獣医師・白馬千咲は動物の声を推理する ~江ノ大獣医学部・天才教授の推理カルテ~
【☆★おしらせ★☆】
あとがきに、
とても大切なお知らせが書いてあります。
最後まで読んでくださると嬉しいです。
「ごめんね、汐夏くん。あたし……カレシいるから」
ここは、神奈川県藤沢市にある【江ノ島大学農獣医学科】のキャンパス内。
明日に入学式を控えた、新大学一年生の僕……穂高 汐夏は……。
一個上の、憧れの先輩に、告白し……見事撃沈してしまったのだった。
「え……? カレシ……。だって……そんな……カレシがいるなんて言ったこと、なかったですよね……」
「そうだね。でも、彼氏がいないとも言ってないよ」
「それは……そう、ですけど……。でも……木曽川先輩、言ってたじゃないですか。カレシにするなら、君みたいな子がいいって」
……だから、てっきりカレシは居ない物だとばかり思っていた。
「そうだね」
「ほら……」
「でも別に君に、カレシになってよって言ったことはないでしょ?」
「そ、それは……そうですけど……」
木曽川先輩はため息をつく。
「あたしが可愛いくて、優しくしてくれるから、もしかして惚れちゃったの?」
「!」
「ああ、そっかそっか。そうなんだ……。ごめんね、あたし、別に君に興味ないから。君のお兄さんに、用があっただけだから」
「……貴喜兄さんに?」
「うん。君の二つ上のお兄さん」
……僕には二つ上で、しかもこの江ノ島大学農獣医学部獣医学科に通う、優秀な兄がいる。
貴喜兄さんは、僕と違って、江ノ島大に【後継者枠】で入った。
現在、日本には17の獣医大学が存在する。国立が10、公立が1、そして私大が6。
また、獣医師の国家試験合格者は年間大体1000人といわれている。そう……絶対数が、少ないのだ。
だから、数を増やすために、私大では【後継者枠】といって、親が獣医の人が入れる、推薦枠が存在する。
貴喜兄さんは、その枠を使って、江ノ島大に入った。……僕は、その枠を使えなかった。
使わせてもらえなかったのである。兄さんのほうが、優秀だったからだ。
兄は、高校生の時から、文武両道、成績優秀。全国模試でもトップの成績を残し、さらにバスケットの全国大会で優勝するほどの、凄い人だ。
親は、そんな兄に、自分の病院を継がせることを、早くから決めていた。推薦枠で、江ノ島大に入れたのだ。
兄さんも、勉強はかったるいからという理由で、国立大に入れる頭があったのに、その推薦枠を使って入った。
……優秀な、兄。そして……出がらしの弟。それが……僕、穂高 汐夏。
僕に、親は将来を期待してなかった。成績は中の下、見た目も並以下。スポーツができるわけもない。
……唯一、他人にはない物も、あるにはある。ありは、する。でも……誰もそれを認めてはくれていない。
親も、家族も、そして……愛した人すら。
「要件ってそれだけ? 悪いけど、カレと待ち合わせしてるんだ」
「…………」
……木曽川、先輩。僕の、高校の一つ上の先輩だ。
学校で孤立してる僕に、優しく……話しかけてきてくれた。
家にも、積極的に遊びに来てくれた。優しくしてくれた。……でも。
「僕に優しくしてくれたのって……全部、貴喜兄さんと、付き合う、ためだったんですか?」
そうではない、と否定して欲しかった。
僕に優しくしてくれたのは、孤立してる僕を見て、どうにかしてあげたいって思ったって……。
そう、言って欲しかった。
……でも。
「そうだよ。それ以外に、君みたいなネクラで、気持ち悪い人に……近付くわけないでしょ?」
現実は、ほんとに……残酷だと、思った……。
☆
僕の名前は穂高 汐夏。
出身は、長野県長野市。
僕の父さんは、長野県では有名な獣医師だ。
父さんは長野の獣医師の、重鎮的存在である。
長野で開業医してる人なら、誰でも、父さんのことを知ってる。
また、父さんは獣医師業務以外にも、いろいろと事業をしてる。タワマンを持っていたり、ソーラーパネルをいくつも持っていたり。
まあ、端的に言えば、父さんは金持ちだ。大病院を経営してる。
僕は……そんな父さんの……死んだ兄の息子なんだ。
そう……僕は父さんの本当の息子ではないのだ。
父さんのお兄さんが、その妻、つまり僕の母さんと一緒に交通事故に遭って死んでしまった。
残された僕は、今の父さんに引き取られた、ってわけ。
そして父さんには本当の息子がいて、それが貴喜兄さん。
将来……病院は貴喜兄さんが継ぐことになってる。
多分……木曽川先輩は、そんな兄さんの女になるべく、僕に……近付いたんだと思う。
大病院の、院長夫人になりたいから……。
「はぁあ……獣医学部になんて、入るんじゃなかった……」
僕には、【とある特殊な力】がある。そのせいで、動物は……苦手だった。
そうでなくとも、僕は父さんからも期待されていないし、優秀な兄さんがいたってこともあって……獣医になるつもりはなかったんだ。
……でも、憧れの木曽川先輩が、東京に出て、兄さんと同じ江ノ島大学獣医学部に入るって言ったのだ(長野県には獣医学部のある大学がない)。
……だから、僕は木曽川先輩の後をおって、江ノ島大学に進路を定めて、勉強し、やっとの思いで大学に入れたんだけど……。
「何のために入ったんだよ……はぁ……」
江ノ島大学。私立獣医大学のひとつだ。文字通り江ノ島に存在する、おおきな大学。
私立獣医大学の中でも、かなりの敷地面積を誇っている。
神奈川の外れにあるからだろう。都会に近い私立獣医大学は、土地が高いから、どうしても敷地面積がとれないんだって。
広い敷地面積のところもあるんだけど、でもそれは北海道とか、東北といった、土地が広いところだ。
まあ、何が言いたいかっていうと、江ノ島大学……通称【江ノ大】農獣医学部は、かなり……とんでもなく、広いってことだ。
「…………」
本館は、15階建て。別館も存在し、一~六号館まで存在する。
六号館は、基礎系の獣医学研究室の入ってる、研究棟。
僕は六号館近くの、図書館前にいた。江ノ大は敷地面積が広いからか、かなり緑も多い。よく近くの幼稚園や、保育園の子らが、遠足でここを利用してる、らしい。
僕は図書館前のベンチに座って、大きくため息をつく。
「大学……辞めよっかな……」
木曽川先輩に憧れて、長野から一人出てきた。
もちろんこっちに友達なんて、居ない。神奈川なんて、縁もゆかりもない場所だ。こんなところで、別にしたくもない勉強を、六年間もしないといけない。
……苦行としか、言いようがなかった。
「…………」
未来に、希望が持てない。親は、僕のこと、あんまり好きじゃあないみたいだし(推薦枠を使わせてもらえなかったし、兄さんばかり優遇するし)。
好きな人には振られたし……。僕には、変な力もあるし……。
『どしたん、あんさん。話しきこかー……?』
……僕の隣に、そいつは、居た。
一匹の……三毛猫だ。
『なんやシケタ顔して。どうしたん? カノジョにでもふられたんか?』
……明らかに、猫がしゃべっている。
明らかに、ファンタジー。明らかな、異常事態……。
だと、人は思うだろう。でも……僕は違う。
僕は、違う。
「はぁ……」
『なんや自分、わいの声聞こえとんやろ?』
「このコーヒーを飲み終えたら、うん、帰ろう」
『無視すんなや。わいの話してる言葉わかるんやろ?』
……わかる。そう、僕には、人にはない特別な才能……天から授かったとしか言えない、恩恵があるのだ。
それは……【動物の声が聞こえる】。
なぜか、はわからない。でも、本当に聞こえるのだ。彼らの声が。なぜか。
……でも、僕は動物の声が、聞こえないふりをしてる。
なぜって?
当然だろう。変だから。普通じゃ、ないから。動物の声が聞こえるのなんて、おかしなことだろ?
ベンチで、一人で、猫に向かってべらべらとしゃべっているやつがいたら、どう思う?
普通に、変な人扱いだろ。
『女に振られたくらいで、なーに世界の終わりみたいな顔しとんねん。生きてたら、それ以上に辛いことなんて、たーっくさんあるで?』
……どうやらこの三毛猫、僕が振られたところを、見ていたらしい。
それで、僕を励ましてくれてるようだ。
……無視するのが、ちょっと、申し訳ないように思えてきた。
『あんさんはまだまだ若いんやから、落ち込んだらあかん! な!』
僕の上に、三毛猫が座り込む。そして……手を差し出してくる。
『ほら、わいの肉球触らせたるわ! ぷにぷにやで~ほらほぉら』
……僕は、言われるがまま、三毛猫の手をとる。そして……肉球に触れた。
「……柔らかい」
『やろぉ~? おじちゃんの肉球は、世界一きもちよさやろ~?』
おじちゃん……か。え? オス……?
そういえば、三毛猫って遺伝的に、メスがほとんどで、オスの三毛猫ってほとんどいないんじゃ……。
『元気になった?』
「…………」
『顔色もどってんな。うん、そらよかった。んじゃなー、坊主~』
ぴょんっ、と三毛猫は僕の膝から降りる。てちてち……とどこかへと走って行った。
「…………」
ちょっとだけ、元気出た。ほんのちょっとだけ。
だからつぶやいた。
「ありがと」
三毛猫は、遠くにいた。小さくつぶやいた僕の声。それが聞こえたのか、こっちを見て、ニコッと笑っていた。
……そして、トラックにひかれた。
………………は?
☆
……江ノ大の敷地は、広大だ。なにせ、敷地内に道路が敷いてあるくらいだ。
三毛猫は……そんな敷地内の道路に飛び出し、そして……トラックにひかれてしまったのだ。
「…………」
僕は、思わず走り出していた。だって、他人じゃあないし。それに……僕が、呼び止めたせいで、カレは……トラックにひかれてしまったから。
僕の、せいで。だから……。僕はカレを抱き上げる。
「ねえ、大丈夫? ねえ……!」
猫は、動かない。
口の周りが、赤黒く汚れてる。
トラックは、もういなかった。猫を引いたくせに! なんて薄情なんだ!
「どうしよう……そ、そうだ! だ、大学病院に……」
江ノ大には、付属の大学病院(二次病院)が、敷地内にある。
そこへ行けば、直してもらえるかも!
僕はすぐさま、江ノ大の附属病院を、スマホで調べる。本当にすぐ近くにあった。僥倖としか言いようがない。
僕は猫を抱えたまま、大学病院へと向かう。
コンクリ二階建ての、建物だ。近くに農場があった。
自動ドアは……しかし、開かなかった!
「そんな……! なんでだよ! 開けてよ!」
ドンドンドン!
僕は、何度も扉をたたく! 何度も、何度も……でも、開かなかった。どうしてだよ! 病院だろ! なんでやってないんだよ!
「おい」
「開けてください!」
「おいってば……」
「開けてください!」
「無視すんな……!」
げしっ!
……誰かが僕の尻を、蹴飛ばした。なんなんだ……?
そこに居たのは……。
「小学生……?」
なんか、めっちゃ小さい、女の子がいた。身長は、多分140とかだろう。
金髪で、青い瞳をしてる。
黄色い帽子と、赤いランドセルを背負っていたら、小学生って見間違われてもおかしくない。
でも、小学生でないことは、一目でわかった。
医者が、良く着てる……スクラブ。それを上下で着ていたから。
「獣医さんですよね!? お願いです、この子……トラックにひかれて! 骨がおれてるかも! 助けて!」
僕は金髪獣医さんに、そういった。すると獣医さんはじろ、と僕と、三毛猫を見る。
「馬鹿か、君は」
「ば……なんですか急に」
「その子はトラックになんてひかれてない」
「………………は?」
何言ってるんだ……? だって、トラックにひかれるとこ、僕はちゃんと見たんだぞ……。
「野生動物の車との衝突事故は、まあ、ある。だが、動物たちは人間よりも運動能力が上だ。ぶつかる寸前に避けることができる」
「い、いやまあ……」
たしかに犬や猫は人間より足が速いし、反射神経も上だ。
「じゃ、じゃあどうしてこいつは倒れたんですか?」
「そんなの、見れば一発だ」
「いやわからないんですけど……」
ちら、と金髪獣医は僕を一瞥する。
「君、うちの新一年生だな」
「え!? な、なんで……」
「そんなの、見れば一発だ」
何を見てどう判断してるんだよ……。
「そいつを胃洗浄する。手伝え」
「は? い、胃洗浄……? なんですかそれ」
「うるさい。ついてこい」
「は、はい」
☆
僕はその金髪獣医さんと一緒に、大学病院の中に入った。
人間の町医者と、同じようなつくりをしてる。待合室があって、そして……診察室がある。
【総合臨床科】と書かれた、診察室に……僕は入った。
彼女は診察台の上に、三毛猫を横たわらせる。そして、彼女は猫に、処置をした。
口のなかに何か、薬を入れた。
すると……。
『おげぇえええええええええええええええええ!』
びしゃっ、と三毛猫は口からゲロを吐いたのである。
「え、ちょっとまじ大丈夫なんですか……?」
「大丈夫。誤食してまだ1時間も経ってないだろ」
「誤食……?」
ゲロのなかから、金髪獣医は、1つの黒い塊を手に取った。
「これを食ったのだろう、こいつは」
「これは……?」
「チョコレートだ」
「ちょ、チョコ……?」
ずい、と金髪獣医は僕に手を突き出してきた。てゆーか……ゲロついてるし。てゆーか、良くこのひと、ゲロの中に手をつっこめたな……。
で、ちょ、チョコ……?
「この三毛猫はチョコを食ったのだろう。それで、中毒を起こした。だから……ぐったりしていたんだ」
「そ、そうだったんですね……てっきり車にひかれたかと……」
「君、どこ見てるんだ? 外傷が見当たらないだろう?」
たしかに、打撲痕もないし、口から血を吐いた感じもない。
「君は、通り過ぎるトラック、倒れてる猫から、トラックに猫がひかれ、倒れてしまったと誤解してしまったわけだ」
「い、いや普通はそう思うでしょう……」
「普通?」
すると金髪獣医は、近くのシンクで手を洗いながら言う。
「動物の言葉がわかる君の、どこが普通なんだい?」
「!?」
な、んで……なんで、この人……。
「わかるん、ですか」
「見ればわかる」
「見ればって……どうして、わかるんですか? その……僕が動物の声がわかるって」
「簡単さ。君は倒れた猫をすぐに連れてきた。動かない猫を見て、だ。普通動かない動物を見たら、死体だと思うだろう? でも連れてきたって事は、猫がまだ生きてるのがわかったってことだろ? それはどうしてか? まあ……いろいろ考えられるが、言葉がわかるから、という推理を立てたのさ」
「…………」
……この人……ちょっと見ただけで、そこまで……わかってしまうなんて……。
「凄い……」
「いや、何を言ってるんだ。凄いのは君のほうだろ?」
「ぼ、僕……? 僕の何が凄いっていうんですか……」
僕なんて、ダメダメな人間なのに。
すると金髪獣医は、本気で目をむいていた。
「動物の言葉がわかるんだぞ、君、すごすぎるだろ……!」
「…………!」
……初めて、言われた。そんなこと。僕は……小さいときに、言われた。動物の言葉わかるって言ったとき……。
気持ち悪い、って。
そりゃそうだ。みんなが聞こえないものが、聞こえてるのだ。キモいと思われて当然……。
「私たち獣医が治療する相手は、動物だ。言うまでも無く、彼らは言葉を発しない。そんな彼らの治療には、言葉というおおきな壁が我らの前に立ち塞がる」
「そりゃ……そうですよね。人間が相手なら、赤ん坊以外……どこが痛いって……言えますもんね」
「そのとおり。でも動物だと、言葉がしゃべれない。我らはまず、動物を観察するとこ、そして飼い主からの聞き取りから治療を開始する。それは、まあ言ってしまえば無駄なワンステップだ」
「無駄って……」
「完全に無駄ではないが、しかし、治療に入る前にそれをする必要がある。その間に、死んでしまう命もある」
「…………」
この猫も、そうだ。いろいろと聞き取りや、検査をしてる間に、死んでしまう可能性はあった。
でも……この人は、それらをカットして、一瞬で……原因に気付いて、それを排除(治療)してみせた……。
「私の場合は、観察と経験により、動物の病状を見抜く。だが……君は、違う。動物の声に耳を傾け、最適な治療ができる」
ニッ……と、金髪獣医は笑う。
「君……獣医に向いてるよ。誰よりも凄い獣医になれる。私が保証しよう」
「…………」
……そんなこと、初めて……言われた。ずっと……僕は穂高の家のお荷物だった。
出来損ないの弟。病院を継げない、駄目な……やつだって……。
でも、この人は言った。僕は……獣医に向いていると。才能が、あると。
それが……僕は、本当に……嬉しかった……。
「ま、ちょっと能力頼みなところがあるから、そこはしっかり勉強するように。チョコレート中毒なんて、ちょこっと獣医学をかじっていれば、誰でもわかることさ」
「…………」
ちらちら、と金髪獣医は僕を見つめる。
「え? なんですか?」
「いや、だから……チョコレート中毒なんて、ちょこっと……ってほら……」
「え? え?」
「…………エスプリの効いたジョークだったんだけど」
あ、ああ……!
「だじゃれっすか……」
「シャレだよ。お洒落なシャレさ。……ちらちら」
「はぁ……その……はぁ……」
なんなんだこの人……。まじで……。
「私かい? 私は、江ノ大総合臨床学研究室教授、【白馬 千咲】と言うものさ」
「………………は? はぁ!? 大学……教授!?」
え、嘘でしょ……?
小学生くらいの、見た目なのに?
金髪なのに?
「君、私は小学生だと思っただろ。あと金髪だからなんだ」
「!? な、なんで僕の思ったことわかるんですか……?」
「そんなの、見れば一発だろうが」
……この人の、青い瞳には、一体何が映っているんだろう。
「すみませんでした……その、白馬先生」
「うむ……。ところで、君はあれだな、新一年生だな。しかも県外者。しかも親が獣医だろう」
「な!? どうして……」
エスパーかよこの人……。
「まず、この時期に構内にいる若いやつであること、あと身なりが整ってることから、この学生の関係者、かつ、新入生だということはわかる。次に、三月なのにそんな厚着をしてることから、県内者でないことはすぐわかる。北海道……いや、長野かな?」
「!? なんでそこまで……」
「続いて親が獣医だとわかったのは、私のスクラブを見て、一発で獣医だと気付いたからだ」
そう、この人は白衣ではなく、スクラブの上下を着ていた。
「一般的に医者っていうと、白衣のイメージだものな。でも、スクラブ姿の私を見て獣医と気付いた。ということは、見慣れてるってことだ。その若さで見慣れてるためには、親が獣医である可能性が高い。そうだろう?」
……なんて人だ。この人、僕の身なりから、出身地を言い当ててしまった……。名探偵みたいだな……。
「長野の獣医か……。穂高病院の子がたしか一人いたな。三年生だったかな」
「あ、はい……兄です」
「なるほどなるほど……。つまり君は臨床志望なわけか」
「あ、いや……」
臨床、つまり実際に動物を診療する、いわゆるお医者さんのことだ。
僕は……たしかに臨床医の息子だけど、でも……臨床を志してるってわけじゃあない。そもそも獣医学部に来たのも、不純な動機だし……。
「よし、決めた。君……うちの、総合臨床の研究室に来なさい」
「は、はぁ……!? なんで!?」
「どうせ君、友達ゼロでしょ?」
「いやまあそうですけど……なんで……?」
「県外者で、しかも一人で昼間っからぶらついてるような君に、友達がいるとは思えん」
なんという名推理だ……。
「で、でもたしか……研究室入りって、四年生になってからなんじゃ……?」
獣医学部は、6年制度だ。
1~3年で基礎を学び、4年目から研究室に入って、専門のことを学んでいく、というカリキュラムになってる。
「うち、人気が無くてね。なにせ今年の新四年生でうちに入りたいって子はゼロなんだ」
「は、はぁ……それで?」
「君、私を手伝いなさい。ちょうど欲しかったんだよね、君みたいな助手が」
「…………」
なんなんだこの人……。もう何度思っただろうか……。
「助手なら、いるんじゃあないです? 研究室に」
「変わり者の助手と准教授がいるんだが、二人ともそれぞれの研究やら治療やらで忙しいみたいでね」
あんたも相当変わってるよ……。
「で、どう? 私を手伝ってくれない? 正直、困ってるんだ。雑用やってくれる子いなくてさ」
……ようするに、パシリが欲しいらしい。
なんて人だまったく……。
……でも。変わり者だけど、僕を……変人扱いしなかった。
駄目な奴扱いも、しなかった。そんな人は……今までずっと、僕の世界には、居なかった。
……僕は、ある予感を抱いていた。
この人の元にいれば、きっと……楽しい、大学生活が、送れるんじゃあないかって。
「わかり、ました。暇なときなら……」
「よしっ! 決まりだ! よろしく……穂高……いや、君下の名前は?」
「え、汐夏……ですけど」
「汐夏くんか。うん、じゃあ汐夏くんって呼ぶね。君、上の名前で呼ばれたくないっぽいし」
……この人、ほんと、なんでもわかってるようだな。
多分僕の発言から、家のこと、あんまり好きじゃあないことを見抜いたんだろう。
「私のことも千咲で良いよ」
「さすがにそれはちょっと……」
「じゃあ千咲ちゃん?」
「千咲さんで……」
「ま、いいか。よろしく汐夏くん」
こうして、僕、穂高 汐夏は、変わり者の教授、白馬 千咲の助手となったのだった。
「しかし君、大学卒業したら、病院をつぐんだろ? 出る前にうちで修行して生きなさい。それがいい」
「い、いいや……病院をつぐのは兄で……」
「? 何言ってるんだ。あの病院は、君のものだろ」
「………………は? 僕の……え、どういう?」
「どういうもなにも、あの病院は君の養父のものではなく、君の死んだ父上のものだろう?」
…………………………は?
【★☆読者の皆様へ 大切なお知らせです☆★】
新作の短編投稿しました!
タイトルは、
『獣医師・阿寺渓子の診断推理』
広告下↓にもリンクを用意してありますので、ぜひぜひ読んでみてください!
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