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気弱少女と機械仕掛けの戦士【ファンアート、レビュー多数!】  作者: 円宮 模人
短編集:開拓星ウラシェの比較的平和な日常1
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少女とスーツと思わぬ人助け 前編

・世界観補完を目的とした技術解説と、人物掘り下げのサイドストーリーが主になります

・ストーリー上は読み飛ばしても問題有りません

〇サクラダ警備 格納庫


 サクラダ警備の格納庫の一角。休憩用の机と椅子に逆巻く刺々しい髪をした少年、ソウが座っている。空色の作業服に身を包んだソウは、タブレット状の情報端末を眺めていた。


 普段から迫力のある切れ長の三白眼が険しく歪んでいる。事情を知らない者が見れば親の仇の画像を見ていると思うだろう。しかし事実は違う。


「ソウ。何を悩んでいるの?」


 対面に座る気弱そうな垂れ気味の丸目をした少女が黒髪のショートヘアを揺らしながら、ソウの見るタブレットを覗き込んだ。


「アオイか」


 ソウのタブレット端末を覗き込んだのはアオイだった。ソウが視線を気弱そうな丸目からタブレット端末へ戻した。


「武器と機体を買いたいが、やはり実物を確認したい」

「この間、騙されたもんね。結果的には得したけれど……。はぁ」

「どうしたんだ? ため息をついて」

「いや。世の中って上手くいかないんだなって」


 アオイは、掘り出し物を転売するためにギリギリまで夜更かしをした事、そして何の成果も得られなかった事を思い出した。


 アオイが悔し涙に濡れる様子を、ソウは興味なさそうに見た。そして、タブレット型情報端末に視線を戻す。


「転売で得たカネを元に、武器を買いたい」

「でも、そもそもどこで買うのさ?」

「どうにかできないか? アオイ?」

「えー。そんなこと言われても。リコちゃんとかに相談すれば?」


 ソウの切れ長の三白眼が、不快げに歪む。


「却下だ」

「そう言うと思った……。じゃあカジさんは?」

「それも却下だ」

「それも分かってたけど……。あの二人、クセが強いもんね……」


 サクラダ警備のメカニックであるリコとソウの相性は最悪と言ってよい。


(感性爆発のリコちゃんと、なんでもきっちりのソウだとなぁ)


 毎度の口論につきあわされるのを思い出して溜息をつく。だが、ソウが気に留めるはずもなかった。


「話を戻すぞ。どうやって装備を買う? 何かルートを知らないか?」

「えー。ボクだってまだ働き始めたばっかりだから、全然知らないよ」


 二人が悩んでいる所に足音が響く。振り返れば、作業服に身を包んだ素晴らしく脚の長い女性がいた。


「あ、トモエさん」


 長い脚の持ち主はバイサー型視覚デバイスを掛けたトモエだった。涼し気なショートヘアを揺らして、トモエが首をかしげる。


「お前たち、何か悩んでいるようだがどうした?」

「実は――」


 事情を話すと、トモエが手持ちのタブレット型情報端末を操作した。


「アオイ、ソウ。それならば、今度開催される兵器ショウへ行ってみるか?」


 差し出されたタブレット型情報端末には、イベントの広告が映し出されている。


「それは?」

「兵器メーカーが一堂にそろって新製品などを展示する催し物だ」


 武装警備員が民間企業であるように、兵器メーカーも民間企業だ。そのため、宣伝や展示会が催される。


 特に人戦機やその装備は需要急増により、近年もっとも成長が見込める分野となっている。そのため、兵器ショウは華やかさを極めた一大イベントになりつつあった。


「そんなものがあるんですね」

「いったん商品を見れば、買う気も起りやすいという魂胆だな。我々としても色々な機体や装備を見られるから助かる」

「でも、なんだか怖そうですね。武装警備員がたくさん集まるなんて」

「アオイも武装警備員なんだがな……」


 トモエは何とも言えない苦笑いを浮かべる。


「そこまで物々しいものでもないぞ? この前の様子を見てみるか?」


 そう言って、トモエがタブレット状情報端末の画面を切り替えた。そこには、兵器と言う武骨な工業製品とは対照的な、きらびやかなブースが映っていた。


 会場にいる人々は、それなりにフォーマルな格好をしている。作業服を着ている者もいるが、むしろそれは少数だった。


「へえ。みんな、キチンとした服を着てますね」

「非効率だな。なぜ作業服ではない?」

「いや。ソウみたいにずっと作業服の人の方が珍しいよ」


 ソウは通勤時も作業服を着ている。唯一作業服を脱ぐのは戦闘服を着る時くらいだ。その戦闘服も快適性は皆無だ。


 未開拓星ウラシェの野外活動では病原体付着も考えられるため、戦闘服表面は防護用のゴワゴワとした素材で出来ている。加えて、戦闘中の衝撃から肘、肩、頸椎けいつい、膝などを防御するために緩衝パッドが入っている。更に戦闘中に生じる生理現象の対応するため、鎮静剤や強心剤などの薬剤注入スロットもついている。


 つまり、快適とは程遠い。


 ソウは戦闘服か作業服という、快適とは程遠い服しか着ない。そんな相棒をイマイチ理解できなかった。


「もっと普通の服を着ればいいのに」

「非効率だ。理由がない」


 そこへ、トモエが微笑みながら寄ってきた。


「たまには息抜きも必要だ。みんなでショウへ行ってみようか。展示場近くにはレストランもある。昼飯ぐらいはおごってやるさ」


 おごりと言う言葉に、心がおどる。


「ぜ、ぜひ! あ……、でも」

「どうした?」

「あの。着るのは当然、こういうカチッとした服なんですよね」

「まぁ、そういう服の方がいいな」


 トモエから渡されたタブレット状の情報端末を見る。その中の、スーツを着た女性に目が留まった。いかにも仕事が出来そうな雰囲気をかもし出している。


(こういうのカッコいいなぁ……。一着くらいは)


 画面の中に映るきらびやかな展示場で颯爽さっそうと歩く自分を想像した。いつもは、金欠で買い物を躊躇ちゅうちょしているが、いまは事情が違った。


(興信所にお願いもしたし、カレーもいっぱい食べたけど、まだ余裕はある!)


 資源争奪戦で得たカネを少ししか使っていない。使う所には使ったが、それでも服を買うくらいの余裕はあった。


 思わず拳を握りしめる。その様子をトモエが不思議そうに眺めていた。


「どうした?」

「いえ、こういう服を持ってなかったんですけど、これを機会に買ってみようと思いまして」

「そうか。有った方が便利ではあるな。買ってもいいだろう」


 背中を押されて購買意欲がますます高まる。だが、ふとある事に気づく。


(あ、でもどうやって買おう……)


 途端に高揚感はしぼんでしまった。トモエがその様子に気づいたのか、首をかしげた。


「どうした? いきなり悩み始めて?」

「初めて買うものだから、オンラインだと似合わないものを買わないか怖くて」

「確かに思ったのと違うと言う事はよくあるな。店で買わないのか?」

「一人だと……、その……」


 今まで店舗で服を買ったことが無い。店に自分が行って、何か恥をかかないかが心配だった。気弱であればなおさらだ。


 もじもじと悩んでいると、トモエの柔らかい声が耳に。


「なんだ。じゃあ、一緒に買いに行くか?」


 救いの一言に、思わず大声を出してしまった。


「いいんですか!?」


 大げさなリアクションにもかかわらず、トモエはただただ微笑んでいた。


「私もたまには息抜きしたいからな。今日は早めに切り上げて、買い物に行くか」

「助かります。トモエさんがいると安心です」


 トモエは数少ない頼れる大人の女性だった。普段は忙しそうにしているため、自分からそんな提案はできない。おそらくは、それを察した上での申し出だろう。


 ただただ感謝するしかなかった。そこへソウのにらみをかす。


「アオイ。約束は――」


 自主練習をしろ。その一言が続くと考えて、視線をそらす。直後にトモエが二人の間に割ってきた。


「ソウ。今日は無しだ。アオイもお前も、たまには気分転換も必要だ」

「それは、業務命令ですか?」

「一人の先達としてのアドバイスだ。服くらいは持っていた方がいいだろう。何かおごってやるからお前も来い」

「了解。リンゴジュースが飲めるならば」


 おごり。再び聴いたその言葉の魅力に逆らえず、おずおずとトモエへ話しかける。


「あ、あの……」

「当然、アオイにもおごる。何がいい?」


 トモエの察しの良さに感心する。そして、おごってもらえるならコレという好物の名前を口にする。


「……その、か、カレーを」

「じゃあ、帰りはカレーショップに行くか。一仕事だけ片付けるから、お前たちは先に区画の入り口まで行っていろ」

「分かりました」


 そう言って、トモエは格納庫を後にした。アオイは浮かれ気分で、ソウは渋々といった感じで更衣室へ向かった。






〇フソウ ドーム都市内 路上


 見上げれば、圧迫感を感じるほどの高層ビル群と半透明の天井が見える。それはアオイたちが住んでいるドームだった。日は傾き始めており、ビルに明かりが灯りつつある。


 林立するビルの底に、アオイとソウが立っていた。


 アオイは、白のフード付きスウェットに、黒のズボンと言ういつもの格好だった。よく見ると袖はほつれ、臀部の生地はテロテロになりつつある。それでも着るのがアオイ流の節約術だ。


 一方のソウはいつもの空色の作業服だ。


 アオイとソウのすぐ横を、いくつもの小型無人車両が通り過ぎていく。それは配車ポッドと呼ばれる無人車両だ。


 配車ポッドから洒落っ気のない作業服に身を包んだ同僚へ視線を移す。既に見慣れた光景だが、それでもこれから買い物に行く格好ではない。


 声に思わず呆れが籠もった。


「ソウ。また作業服なの?」

「これ以外は持っていないからな」

「じゃあ、今日買ってみれば?」

「快適性などを考慮して、十分に効率的なものがあればな」

「はぁ。ソウらしいけどね」


 待ち合わせということで、特殊区画の入り口まで来ていた。兵器という危険物を扱う都合上、サクラダ警備はアルコロジーの端にある一種の隔離区画に存在している。


 耳障りな騒音が響く区画の真ん中よりはと言う事で、区画の入り口で三人は待ち合わせしていた。携帯型情報端末をいじって時間を確認する。


「トモエさん。まだかな。忙しそうだったから――」

「お前たち。待たせたな」


 背後から聞こえたのは、怜悧れいりでありつつも意志の強さを感じさせる大人の女性の声。振り返ってトモエを出迎えようとする。


「ああ。トモ――ぅわ!?」


 だが、トモエの姿を見て思わず驚嘆の声を上げてしまった。


(す、す、すごいスタイル!? 足が! 足が長い!)


 目の前に見えたのは、自分と住む世界の違う生き物としか思えない美女だった。


 普段の作業服越しでもうかがえたスラリと伸びる足は、すっきりとしたパンツではその長さが一際目立つ。そして、程よく鍛えられた者に特有のメリハリのあるプロポーションを、細身のカジュアルスーツがこれでもかと強調していた。


「どうした? アオイ? 何かあったのか?」


 そして、普段から知性を感じさせる口元は、服装によって一層大人な魅力をまとっていた。作業服と一緒に見ると痛々しさと武骨さを感じさせるバイザーも、いまはまるで怜悧れいりな魅力を演出する小物に見える。


(え、え、え? 凄すぎない!?)


 いつもは先に帰るため見る機会が無かったトモエの私服姿は、まさに人生初と言っていいほどの衝撃だった。


 頭を真っ白にして、ひたすらにため息を吐いた。


 吹き飛んだ意識がしばらくして意識が戻ってくる。トモエの姿を上から下まで何往復もして、ようやく口を開いた。


「いえ。ちょっと衝撃を受けて……」

「何が?」


 心底分からないと言ったトモエを見ていると、なぜか胸が熱くなるのを感じた。


(ボクもこういう服を着たら、かっこよくなれるのかなぁ)


 兵器ショウの動画で見た大人な女性を思い出した。そして、これからその服を買いに行くことに胸を躍らせる。自分も綺羅きらびやかな場所に相応しい社会人になると、心のなかで拳を握る。


 一方のソウは、準備ができたとみるや否や、歩き出そうとした。


「では、行動を開始します」


 そんなソウをトモエが止めた。


「待て。この区画から商業区画まで歩いていくのか?」

「そのつもりです」

「ソウ。調べもせずに動くな。……お前は、本当に何度言っても直らないな」


 トモエが呆れ気味にため息をつく。一方のソウは、淡々と質問を重ねた。


「では、どうします?」

「配車ポッドで行くぞ」


 トモエが携帯型情報端末を操作すると、道行く無人配車ポッドの中の一台が、目の前に止まった。


 二人用の座席が相対するように収まった、合計四人用のコンパクトな乗り物だった。


「わぁ。初めて乗ります」

「ジュース一本もしないだろう? たまには楽したりしないのか?」


 無人配車ポッドは社会インフラの一つだ。蛇口をひねれば水が出る様に、情報端末で道行く無人配車ポッドをすぐに呼び出せる。


 人が運転していた頃とは異なり、一回の料金はジュース以下だ。


「なるべく節約しようと……」


 だが、そのジュース一本すら節約をしているのが自分の日常だった。トモエが、呆れ半分心配半分と言った面持ちで眉を曲げる。


「疲れた時は、無理はするなよ」


 その言葉を聞いて、チラリとソウの方を向く。ソウは、トモエとアオイの会話を聞いている様子もなく、外を眺めていた。


 明日の訓練が楽になる事はないだろうとアオイがため息をつく頃、配車ポッドが出発した。


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― 新着の感想 ―
ゲームなら武装ショップや衣裳ショップのチュートリアルにありそうなエピソードですね!
[良い点] アオイちゃんもソウくんも、社会人として何かあった時に着られるスーツぽいものが一着あるととても便利ですよね!この機会に買っちゃいましょう٩(*'ω'*)۶ トモエ社長が一緒ということで、アオ…
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