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残りの三日間は邸でのんびりと休暇を過ごした。
卒業までの課題もやり終えて学院へ提出もしてきたし、これからは本格的に王宮魔導師になる為に頑張らなくっちゃ。
「ニール師団長おはよう御座います」
「リア、おはよう。突然なのですが、君が休んでいる間に南部で魔物が活発化していると報告がありました。今から私の補佐として付いてくるように。三日は掛かるだろうから準備をしてきて下さい」
「分かりました。すぐに侍女に荷物を持ってきて貰いますね。後はモーラ医務官にも伝えて来ます」
「ええ、頼みましたよ」
魔物が活発化しているということは魔溜まりが起こっているのかもしれない。私はまたスタンピードが発生するかもしれないという状況に不安を覚えた。
スタンピードの原因は魔溜まりが起こるためとされているのだが、魔溜まりというのは魔物が好む魔力の塊のようなものだ。
どういう原理で生み出されるのかは未だ解明されていないが、魔溜まりが出来るとそこから魔物が集まりはじめる。
実は魔溜まりが魔物を生み出しているのではないかという話もある。魔溜まりは一定期間存在した後、自然に消滅するが、消滅するまでの期間は魔物が集まり続けるので発見次第、光魔法を持つ者が浄化を行うことになっている。
私はすぐに侍女のメイジーに魔法鳥を飛ばして連絡し、医務室へと向かった。
「モーラ医務官、南部の方で魔物が活発化したと報告があり、今からカルサル師団長と共に現地の視察へ向かいます」
「了解した。気をつけて行っておいで」
モーラ医務官はにこりと笑って視察の間、私がいない間分の薬を調合しはじめる。すると私達の会話を聞いてベッドの方から声が聞こえてきた。
「えー。リアちゃんニールと二人で旅行? 良いな。俺も行きたい」
「旅行ではありません。視察です。サウラン副団長。今日はどうされたのですか?」
「訓練をしていたらちょっと足を怪我してしまってね。モーラ医務官に診てもらっていたんだ」
「アベルは打撲が三箇所だ。ワシの薬を塗って安静にしていれば治る。サボってないで早く騎士団へ戻れ」
「えー。リアちゃんに治して貰いたい。じーさんより若い子の方がいいに決まっている。ねぇ、リアちゃん。僕も視察に一緒に行ってもいいよね? 騎士だし、これでも副団長だしさ、ボディーガードにぴったりだよ? こう見えて僕は強いんだから」
「私には何の権限もありませんし、ニール師団長に言って下さい。それにサウラン副団長は怪我をなさっているではないですか。許可が降りるとは思えません」
「ニールの許可があれば良いのね。よし! 許可をもぎ取ってくる」
そう言って足を庇うようにしながら魔法師団棟に向かって行った。私はモーラ医務官にこの間雑貨屋で買ったお揃いのウサギのペーパーウェイトを渡した。
モーラ医務官は娘からのプレゼントは嬉しいなぁ、ありがとうと喜んでくれて凄く嬉しい。
しばらくしてから私は魔導師棟に戻った。
「ニール師団長、ただいま戻りました」
部屋に入ると超不機嫌なニール師団長の横でサウラン副団長が満面の笑みを浮かべていた。
「リアちゃん、僕も視察に付いていく事になったから。よろしくね」
え? 何が起こったの? ニール師団長の不機嫌な様子を見るからにサウラン副団長はきっと無理を言ったのかなと思う。
どうやら視察は三人になったようだ。
「サウラン副団長は騎士団の仕事をしなくて良いのですか?」
「うん。団長も部下達も優秀だからね。行っておいでと言われたよ」
「今すぐ準備しなければ間に合わないと思いますが」
「それは大丈夫。騎士はいつでも魔物討伐に出る準備をしているからね。リアちゃん、心配してくれたの? 嬉しいな」
「サウラン、馬車の用意を。荷物を乗せておけ」
「仕方がないなぁ。ニール、騎士団の馬車でいいよね?」
「ああ、構わない」
「了解」
サウラン副団長は騎士団に伝言鳥を飛ばして馬車を手配している。
「ニール師団長、そういえば渡し忘れていました。これ、使って下さい。私とモーラ医務官とお揃いなんですよ」
ニール師団長の机に置いてあった書類の上に黒ウサギを乗せてみた。チラッと見たけど、ドラゴンではないせいか反応は薄いが、文句は出なかった。
「良いなー。お揃いなの? 僕のは?」
「これは私の上司であるニール師団長とモーラ医務官とのお揃いです」
「今度は僕とお揃いにしよう! 絶対だよ?」
「ふふっ、今度街に出かけることがあれば考えておきますね」
サウラン副団長と雑談をしていると扉をノックする音が聞こえてきた。
「入れ」
ニール師団長の言葉で入ってきたのは侍女のメイジーだった。
「リア様、お着替えをお持ちしました」
「ありがとうメイジー」
「ではリアの準備も整ったようですから出発しましょうか」
「はい!」




