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気弱少女と機械仕掛けの戦士【ファンアート、レビュー多数!】  作者: 円宮 模人
エピソード2 廃棄都市 資源採取戦編
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第十話 少女と窮地と思わぬ救援

〇???


 アオイは自分が寝ていることに気づく。周囲は暗い。


 もしかして寝過ごしてしまったのだろうかと、少しの不安が湧く。しかし、慌てても手足は動かない。


 これは夢なのかと戸惑うアオイを遠くから呼ぶ声が聞こえる。


「――!」


 誰かが何かを言っている。ただ、ぼんやりとしか聞こえなかった。


(お姉ちゃん……? ……いや、ちょっと声が違う)


 そう言えば、自分は入植したウラシェで、仕事をしながら姉を探している最中だったと、近況を思い出す。


(仕事ってなんだっけ? えーと……。そうだ、武装警備員だった)


 どうしてそんなことを忘れていたのだろうかと思うが、理由が良く分からない。記憶を掘り起こしている最中も、遠くから声が聞こえてくる。


「ア――! ――て!」


 誰かが何かを言っている。だが、誰がなんのために自分を呼んでいるのだろうか。考えるがよく分からない。


(これ、もしかして寝過ごしているとか? まずい)


 そうだったら大変だと、起きようとした。しかし、体が動かない。


(今日は何の仕事をする日だったっけ?)


 確か廃棄都市で資源採取戦に参加する日だと、思い出した。


(廃棄都市か。たしか、交差点があったはず……。あれ? なんでそんなこと知っているんだろう?)


 違和感が頂点に達したとき、水面から顔を出すような感覚を抱く。


 直後、シノブの怒鳴り声が聞こえた。


「アオイ! 立て!」


 尋常ではないシノブの声色。


 耳を打つ叫びによって、自分が危機的な状況にいることだけは辛うじて認識した。


「――!」


 シノブに応じようとするが口の中に何か液体がたまっていて、言葉が出ない。


「ゴホッ!」


 反射的に咳をして、吐き出した液体を咄嗟に手で受け止める。


 手元への視線が検知されて、ゴーグルの映像が消えた。透いて見えたのは、手のひら一杯の赤い液体。


「血!? ウソ!?」

「落ち着け! 多分口を切っただけだ! それよりも機体を起こせ!」


 シノブの叱咤で優先順位を切り替えようとする。だが、体の痛み、吐血と立て続けの想定外に曝された思考は散逸してしまい、向きを成すことができなかった。


 複数のアラームが視界に灯るが、どれから確認するべきか。どれにも手を付けようとして、どれにも手を付けられなかった。


「な、なにが!?」

「ブービートラップだ! 早く!」


 そこまで言われて、ようやく状況を思い出した。


 骨材をどかした時に、あたり一面に爆発が起きた。そこで、危機を悟る。


「き、気絶してたのか……」


 あたりを見回す。


 建築物の瓦礫をバリケード代わりにして、シドウ一式とサーバル(ナイン)がアサルトライフルを乱射している。


 記憶ではシノブは別行動であったはずだ。


「なんでシノブさんが!? 何!? 何が起きたの!?」


 訳も分からずにいると、ソウが怒鳴る。


「オレたちはトラップにかかって破損! その後、シノブさんがフォローに合流!」

「え!? え!?」

「まずは撃て! 火力支援を!」

「わ、わかった!」


 ろくに闘志も練り上げられないまま、機体を起こす。そして、ソウ機の隣に機体を寄せた。


 即席バリケードから軽機関銃だけを出して、銃に備え付けられたカメラ画像を確認する。


 頭部視覚センサーに比べれば解像度が大幅に落ちる。それでも、こちらを上回る数の機体が、障害物から乗り出して銃を向けている事は分かった。


 その数に、思わず叫んでしまう。


「多い!」

「いいから撃て!」


 ソウの叱咤に押されるようにトリガーを絞る。しかし敵機は、バリケードのような瓦礫に身を隠した。


「すぐに隠れられる!?」

「出てきた瞬間に照準を合わせ込め!」

「そんな簡単には!?」

「それ以外の手段は無い!」

「わかったよ!」


 その後も、オーバーヒートに気を付けつつ射撃を続ける。隠れては撃ち、撃っては隠れる。その繰り返し。


 状況は不利だった。


 敵から見て左右から揺さぶりをかけるはずが、シノブが救援に来たことで射撃が集中する。揺さぶりもかけられない。加えて、相手は十分な防衛線を敷いていた。


 焦りの乗せたシノブの声が耳を打つ。


「くそ! 待ち伏せ準備は万端って事かよ!」

「ここからどうやって奪還を!?」

「今考えてる! って、この音は……多連装グレネード!? 伏せろ!」


 シノブにはなにか聞こえたのだろうか。そう思う間もなく、サーバル(ナイン)が自機を引き倒し、その上にがかぶさった。


 直上で無数の爆発音と閃光。衝撃と無数の礫が襲いかかる。


「な、なにが!?」


 爆発がおさまる頃にアオイが機体を起こすと、装甲が無惨に剥がれたサーバル(ナイン)がモニターに映った。平静なメッセージがコックピットに響く。


「味方機。機能停止」


 慌てて、至近距離限定通信を開く。そこにはぐったりとしたシノブが映っていた。


「シノブさん!? シノブさん!? 反応が!?」

「死亡、および重症アラートは無い! 気絶状態と推測! それよりも敵だ!」

「でも、どうやっ――」

「崩れる! アオイ!」


 ソウ機にグイッと引っ張られると、目の前を瓦礫が崩落する。


「うわ!」

「他も来るぞ!」


 爆発の衝撃で身を隠していた建物の一階部分がえぐれていた。そこから連鎖崩壊が始まっていく。


 骨材がひしゃげる音が鼓膜をひっかいた。


「逃げるぞ!」

「分かった! シノブさんも!」


 サーバルが崩落に巻き込まれないように、人戦機のうなじ付近にある搬送用取っ手を掴む。


 その瞬間、隠れていた路地を塞ぐように建築物の壁面が崩れてきた。隠れようと思っていた細道が、次々と瓦礫に埋もれていく。


「戻れない!?」

「進むしかないだろう!」


 巻き上がった粉塵に追い立てられるように(きびす)を返す。そうして、大通りに踊り出る羽目になった。


「う!?」


 数々の銃口がこちらを狙っていた。敵からの銃弾が襲い掛かる。敵は五機で、こちらは新人が二機。どうしようもない不利だった。


「まずい! ソウ! 逃げなきゃ!」

「いや! 敵に接近した!」


 確かに不本意とは言え、敵との距離は一区画もない。偏向推進翼(アサルトウィング)を吹かせば、一気に詰められる距離だった。切れ長の三白眼に力が籠もる。


「このまま叩く!」

「どうやって! 撃たれ――」


 言い切る前に、ソウがシノブの背面からグレネードランチャーをもぎ取った。


「こうやる!」


 直後に敵機たちへ向けてランチャーを放つ。放物線を描き、敵機たちの直上で破裂した。大量の煙が幕を下し、大通りの視界を埋めた。


「あれは! スモークグレネード!?」


 市街地戦に向けてグレネードランチャーにスモーク弾をセットしていた事を思い出す。同時にソウが猛る。


「突っ込む!」


 ソウ機が、そのまま煙の中へ消えた。


「えっと! ボクはどうすれば!? ま、まずはシノブさんを置いて……!?」


 機能停止した機体に追撃は許されない。それゆえ、機体を横たえても止めを刺される事は無い。


 揺らさない様に静かにサーバル(ナイン)を横たえる。そして、銃を構えて煙幕と向き合った。だが、見えるのは一面の煙。


 うろたえる間にソウの気合が大通りに響く。


「一機目!」


 至近距離戦闘ならソウの独壇場だ。恐らくは、煙に紛れて忍び寄り、敵を仕留めたのだろう。


「このままなら……!」


 立ち込める煙幕で火力支援はできない。しかし、相棒ならば問題ないだろう。安堵と共に推移を見守っていた時だった。


 煙幕の壁がこちらへ忍び寄ってきた。耳元には、そよ風のささやき。


「風……? ……あ!?」


 大通りには風が吹き込んでいた。視界が煙幕に覆われ、事の重大さに気づく。


「煙幕が流された……!」


 煙幕が後ろへと消え去り、視界が晴れた。四機が、ソウ機へ銃を向ける。直後、一斉に火を吹いた。


「ソウ!?」


 ソウ機は消える様に横跳ね、着地直後に切り返し。しかし、いくつかの銃弾が装甲を叩いていた。銃撃で姿勢を崩すと、そのまま無情なまでの弾丸が叩き込まれた。


「味方機、機能停止」

「うそ!?」


 ソウ機の至る所から緑の煙が立ち上っていた。


「そ、ソウがやられ……、う!?」


 ソウ機が沈黙した今、銃口はこちらを向いていた。


 弾丸に追い立てられるように崩落していない路地を目指す。いくつもの風切り音が、耳のそばをかすめた。懸命に機体を駆けさせて、滑り込むように路地へ機体を押し込める。


「なんとか!」


 しかし、状況は好転していない。


「ど、どうしよう……。ボク一人じゃ」


 知らずに荒くなった呼吸が肩を上下させ、意識が焦りで白くなる。


「どうする? どうする? どうする? どう――」


 宛のない思考の散逸に、(りん)とした女性の声が割って入ってきた。


「アオイ! 一体どうなっている!?」


 視界端の通信ウィンドウには、バイザー型視覚デバイスを掛けた女性、トモエの顔が映っていた。


「と、トモエさん!? つながった!? あの、みんなが――」


 なるべく簡単に、と急いで状況を伝える。トモエが一瞬だけ顔を(しか)めたが、狼狽(うろた)えることもなく、すぐに指示が飛んで来た。


「アオイ! とにかくあと少しだけ持たせろ!」

「でも、少し持たせたところで!?」

「あと少し……。いや、来たぞ!」

「何がですか!?」

「援軍だ! 敵機奥!」


 トモエの指示に合わせて左を向くと、二機の人戦機がこちらに向かってきた。だが、味方マーカーが表示されていない。


「トモエさん! あれ、敵ですよ!?」

「その後ろだ!」


 先行する二機を追い立てる様に、二機の人戦機が銃撃を加えていた。トモエとは別の通信が入る。


「こちらセゴエ。加勢する」


 それは、聞くものが聞けば震えるほどの者の名前だった。


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― 新着の感想 ―
シノブさんもソウくんも戦闘不能になっちゃってアオイちゃん一人ではもうどうしようもないかと軽く絶望が入りかけました!(。>_<。) 颯爽と現れるセゴエさん、めっちゃかっこいいいいいいいい!! 大物武装…
[一言]  こうしてトラップなどを見るに、知性というのがいかに強力かが窺い知れますね。もちろん道具や肉体とセットではありますが、応用次第でいかようにも変化をもたせられる、その底知れなさを感じます。  …
[良い点] セゴエさーーーん!!!! 何て頼もしい援軍……! あの、シノブとソウがやられて、もう、どうなる事かと。 あー……ヒリヒリする……(((
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