表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
気弱少女と機械仕掛けの戦士【ファンアート、レビュー多数!】  作者: 円宮 模人
エピソード3 市街死守編
110/142

第三話 少女と老兵と思わぬ尋問

◯フソウ ドーム都市 居住区道路上


 ぼんやりとした意識を押しのけるように(まぶた)を開けると、誰かが覗き込んでいた。


「誰……?」


 見えたのは切れ長の三白眼だ。


「なんで睨んでいるの? ソウ?」

「睨んではいない。それより、気が付いたか」

「あれ? ボク、横になってた?」


 寝転んでいたことに、今さら気づく。


「気絶していたため、人型重機の操縦席から回収した」

「あ、ありがと」


 身を起こし、あたりを見回す。


「ここは?」


 歩道のビル際にいた。人だかりの喧騒が耳に入る。どうしてこんな所にいるのかと、頭を抱えながら記憶を探った。


「えっと……。ボクは……あ!」


 人混み、重機、そして鮮血の赤が頭の中に飛び込んでくる。


「あ、あれ! あれはどうなったの!?」

「あれとはなんだ」

「人殺したちだよ!」

「すべて鎮圧した」


 ソウは事もなげに言う。


 気絶している間に解決したらしい。今は安全だと知ると、がちがちに固まっていた肩の力が抜けていく。


「そっか。うっ……」


 道路に広がっていく赤い液体を思い出した時、胃の中からすっぱくて熱いものが込み上げそうになった。とっさに口を押えて、胃酸が飛び出るのをせき止める。


 ソウが、不思議そうに三白眼をこちらへ向けた。


「どうした?」

「血。思い出しちゃって」

「そうか」


 相棒は、少しも怯む様子はなかった。


「ソウは平気なの?」

「特には。気にしていたら戦えない」

「……そういえば、初めての資源採取戦の時もそうだったね」


 人を殺すかも知れない。そのリスクを実行できるのが相棒だった。


(ソウとボク、全然違うんだな……)


 いざという時に動けず、いざが起こった後に倒れてしまった。


 重い空気が、ずんと肩に乗った。ソウと一緒に仕事をするようになってから、何度も何度も突きつけられてきた違いだった。


(ボクなんかが、武装警備員をやって……いや)


 初任務での失敗後、壊れた機体の前で誓った日の事を思い出す。


(簡単な任務もあれば、困難な任務もある。順調な事もあれば、苦境に立たされる事もある。それでも一緒に戦うって誓ったんだから)


 誓いの言葉を口の中でころころと回して、飲み干すように吸い込んだ。


 肩にのしかかる空気はふんわりと散って、いつもの重さに戻った。今にも中身が飛び出しそうだった胃も、随分と落ち着いた。


「……ふぅ。何とか話せるくらいにはなった」

「そうか。この後だが、警察が来るまでこの場に待機した方がいいと聞いた」

「聞いた? 誰に?」


 心当たりはなかった。


 顎先に指を添えて考えていると、大柄の影が背後から近づいてきた。振り返ると、筋肉質な長身の壮年男性が立っている。


「え……? たしか」


 口と顎の白ひげと、後ろで結んだグレイヘア、ナイフで刻んだような眉間の深いしわが、積み重ねた年齢を感じさせる。一方で、首元から右頬まで伸びる大きな傷と、鷹のような鋭い眼光は、いささかの衰えも感じさせぬほどの迫力を生んでいた。


 見た目どおりの、低く渋みのある声が広がった。


「ワシが教えた」

「あ。さっきの」


 ぼんやりとしていた記憶が蘇る。目の前の壮年男性は、自分の肩を抱きとめ、凶行を止めるために人型重機に飛び乗った人物だった。男性は、白くなった顎髭をひと撫でした。


「酔狂だな」

「酔狂ってどういうことです? えっと……」


 名前はどうだったか。しかし、名乗られた記憶はない。口ごもっていると、壮年男性から話しかけてきた。


「オオタカ=イワオ。イワオでいい」

「分かりました。アサソラ=アオイと言います」


 紹介のあと、無言の時間が訪れる。イワオはどっしりと腕組みをして、話し出す気配はない。


(な、何か話したほうが……)


 そう思い、気になっていたことを口にする。


「イワオさん。もしかして武装警備員ですか?」

「ほう。どうしてそう思った?」

「雰囲気もそうですし、人型重機の操縦もうまかったし……」


 イワオが白ひげを撫でながら、ゆっくりとうなずいた。


「そうだ。武装警備員――」


 唐突のサイレンが、イワオの言葉を遮った。イワオから音のなる方へ視線を向ける。


「な、何が?」


 ピカピカと光る回転灯が、人混みの上を飛んでいた。こちらへ近づく、複数のドローンバイクだった。群衆を蹴散らすように大通りの真ん中へ降り立った。


「あ、警察ですね」


 イワオが警察官たちを鋭い目線で見据えながら、呟いた。


「事情を聴かれるだろう。逃げない方がいい」

「逃げる? なんで……です?」

「すぐに分かる」


 群衆に事情を聞いた警察官が、こちらを向いた。鎮圧に使用した人型重機にチラリと視線を送り、駆け寄ってくる。


「この重機を使用して、暴漢を鎮圧したのはあなた方で間違いないですか?」

「は、はい」

「状況を詳しく伺っても?」


 警察官特有の威圧感とともに、ギラリとした目線が刺してくる。


 嘘も誤解も無いように、なるべくゆっくりと話した。タブレット状の情報端末に話した内容が次々とまとめられていく。


「なるほど。事情は把握しました」

「はい。では、ワタシたちは会社へ――」

「では、署まで同行をしてください」

「うぇ?」


 知っていることは全て話したはずなのに。そう思って瞬きをしていると、複数人の警察官が周りを取り囲んだ。


「重機盗難および損壊の容疑があります」

「えぇぇぇ!?」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
現実世界でも、そういうのありますねぇ……
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ