶつぶつとヒステリックな独り言を言い始める。


「ヤバイ……ヤバイヤバイヤバイヤバイやばいよおおおおおおおおっ!」

「こ、これじゃあ……これじゃあ……破滅するのは……私の方だあああああああああああっ……!」


「……フッ。ざまぁ」

「どういう事情があるのかは知らないけど……まあ、とりあえず僕も言っとこうかな。ざまぁ」


 こうして、僕たちはどうにか破滅を免れ、ローラは……よくわからないけど、どうやら破滅するらしい。


 もちろん、僕たちには、ローラとの間で密約を結んでいたはずの裁判長が、なぜこんな判決を下したのか、という謎が残ったんだけど……


 その謎の答えを知る機会は、思いのほか早く訪れた。


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