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「リア、アイラ元公爵夫人の罪の決定と処刑日が決まった。そして陛下から当事者であるリアが呼ばれている。ニール君と二人で王宮へ向かいなさい」
「はい。お父様」
お父様は眉間に皺を寄せたまま王家の書類に目を通している。
私達は王宮へ向かうと謁見室とは異なった部屋へと通された。その部屋には既に陛下とラストール公爵が座っていた。
「ニール・フォロー伯爵、リア夫人。改めて結婚おめでとう。これからも共に王宮魔導師として励んで欲しい」
陛下からの祝いの言葉に二人で礼を執るとラストール公爵と向かいのソファへ座るように促され、座る。
因みに私達は結婚したので彼が持っていたフォローの名と伯爵位を使うことになった。
「早速で悪いが、リア夫人、アイラ元公爵夫人の処刑は明日に決まった。罪名は侯爵令嬢への暴行、公爵夫人位の簒奪及び娘を使った王妃位の簒奪未遂だ。そして当の本人なのだが、未だ興奮し、不思議な事を言っているのだ。リア夫人がリディス・サルタン令嬢だと」
陛下は面白そうな話を期待するような顔をしている。そういう所はアラン殿下と似ていて親子だな、と思ってしまったわ。
ニール様はとても心配そうにしていたので私はニール様の手に手を乗せ、微笑んだ。
「陛下、ラストール公爵。私達だけの内密な話として貰いたいのですが、宜しいですか?」
「他の者も下がらせよう」
そう言って陛下は指示をし、従者や護衛を下がらせた。
「陛下は覚えていると思いますが、私が光属性の魔法に目覚めたのは二年前です。侯爵子息の魔力暴走に巻き込まれたことがきっかけでした。
半月近く意識が無く、眠った状態だった私は夢の中でリディス様に会ったのです。リディス様の大体の記憶と意思を引き継ぐ事により、光属性魔法が使えるようになったのです。
アイラ元公爵夫人に言ったのはリディス様の中にあった記憶の話をしただけです。まぁ、記憶なので証拠にもなりませんけれど」
嘘は言っていない。
前世だとは言っていないだけで生まれ変わったと言ってしまえば根掘り葉掘り聞かれて後々面倒な事が起こるに違いない。
「リディス嬢の意思とは?」
陛下が私に尋ねる。ローレンツも真剣に聞いている様子。
「リディス様は養父母からも婚約者からも愛されず、辛い思いをした。だから私には信頼し、愛し合い、温かな家庭を築くことのできる方と結婚しなさい、という感じでしょうか。
私が目覚めてからすぐにライアン殿下との婚約の打診があったようですが、リディス様の意志もあり、ライアン殿下の妃になるのは最初から選択肢にありませんでした。
庇護はされますが王族では自由も無いですし、側妃を取らなければならないですからね。ラストール公爵様が愛人を作ろうとなさってリディス様は自害された。
私自身も好きな人を共有が出来るほど器は大きくありません。きも、生理的に受け付けないのです」
これ以上は不味いと口を閉じる。危うく気持ちが悪いって言いかけた。
陛下はふむ。と納得したのかは分からないがそれ以上は聞いてくる様子はない。
「リア嬢、聞いてもいいだろうか?」
ローレンツ公爵が沈痛な面持ちをしながら代わりに質問してきた。
「私に分かる事であれば」
「リディスはアイラの子がキール子爵の子だと知っていたのかい?」
「私の見た記憶はリディス様が仕事で街を歩いている時にアイラ元公爵夫人とキール子爵が仲睦まじく、愛を確かめ合う建物へ入っていくところを見ていました。
その二ヶ月後にラストール公爵様が真実の愛を見つけた。子どもがいると言われたようです。私も彼女の記憶に半信半疑でしたが、光属性に目覚めてから学院に入学し、マリーナ様に会ってリディス様が抱いた疑惑に私が確信した感じです」
「何故、リディスはあの時に言わなかったんだ! 教えてくれ!」
ローレンツは掴みかかりそうな勢いで声を荒らげている。
「さぁ? 私が言うのも可笑しな話ですが、リディス様が言ったところで聴く耳を持ったのでしょうか。結婚式の直前まで会うことも叶わなかったという記憶があるのですが」
「っ! すまない」
私が言った言葉が余程ショックだったのかローレンツは落ち着きを取り戻したようだ。
「リア夫人、君の記憶にリディス嬢の記憶がある事は確認した。確かに確証は得られないが嘘を吐いている様子もない。
ラストール公爵とのやり取りを見て信じるには値する。面白い話だな。でも、何故マリーナの事を誰にも言わなかったのだ?」
「陛下、私が入学した時点で既にマリーナさんはライアン殿下の王子妃候補筆頭でした。証拠は無いですし、告げた事で私が消される可能性もありましたから言わなかったのです」
「ふむ、確かにそうだな。私からは以上だ。帰っても良い」
陛下はライアン殿下のことを考えているようで眉間に皺を寄せ、険しい表情になっている。
証拠もないのに一人騒いでも何も変わらなかっただろう。
でも、もし、分かった時点で対応できていればライアン殿下の婚約者はすんなりと決まったとでも考えたのだろうか。
きっとそれは否。
他の候補者達も気の強い方ばかりだったもの。
「リア、行こうか」
「はい」
私とニール様は礼をして仲良く部屋を出ようとしていた時に声がかかる。
「伯爵夫人、最後に一つ、良いだろうか?」
私は振り向き、答える。
「構わないですよ」
「リディスは、私の事を、ずっと恨んでいただろうか……?」
「恨んではいませんわ。……ただ、政略結婚とはいえ、ずっと慕っていた貴方に冷たい仕打ちを受けて辛く悲しかった、と思います。では、失礼します」
私は沈痛な面持ちのローレンツに再度礼をしてその場を立ち去った。
ニール様は馬車に乗り込むと聞いてきた。これで良かったのかと。
「ニール様。私の前世の記憶は既に過去の事なのです。リアはニール様と共に歩む未来しか見えていません」
「愛しているよ、リア。早く新居が完成すると良いな。誰の目も気にせずリアを愛する事が出来る」
「もう、ニール様っ」
そうして仲良く邸に帰った。




