第3話・AI薬歴の話
いずれAIにとってかわるだろう職業はいくつか推測されている。電話オペレーター、相見積もり、コーディネーターなどなど。
薬剤師はどうだろうか。業務の一部はすでにAIが出張ってきている。そう、AI薬歴です。今回はその話。
AI薬歴の導入の話がずいぶん前から出ていた。助かるよね~という人がいるが、わたしは同意していない。薬歴というのは、患者の処方薬の履歴のことをいうがこれを書くことについて、わたしは全く苦にはならぬから。AIに任せたくない。
が、同僚の一人は苦になるらしくて、AIにまかせたいらしい。AI薬歴を導入すると、患者との会話は交付所で録音されているので、患者と薬剤師の会話をAIが分析して薬剤師の代わりに入力してくれる。同僚は早く導入してほしそうだが、わたしは嫌だ……。
そんなのいらないと思うのはわたし一人の見解だし、加えてわたしは非常勤勤務で発言力はない。かつ老害と言われたくないので黙っている。
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でもお試しにやってみた。
患者との会話で
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こんにちは~。◎◎さんですね。今日は湿布が追加されています。痛いところに貼ってくださいね~でもあわなかったらかゆみや蕁麻疹がでることがあるので、その場合は使わないでくださいね~それといつもの薬ですが、余ったり逆に不足したりはなかったですか~
とかいうよくある会話をAI要約して薬歴に書き込んでくれる。上記の枝葉末節、こんにちは、お大事になどの言葉を取り除いて簡潔に。
湿布××3袋追加あり、1日1回1枚ずつ、腰に貼付。
副作用説明済み。
前回の処方薬に過不足なし、頓服しよう◎回。
他科受診アリ、緑内障指摘あり
併用注意薬なし
……という具合……SOAPといって患者の発言、観察上の様子、アセスメント(服薬指導)そしてプラン(今後の計画、これが一番大事)にわけて書いてくれる。
……正直いうと、つまらん……わたしは文字を書くのが好きなので薬歴を書くのも好き。
わたしは薬歴にもお孫さんの名前や趣味を覚書に書いたりはする。次回会った時の話題のとっかかりにして、薬の話に持ち込むのにスムーズに行くから。
でも書くことに苦手意識がある薬剤師は、そんなことしないし、AI薬歴は歓迎する。
まあ、導入したら導入したでAIが何を取り捨て選択して薬歴に残すか、文面チョイスのチェックをする。そして来年のエッセイにでもまとめてみようかと思っている。
令和7年現在、AI要約は5分ぐらいかかる。しかし数年後には、AI要約で瞬時に服薬指導歴が完成するはず……自分で書くことがすきな老薬剤師のわたしは、その進歩がまったくうれしくない。自力で好きなように書かせてください。
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追記(昔話)
服薬指導を書くのを面倒がって、わざと書き残してわざと残業してお菓子をつまみながらゆっくり書いたり、わざと休日出勤して書きにいったりする男性薬剤師がいた。そのわりには大したことは書いていない。残業代稼ぎって皆わかっていたけど、人出不足で社長が黙認していたのでそのまま。
その人はとても卑怯な性格でできない仕事があると、忙しいからって押し付ける人だった。辞めてくれた時は本当にせいせいした。表立って喧嘩したのはわたしだけだった。原因はわたしの好きな作家の本の感想をいちゃもんつけたこと。通常なら人の意見は尊重するがそういう感想を持つのは人間としてどうかという論調だったので言い合いになった。思い出したわ……そいつの勤務先がAI薬歴になったら残業稼げなくなるからいいんじゃないか……。そういう理由でAI薬歴の普及には賛成します。




