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先日のスタンピードでは大人数で物資の移動もあったため、幌馬車での移動だったけれど、今回は視察なので四人用で荷物置きが付いている箱馬車が用意されていた。車内は荷物がない分ゆったりと座れるようになっている。
もちろん乗るのはニール師団長と私、メイジーとサウラン副団長だ。今回の予定は半日程で現地に到着後、そのまま視察を行うようだ。
私は一人でも問題なく身支度は出来るのだが、一応侯爵令嬢でもあり、女性一人を視察に連れていくのはやはり問題があるためメイジーが付いていくことになった。
「リア、現地に着くまで肩を貸しますよ」
「いえ。ニール師団長。今回は魔法を使わなくてもいいですからね? サウラン副団長、暇だし怪我を治療しますね」
「本当? 嬉しい。リアちゃんありがとう!」
サウラン副団長の膝に手を当て治療魔法を流す。モーラ医務官の薬も効いているので瞬時に治療は終わった。流石モーラ医務官だわ。
私は暇なので練習と称してメイジーにも治療をする。手荒れや馬車移動の疲れも取ってあげる。
「リア、私にはしてくれないのですか?」
「ニール師団長、何処か悪い箇所があるのですか?」
「ええ。最近、疲れが特に酷いです」
「分かりました」
私がニール師団長の手を取ろうとした時、サウラン副団長が言ってきた。
「えー。ニールはリアちゃんと手を繋ぎたいだけだろう」
ニール師団長は呆れたとばかりにため息を吐き、サウラン副団長の言葉を気にすることなく手を出しだした。
私は差し出された手に手を添えて魔法を流す。
ん? 何か変だわ。
「ニール師団長、身体が重いのではないですか?」
「ああ。よく分かりましたね。何故です?」
呪いでは無いけれど、一種の呪いなのかしら。
「目に目えるほどの呪いではないですが、誰かに魔力の籠った思念かな? 熱烈に好きなのか、嫉妬なのかは分からないですが、送られています。その想いが体調不良を引き起こしているかもしれません」
他人の思念の入った魔力が身体に影響を及ぼすため、呪いの類となってしまう。そもそも相手のことを思う良い魔力であれば身体が軽くなり、外敵から守る作用をしてくれるので解呪する必要がないだろう。
妬みなどからくる悪い魔力でも軽い物であれば時間と共に薄れたり、本人の魔力が弱い魔力を打ち消したりしてしまうのだが、体調不良時で強い思念の入った魔力を受けてしまうと、打ち消すことが難しく解呪の魔法を使用する必要が出てくる。
魔導師が呪いだと気づいた場合は呪いを消すことが出来ないため、魔法陣を使用し、呪いを反射させる方法を取る。
光魔法の場合、呪われている人の周りに光魔法を纏わせ、呪いを浄化する効果を持っている。
ニール師団長のように魔力が豊富な人なら魔力を見ることが出来るのだが、いつも魔力を見ているわけではないし、体調が悪い時など弱い魔力がまとわりついても見えない場合もある。
そもそも自分の魔力は感じるので急激に体調が変化しなければ自分自身を調べることなどあまりしない。
私は解呪の魔法を唱えるとパリンと小さな音が鳴ったので解呪ができたようだ。体調不良もあるのかもしれない。ヒールも掛けておく。
「身体が軽くなりました。リア、ありがとう。リアとダンスを踊った次の日から令嬢達が何故か公爵邸に押しかけてきたり、贈り物をしたりしてくるようになって困っていたのですよ。念を送られていたのですね」
ニール師団長は笑顔で肩を回し、軽くなった体を確認している。
今までニール師団長に見向きもしなかったのに顔を出した途端に追いかけ始めるのね。
なんだか嫌な気分になったけれど、気分を変えるようにスタンピードの話をしながら時間を過ごしていた。
もうそろそろ現地へ到着しようかという時に私は肝心なことを聞いていなかったと思い出し質問する。
「ニール師団長、今回の視察はどういった感じになるのですか?」
「今回はランサム村へ行き、村人からの聞き取り。増えている魔物、活発化している箇所の特定が出来れば上出来です」
話が終わるかどうかの所で村に到着したらしい。私達は宿に荷物を置き、メイジーはお留守番だ。ニール師団長は村長から話を聞いて、私は教会からの情報、サウラン副団長は村人から話を聞いた。
三人が聞き込みをした内容は、普段は村の周辺で出没する魔物はあまりおらず、たまにスライム、ラビット、ドードー等弱い魔物が出ているようだ。
最近になり、サラマンダーやグリーンスネークなどの強い魔物が出始めており、村の南側に広がる森の奥にある湖から涌いてくるらしい。
大きな魔物の死骸を食べるために魔物が集まって来ているのなら問題ないが、何かの原因で瘴気が溜まっているのだとしたらそこから魔溜まりが発生してスタンピードになる可能性もある。
ニール師団長の指示で本日はゆっくり休んで明日朝に湖に向かうことになった。
流石に馬車の長時間の移動は疲れる。メイジーと共にベッドに入ると気絶するように眠ってしまったわ。




