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「ええ。良いと思います。アベル、このドラゴンを氷漬けにして下さい」
「ええー。やっぱり持って帰るの? お前のドラゴン熱が冷めるのは後何年後だろうな。もう、仕方ないなぁ」
そう言うとサウラン副団長は魔法を唱えて宙に浮いているドラゴンを氷漬けにした。
「サウラン副団長は魔法も凄いのですね」
「そうなんだ! 僕は水属性しか使えないんだけどね」
そう言いながら剣に付いた血のりを拭き取り、鞘にしまう。
私は念のため浄化しながら歩き、サウラン副隊長は警戒しながら私の横に付いて歩き、ニール師団長は後ろで風魔法を使い、ドラゴンを浮かせて上機嫌で歩いていた。
攻撃時に浄化魔法を掛ければいいのではないかとよく言われるんだけど、私はある程度の範囲を浄化する場合は詠唱が必要となるため、攻撃には向いていないのだ。魔石に詰めて攻撃魔法のように使用する方がいい。
私達はようやく浄化が終わり村に帰った。
ニール師団長は村長に話があると村長の家に行ってしまった。私とサウラン副団長は疲れたとばかりに宿に戻り、部屋で休憩する事にした。
「メイジー、今日は疲れたわ。視察だけだと思っていたのに土地の浄化とドラゴン退治もしたの」
「お嬢様、お疲れ様でございます。すぐ湯あみを致しましょう。マッサージもしますね。疲労は肌に良くないですからね」
私はメイジーに言われるがまま湯あみをし、髪を拭いてもらっているとノック音が聞こえてきた。メイジーに出て貰うと、ニール師団長が満面の笑みを浮かべ立っていた。
「さあ、リア。帰るよ。準備をして」
「えっと、ニール師団長。私、まだ髪が濡れているのですが?」
服は簡素なワンピースだったので人前でも恥ずかしくはないが、湯あみを終えたばかりで男の人に会うのは恥ずかしいものがある。
けれど、ニール師団長はツカツカと私の元へ来ると、髪に触れた。
「これはこれでリアは可愛いけれど。流石にアランには見せたくないな。……よし、これで帰れる。すぐに用意を」
風と火魔法で髪を瞬時に乾かした。
凍ったドラゴンが気になって仕方がないんですよね。
泣く泣くメイジーに出発の準備をしてもらい、馬車に乗り込んだ。サウラン副団長もぶつぶつと不機嫌に呟いているけれど、結局ニール師団長の我儘に付き合っている。
なんだかんだ二人は仲が良いのね。
勿論ドラゴンは馬車の上部に括り付けている。
深夜に差し掛かろうかという時間に馬車はようやく王宮に着いた。流石に皆クタクタになっていたわ。サウラン副団長は途中、何度かドラゴンの氷漬けが溶けないように魔法を使っていたみたい。
「リア、今日は遅くなってしまいました。王宮の一室をお願いしているので侍女と泊まるように。明日は視察の報告書だけなので午後からの出勤でいいですよ」
「分かりました」
王宮侍女に素敵な一室に案内された。メイジーと共に宿泊することになった。王宮の警備は万全だけれど、やはり一人は問題になるようだ。
「メイジー、疲れたー」
私は自分自身とメイジーにヒールと清浄魔法を掛けてベッドで気絶するように眠りについた。メイジーもすぐ寝たらしい。
王宮の侍女に起こされたのはいつもの起床時間より少し遅い時間だった。私は王宮の侍女に湯あみに連行されたわ。
メイジーは侍女なので一人で従者用の湯あみ場でゆっくり入ったらしい。良いなあ。髪の毛を乾かし、お昼には少し早い朝食兼昼食を摂るためメイジーと共に部屋を出た時、王宮の侍女が待機していて『こちらです』と否応なく向かうことになった。
もしや……面倒事が待ち構えているに違いない。
連れてこられたのはアラン殿下の執務室で、入室するとソファで優雅な姿のアラン殿下が座ってお茶を飲んでいた。
私、お腹が空いているのですが。
そんな言葉をグッと堪えてアラン殿下に礼を執った。




