22「異議あり!」「待った!」「くらえ!」です!
裁判は、次の日の午後に開かれることになった。
普通だったら、こんなに迅速な開廷は考えられない。
おまけに、僕が弁護士を雇おうとしてエイデンス市中の弁護士事務所を回ったところ、どこも門前払い。何か手を回されたのは明らかだった。
やはり、ローラは裁判官とつながっている……と、僕は確信を深める。
……が、だからといって、もはやどうしようもない。先手を取られた時点で完敗だった。
若くて新参者のローラが、一体どうやって裁判官を買収するか何かすることができたのかは、全くの謎だったが……考えても仕方なかった。
こうして、僕は自分とマキナの他には弁護士すら味方がいない、もちろん中立の人物もいない、敵だらけの法廷に立たされることになったのだった。
「やれやれ……」
その日の昼過ぎ、僕は裁判所の前でため息をついていた。
「世の中はやっぱり、問題だらけだな……」
「カケルさん」と、そんな僕にマキナが言ってくる。「どうせ負けるってわかってるなら、このまま逃げちゃえばいいんじゃないですか?」
「まあ、それは考えないこともなかったけど……でも、ここで逃げたら負けを認めるみたいじゃないか。どうせなら、徹底的に戦ってやるよ」
「なるほど(ジャキンッ!)」
「ってなんでそこでサーベル出すんだよ! 法廷を血で染め上げる気かよ!?」
「え、違いましたか?」
「そういう意味じゃないよ……」
僕は呆れかえったが、マキナはキョトンとした顔でこう言った。
「でも、いまの私とカケルさんなら、二人だけでこの街を壊滅させられますよ? 瓦礫の上に立って燃え盛る街を見下ろしながら『ハーハッハッハ! 僕をきちんと評価しなかったお前らが悪いんだ! 死ね! 怯えろ! 逃げ惑え!』とか言ってみたくありません?」
「君って、そういうバイオレンスなこと考えるの好きで得意だよね……あのさあ。そんなことできるわけないだろ? この街には衛兵もいるんだぞ?」
「だから、不意打ちさえしちゃえば、そんなやつら私たち二人だけで……まあいいです。どうせ、カケルさんはやりませんもんね」
と言って、マキナはサーベルをしまう。
「でもそれじゃあ、徹底的に戦うっていうのは、どういう意味なんですか?」
「もちろん、言いたいことを全部言ってやるのさ」
僕は拳を固く握りしめながら言ってやった。
「あいつらが僕の弁舌に圧倒されて『ぐぬぬ……』って口ごもるのを、この目で見てやる」
さらに、僕はファイティングポーズを決めて、シュッシュとシャドーボクシングをやる。
「マキナをモノ扱いしたあいつらに、一矢でも報いてやるんだ……逃げるのは、それからだよ」
「なるほど……自分のことは大切にできないけど、他人のためならどこまでも戦える……歪んでるけど、悪い人じゃないんですよねえ……」
「ん? 何か言った?」
「いいえ、何も」マキナは、今度はにっこりと笑って言った。「カケルさんの勇姿、期待してます♪」
「おう!」
かくして、僕たちは負けるとわかっていながら、意気揚々と法廷に乗り込んだ。
「えー、ではこれより裁判を開廷します……まず始めに、判決を言い渡します」
「待ったああああああああああ!」
たぶんおそらく世界最速と思われるタイミングで「待った」を炸裂させた僕に対して、こちらは絶対に間違いなく世界最速の裁判を行おうとした裁判長の男性は、口元を不愉快そうに歪めながら言った。
「いきなりですか。原告はもしかして、証人の発言全てに『待った』をかけるタイプですか? ねちっこい性格ですねえ……」
「えっ? とりあえず全部『待った』するのは基本でしょ……じゃなくて!」
僕は気を取り直して猛抗議する。
「いきなり判決を言い渡す裁判なんてありますか! 原告と被告、両方の意見をちゃんんと聞いてください!」
「裁判長」すると、僕たちの向かいの被告人席にいるローラが言う。「私は構いませんよ……どうせ、結果は見えていますからね、ククク……」
「……」
そう言うローラは、なんと弁護士も連れずに、一人で冒険者ギルド代表として出廷していた。
法廷に弁護士を連れてこないとか、舐めプにもほどがある……やはり、裁判官とグルということだろう(ちなみに、これは民事裁判なので弁護士は必須ではない)。
「えー、それでは……」
裁判長は面倒くさそうに手元の書類に目を通し始める。
「まず、被告人代表のローラさん。あなたの意見を述べてください」
「はいっ!」
ローラは、立ち上がると陳述を始めた。
「原告の主張は『自動人形の所有権は自分にある』というものだと理解しています。確かに、我が王国の基本法は、所有権は厳格に尊重されるべきものと定めています。しかし、基本法は同時に『公共の福祉のために、個人の所有権は制限される場合がある』とも定めています。今回の紛争においても、自動人形を冒険者ギルドの共有財産とすることは、公共の福祉のためとして、認められることが妥当であると、私は主張します」
「うわっ。意外とちゃんとしてる……」
僕の隣で、マキナが目をパチクリさせて驚いている。
「そういえば、この女のステータス、見るの忘れてたなあ。どれどれ……あ、けっこう知力高いじゃん」
確かに、僕の目から見ても、ローラの堂々とした弁舌は、彼女の若さを考えれば大したものだった。
もっとも、その法律論は噴飯物でしかない。「自動人形を共有財産化することは、基本法が想定する公共の福祉に該当しない」と言ってしまえば、ローラの主張は一発で吹っ飛んでしまう。
……ただし、それは「ここがまともな法廷なら」の話だ。
僕は、涼しい顔をしている裁判長を密かににらみつけながら、覚悟を決める。
「では次に」と裁判長。「原告のカケルさん。意見を述べてください」
「はい」
僕は立ち上がると、意見を述べ始めた。
「大変申し訳ないのですが……僕の主張は『自動人形の所有権は僕にある』というものではありません」
「な、なんですって……!」
「……ほう?」
ローラが驚愕し、裁判長も興味深そうな声を漏らす。
その反応をしっかりと確認してから、僕は言った。
「僕はこの法廷で、こう主張するつもりだ……『自動人形は、モノなんかじゃない』と!」




