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第6話・フェンタニル

フェンタニル注射液は麻酔薬やがん疼痛用に使うもので、それを遊びに使うために非合法で安価に出回っているときいて、衝撃だった。むかしからアンフェタミンは有名だが、それより安い価格で裏社会に通じると入手しやすいらしい。非合法の麻薬遊びに関する危険性の訴えは公的にもやっているが効果が出てない。というか、使う人は使う。未来に希望が持てず、使わざるを得ない状況もあろう。逮捕して刑罰を与えるだけでは解決しない。外国から非合法に持ち入れられる状態も、我が国の政府も対応の悪さもあって今なおズルズルと蔓延していく。国は、もっとしっかりしてほしい。


そもそもフェンタニルは麻薬だ。フェンタニルだけでなく、多々ある麻薬は現代の医療にとって大事なもの。しかし、数年前から供給のバランスが崩れて、麻酔ができなければ手術はできないので、救急医療の存続も危ぶまれる。それが遊びで使う分には、在野で簡単に合成して闇での売買が成立しているとはなんという嘆かわしさ。


総合病院薬局勤務時の思い出話だが、毎日3時過ぎになると、主任以上の各病棟看護師たちが薬局の麻薬金庫の前で注射伝票を持ってこられていた。当時のわたしは麻薬担当だった。麻薬帳簿は各都道府県の薬務課に定期的にチェックもしてもらうし、アンプルに少しでも薬液が残ると、その廃棄時にも手続きはいる。薬液が残っていなくても空になったアンプルの回収もしていた。毎日退勤前に入出庫の統計をとり、上司に確認してもらって印鑑をもらい、その記録も所定通りの場所に所定通りに収めておく。現在はペーパーレスになっていると思うが基本的な在庫管理の厳しさは変わってないはずだ。


その注射伝票だって、医師の麻薬使用許可ナンバーなるものがきちんと書き込まれているかチェックもし、指示量も適切かどうか確認する。手術用に使う患者の名前が書かれた注射処方箋には患者の年齢のみならず、身長や体重も書かれていた。それでもって、適量かどうかもある程度判断できる。

また病棟の誰それがそれを持ってきたのかもチェックする。たまに医師のサインが抜けていたり、使用者番号が抜けていたら、もう一度病棟に戻って医師に書いてもらってねと主任もしくは看護師長に伝える。その場合は、主任さんも「忙しいのに~」 とブツブツいいながら手ぶらで帰って行かれる。いかに顔見知りでもちゃんと手続きしないと渡せない決まりなので、それは双方ともわかっている。


卸の納品時ですら、麻薬は内服、外用、注射区別なく、通常の薬品を違った扱いで卸でも年配の役職者が持ってきていた。もちろんその時に各注射の箱に打ち出されているナンバーなど全部確認したうえでこちらがもらう手はずになり、麻薬金庫に入れるときも薬剤師2名以上が立ち会っていた。医療従事者はここまでして医療麻薬に慎重な扱いをしているのに。


それなのに、違法ドラッグの売る方も買う方も知ったこっちゃないのだろう。麻薬は、売ってしまえばおしまい、というのは最大の無責任。買う方も、好奇心で己の人生を己で破壊したいとしか思えぬ。非合法な麻薬に関しては警察の捜査以前に国がもっとしっかりすべきだと思っている。税金ちゃんと納めているので変なことに使わずこういうことで使ってほしい。


わたしは精神科単科の病院にもいたので、麻薬常用者が若くして廃人同様の状況になっているのも見ている。廃人ってわかりますか? 意思の疎通もできないし、ただ目をあけて寝ているだけです。脳委縮までいくと本当に意思がなく、ただ呼吸をするだけの物体です。この人はなんのために生きているのか、また生かしておくのだろうかと思う。そして廃人から元の健康体に戻すのは現在医療では無理。本当に嘆かわしい。




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ある時兵庫県に用事があって人通りの多いところにいたら、なんとなく姿勢のおかしい子がいる。イスに座っているが両足がひらき、上半身がありえないぐらいめり込んだ姿勢でいる。脱力&筋弛緩状態で、これでは仮に背中をナイフで刺されてもわからない。なんなら内臓を取られても平気で寝ているだろう。その人はどう見ても学生で身なりもよい。が、荷物がなかった。警察に連絡すべきかどうかすごく迷ったが周囲の人もちらちら見ながら通り過ぎていく。と、誰かが呼んだのか警備の制服を着た人が二人、連れ立ってこちらに来た。わたしはホッとして、通り過ぎたことがある。彼が無事だといいが。あれがフェンタニルですよ。本当に嘆かわしい。




さて、アメリカのゾンビタウンでの取材で麻薬常用者の言い分はこうだ。


逮捕されても、麻薬の依存症は治らない。政府はもっと別の形で俺たちを救ってほしい。



確かに収容施設にも限りはあるし、依存症は麻薬に限らず治癒は難しい。しかも、忘れてしまいたいことや不安感が飛んで多幸感が味わえるなら、そしてそれが安価なら使ってしまうだろう。一発で解決する方法は確かに現時点ではない。残念ながら世界は確かに今を病んでいる。






◎参考文献◎

フェンンタニル(第一三共製薬、正確にはフェンタニルクエン酸)の医療従事者向け添付文書


https://s3-ap-northeast-1.amazonaws.com/medley-medicine/prescriptionpdf/430574_8219400A1063_2_01.pdf



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