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気弱少女と機械仕掛けの戦士【ファンアート、レビュー多数!】  作者: 円宮 模人
エピソード2 廃棄都市 資源採取戦編
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第七話 少女と兄妹と主戦闘兵装

〇廃棄都市 資源採取戦 放棄された大通りのトレージオン噴出箇所


 路面の荒れた大通りの両側には、建設途中のまま崩れ落ちかけている廃ビルが立ち並ぶ。時折大通りに迷い込んだ風が、砂塵を巻き上げた。


 廃ビルの谷間から、瓦礫が崩れる音が聞こえる。乾いた響きに混じって、遠雷の様な爆発音が一つ。その先から唸るような銃撃音が響いた。


 瓦礫が散らばる大通りの真ん中。一面灰色の陰鬱な背景に、不似合いな虹色の粒子が立ち上っていた。粒子は人類の至宝ともいえるトレージオンで、その確保に各企業も躍起になる希少資源だ。


 空飛ぶ巣箱と蜂のようなドローン、つまり採集用の昆虫型(インセクト)マシンが幻想的な虹色の輝きに群がっていた。


 昆虫型(インセクト)を守るように、重厚な二体の人戦機(じんせんき)が立ち並ぶ。皿状の頭部に鉄壁を思わせる太い体躯が印象的な、重量機たちだった。


 二機が提げるガトリングガンが、咆哮と銃火と空薬莢(からやっきょう)を吐き続けている。


 ガトリングガンから(ほとばし)る二筋の銃撃が、灰色の都市を割いた。輝きの奔流が路地への交差点へ注ぎ込まれる。


 弾丸の群れが廃墟の壁を砕き、粉塵が立ち込めた。


 ダイチと言う青年の声が大通りに響く。


「やったか!? ――ち!?」


 反撃の銃弾が、粉塵を内側から貫き、ガトリング装備の重量機へ襲いかかる。しかし、二機を覆う白いガス膜によって弾丸の勢いは削がれる。


防弾減衰層(バレットダンバー)が、あるんだっつーの!」


 防弾減衰層(バレットダンバー)は主戦闘兵装用の防御装置で、弾丸の威力を低下させる。勢いを削がれた弾丸は、分厚い装甲を僅かに叩くだけだった。


「このコブラ(フォー)の装甲! なめんじゃねえ!」


 コブラ(フォー)とは、ダイチの乗る重量級機体の型式だ。毒蛇と同じ皿状の頭が、ダイチの乗る機体の由来となる。機動力を犠牲に堅牢さで随一を誇る重装甲機体だ。


「弾幕だぁ! ナナミも撃て!」


 もう一機のコブラ(フォー)のコックピット内で、ナナミという少女が座っていた。ヘッドギア越しに見えたのは、うんざりとした表情と眠たげな瞳だ。


「兄貴の声、デカい。普通に撃つし」


 溜息が聞こえてきそうな気だるい口調だった。


「えい」

「うぉぉぉ!」

「だから、無駄に声がデカいんだって」


 ダイチとナナミ、それぞれの三銃身が咆哮を上げる。銃火が二本の槍となって、敵機が潜む粉塵を貫いた。


 だが、敵機装甲の破片は舞ってはいない。


「ち! 当たってねぇ! 隠れやがって!」


 粉塵立ち込める、右前方の路地へ追加の銃弾を注ぎ込もうとした時だった。


「つぅ!?」


 今度は左前方から銃弾が襲い掛かる。僅かばかりコブラ(フォー)の装甲が砕かれた。


「反対からか!?」


 路地に立ち込める粉塵の向こうに、銃火の赤がぼんやりと明滅していた。


「増援か!?」

「左右から挟まれた。兄貴、どうする?」

「ナナミは左! 俺は右だ!」

「無策ってこと?」

「それ以外ねえだろ!?」

「まぁ、そうだけどさ」


 二方向に分かれて弾丸を注ぎ込む。しかし、相手はすぐ路地に隠れる。ダイチとナナミは、トレージオンを採取する昆虫型(インセクト)を守るため、弾丸を受け続ける。


 ダイチが視界端に移る装甲ゲージを見た。残量は戦闘開始からだいぶ減っている。ダイチが不敵な笑いを浮かべたまま、ほんの僅かに冷や汗を流した。


「ちょっとやべえな! ナナミ! 援軍は!?」

「まだ。でも、もう少しで来るって連絡は来た」

「早く来てくれよな! マジで!」

「マジでね。あ、後方から一機接近」


 その時、少女の声がダイチのインカムに響く。


「サクラダ警備です! 援護します!」


 コブラ(フォー)が振り返る。視覚センサーの先には、軽機関銃を提げ、両肩に特殊物性気体噴霧装置、防弾減衰層(バレットダンバー)を装備したシドウ一式がいた。






◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 シドウ一式のコックピット内。アオイの顔には、緊張が貼り付いている。いつもよりのっそりとしたテンポで、足音がコックピットに響く。


「重い! これが主戦闘兵装の追加バランサー!?」


 主戦闘兵装は長銃身の武器を()げる都合、重心が本来の位置からズレる。また、銃撃や爆発、自身の銃火の反動にも(ひる)んではいけない。


 そのため、専用装備として後付け型のカウンターウェイトが搭載されていた。重く、いつもより間の空いた足音が、機動力の低下を実感させる。


 ずしんずしんと歩を進め、シドウ一式が、ようやっと二機のコブラ(フォー)の前に立つ。


「バレットダンパー起動!」


 直後、肩口に備えられたシャワー状の噴霧器から白いガスを吐く。三秒もたたないうちに機体を覆うぼんやりとした白い膜が張られた。


「ワタシがダメージを肩代わりします」

「厳しかったから助かるぜ!」


 途端に、自機に向けて襲い掛かる銃撃の雨が映った。ひゅんひゅんと耳をかすめる音が神経に障る。


「この戦い方……! 慣れない!」


 背後にあるトレージオン噴出孔を確保するために、敵機を押し返さなければならない。そのため、アオイは防衛戦に向いた主戦闘兵装を背負っていた。


「撃たれても……受けなきゃならないなんて!」


 曳光弾の輝きが目に飛び込み、弾丸の風切りが耳を掠め、着弾の衝撃が全身を打つ。


 精緻な情報を操縦士へ伝えるため、極限まで追求された戦場の恐怖(リアリティ)が襲いかかる。臨場感の中、迫る銃弾を真正面から受け止めなければならなかった。


 怖い。だが、仕事。そう言い聞かせる。


防弾減衰層(バレットダンバー)があれば! きっと大丈夫!」


 視界端の人型アイコンを見る。装甲量減少は、思ったより緩やかだ。幾分(いくぶん)だけ余裕を取り戻し、眉根に力と気迫を込める。


「やられてばっかりじゃない!」


 ()げた軽機関銃の銃口を右前方へ向かせ、画面に合成された弾道予測線(ブルーライン)を路地へと合わせる。


「いけ!」


 トリガーを絞ると同時に、戦闘服に仕込まれた低出力人工筋肉フィードバックシステムが疑似反動を伝える。曳光弾の濁流が、猛烈な粉塵を巻き起した。


 けん制射撃を続けている間に、男性の声。


「サクラダ警備さん! 一人だけか!?」


 通信ウィンドウを見ると、快活そうな青年の顔とダイチという名前が表示されていた。


「いえ! 他にも二人!」

「そいつらは!?」

「いま――」


 遮るように、右前方の粉塵の奥から硬い物がぶつかる轟音が響いた。ソウと組んでから、聞き慣れた音だった。


「来ました!」


 直後に、粉塵を突き破り、敵機が大通りへ転げた。次いで、粉塵からシドウ一式が飛び出す。


「なんだ!?」

「味方です! ソウ! お願い!」


 ソウ機は転げた敵機に飛び乗り、すぐさまアサルトライフルを突きつけた。


「もらったぞ」


 平静な少年の声と共に、突きつけられた銃口から容赦ない銃撃が浴びせられた。見る間に胸部装甲は散っていき、毒々しい緑色の筋肉状(マッスル)駆動機構(アクチュエータ)が煙と共に露出した。


 それを見て、思わず声を上げる。


「ソウ、さすが!」


 敵機はピクリとも動かなくなる。安全装置によって、強制的に駆動系が落とされたためだ。同時にソウの銃撃も止まる。これも強制措置だった。操縦士を殺害してしまう前の安全装置によるものだ。


 そこまで思い出して首を(かし)げる。


「あれ? 左の方は?」


 二方向からに敵は潜んでいたはず。左の路地を見るとそこには、ただならぬ量の煙幕が立ち込めていた。


「あ、あの煙!」


 アオイの声に、気だるげな女性の声が応える。


「ウチが撃ってたら、モクモクしてきた」


 眠たげな目つきが印象的な女性の顔とナナミと言う名前、通信ウィンドウに表示されている。


「アオイちゃん、って言うのかな? 何か分かる?」

「ちょっと待ってください。通信が――」


 直後、煙幕の中から散発的な銃声。一拍置いて、キンという甲高い金属音が鳴り響いた。そして、また静寂が戻る。その変化に、固唾を呑む。


 路地から大通りに立ち込める煙幕に影が見えた。緊張と共に銃を構えたと同時だった。


「撃つなよ。お前ら」


 シノブの声と共に、サーバル(ナイン)が煙幕を割って出てくる。それを見て、ほっと息をついた。


「流石ですね」

「まあな。地形の相性が良かった」


 シノブの乗るサーバル(ナイン)が猫耳のような頭部パーツを指差した。


「エコーロケーションですか。じゃあ、あの煙も」

「アタシがやった。後は、サッと行って、バッとやっちまえばいい」


 そこにソウの声。


「どうして通信の拒絶を?」

「耳を使うんだ。話しかけられたら困るだろ」

「理解しました」


 直後、トモエから通信が入った。


「お前たち。よくやった」

「なんて事は無いですよ」


 シノブのニシシという笑い声が聞こえてきた。


「イナビシから次の指令だ。河の対岸へ向かえ。今度は侵攻作戦だ。アオイ。突撃兵装の配送を手配した。運搬ドローンが到着次第、兵装を交換しろ」

「分かりました」

「軽機関銃は、突撃兵装仕様に組み替えておけ」

「了解。軽機関銃組み換え。突撃兵装仕様」


 そう言うと、モニターに武器変更完了までの時間が表示される。システム音声が平静な回答をよこした。


「銃身および、把持パーツと取り付け位置の交換開始」


 自動化された動きで銃を器用に分解していく。


 主戦闘兵装用の槍のように長い銃身を取り外し、背面ホルダーにしまった。代わりに、剣ほどの長さ、つまり突撃兵装用の銃身を取り付ける。提げ手用の上部グリップも取り外し、どんどんと交換が進んでいった。


 勝手に進む交換作業を見ながら、ふうと一息つく。そこにトモエへの声が聞こえた。


「手早い侵攻が求められる。配達と兵装変更が完了次第、出発だ。シノブ、頼むぞ。」

「了解。稼ぎますよ!」


 シノブが鼻息を荒くする時、モニターに見知らぬ若い男性の顔が映る。気のよさそうな快活さが印象的だ。通信ウィンドウの下にはダイチと書いてある。


「サクラダ警備! 助かったぜ!」


 やたらと張った大声が鼓膜を襲う。


「ひぃ!」


 思わず耳を押さえそうになった。


 次いで通信を繋げたのは眠たげな眼が印象的なナナミという女性だった。


「バカ。声がデカいんだって。……ウチの兄貴がすみません。助かりました」


 そう言って頭を下げた。


(兄貴……って事は兄妹か)


 随分と印象の異なる兄妹だとアオイが思っていると、シノブの顔が通信ウィンドウに映った。


「分隊長のシノブだ。礼には及ばねえさ」


 その瞬間、ダイチとナナミの顔が固まった。予想外の反応に、シノブが怪訝(けげん)な顔をする。


「……なんだ? なんか悪いことしたか?」


 少しだけ間をおいて、ダイチの顔に表情が戻る。


「……いや! なんでもないです!」

「おう。じゃあ、アタシらは別の所にいくから」


 シノブが首をかしげながらも通信を切った。


「さっきの人たちって、なんでシノブさんを見て固まったんでしょうね?」

「さあな。ガキと勘違いしたのか」

「そんな感じではないと思いますけど……」

「アオイはなんでだと思う?」

「うーん。ワタシだったらですけど、会いたくない人にばったり会ったとか?」

「えぇ……。マジかよ。たぶん、初顔合わせ……だと思う」


 半透明ゴーグル越しのシノブの顔には、困惑が浮かんでいる。


「なんかやっちまった可能性はなくはないけどな」

「なんかって、なんですか?」


 シノブが一瞬だけ言葉を詰まらせた。その後、決まりが悪そうに口を開く。


「……昔は色々あったんだよ」


 どこか固い口調だった。


「そうですか」


 拒絶の意思を汲み取って、追及しなかった。シノブはこちらに目を合わせないまま、他所を向く。


「おい。配達が来たぞ」


 見れば、人戦機と同程度の大型ドローンが突撃兵装用の偏向推進翼(アサルトウィング)を吊り下げながらビルの谷間を抜けてきた。


「本当だ。システム、背面マウンターパージ」

「背面マウンターをパージします」


 システムの事務的な返事の後、すぐ背後からガチャリと言う音が聞こえ、背面マウンターが音を立てて道路へ落ちた。


 その後にドローンから偏向推進翼(アサルトウィング)を受け取ると、無機質なシステムメッセージが響いた。


「兵装交換、開始します」


 背嚢(はいのう)を担ぐように、自機が偏向推進翼(アサルトウィング)を装備した。


 二対四翼の偏向推進器(スラスター)が背中に収まった直後、背後からガチャリと言う締結音が響いた。


 意識を視界に戻せば、ゴーグルに交換完了の文字が灯っている。


「アオイ。防弾減衰層(バレットダンバー)を配達屋に戻したら、いくぞ」


 シノブの指示に従い、ドローンに防弾減衰層(バレットダンバー)を積む。配達ドローンに別れを告げて、三機はそのまま灰色の廃墟を駆け抜けた。



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― 新着の感想 ―
エピソード1ではトモエさんが指示を出してくれていたけれど、エピソード2ではシノブさんが現場リーダーとしてその場でタイミングを見て状況把握からの具体的な指示ができてすごくイイ!めっちゃありがたいですね(…
バレットダンパー! やはりロボットモノには防御兵装も魅力の一つですね! 攻撃だけじゃない、守りも重要。
[一言]  状況が変われば選ぶ装備も変わる道理。そこで人型なのを活かして装備を組み替える辺りが実用本位ですね。重装甲が恐らくは関節の可動域にも影響するのでしょうから、銃把の位置も変わるという。  モジ…
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