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夕食には久々家族全員が揃って食事についた。
「リア、昨日、ライアン殿下と出かけたんだろう? メイジーから報告は受けた」
兄も母もメイジーから話を聞いたのか少し不機嫌そうな様子で聞いてくる。
「ええ。雑貨屋へ行って、子豚柄のリボンをプレゼントされました。それから、殿下のお勧めというレストランで食事をしているとサラ様と言う方に水を掛けられ、一人で帰ってきました」
「殿下は何も言わなかったのかい?」
兄は少し怒ったような声をしている。父も母も口を開くことはなかったけれど、食事の手を止めている。
「サラ様に『やめて欲しいな』とは言っていましたが、特に止める様子はありませんでした。それとサラ様は『ライアンが囲う女をこれ以上増やすことが許せないの! 貴女に一つ教えてあげるわ。
ずっと私も我慢していたけれど、私が知っているだけでも過去五人は同じデートコースで雑貨や商会、ブティック店に寄って、ここで食事してから最後は公園で頬にキスするのが定番なのよ』と言っていたわ。
ライアン殿下は複数の女性とお付き合いしているのではないですか? 私、街で流行っている恋愛小説のような修羅場に遭遇して本当にびっくりしました」
私がサラという女の人を真似しながら発した言葉に三人の動きが止まった。
あ、もしかしてマズイ事を言ったかしら。
兄は私の話を聞いて食べていたお肉にガシャンとフォークを突き立てているわ。
お父様の後ろにはドラゴンが見え今にも火を噴きそうだ。怖い。
マズイ。
きっとライアン殿下は兄の目を盗んで街に行ってはご令嬢達と親密になっていたのだろう。側近としてはこの話に目を瞑る事はできないよね。
ましてや妹の私にも同じような事をしようとしていたと思うと、家族としては嫌よね。
私が父や兄の立場でも嫌だもの。
すると、お母様が空気を変えるように笑顔で優しく聞いてきた。
「リア、今日はニール・カルサル様とデートだったのでしょう? どうだったの? 楽しかった?」
「お母様、とても楽しかったです。一緒に行った『ドラゴンの赤い糸』特別展はとても興味深くてドラゴン談義に花が咲き、一緒に出口の売店でドラゴンの爪を模した万年筆を買いました。それと、今日も食堂で魔物のシチューを食べたのですが、これがまた美味しくてびっくりしました。
もう一度食べてみたいです。あと、食事中にニール様を目当てに声を掛けてきた女の人がいて、私が邪魔だったらしく、その人から水を掛けられました。
昨日は濡れてしまいましたけれど、今日はニール様が魔法で止めて下さったの。宙に浮いた水はジュワーと蒸発してとても格好良かったわ。
それに魔道具屋さんにも連れて行って貰ったのですが、魔道具が凄くてまた行きたいです」
お母様はかつてない微笑みを浮かべて「そう、良かったわね」と言っていた。
部屋の出入口付近にいたメイジーもどうやら同じ気持ちだったようで、うんうんと頷いている。
父と兄は無言を貫いていたけれど、後ろにドラゴンは見えなかった。話題が変わり、落ち着いたのかしら。ホッと和やかな食事が戻ってきた。
翌日からの私はのんびりと過ごしていたが、父や兄の周辺は慌ただしくなっていたみたい。スタンピード後から私を婚約者に望む人が増えたとかどうとか。中には強引な人もいるらしく、断るのが大変らしい。
私はもうすぐ王宮に住まいを移して数年は独身を謳歌する予定なのに。




