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君を飼っても良いですか?  作者: 黒井みやこ


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8-流浪の旅だから


 訓練を始めてから、大体十日くらいだろうか。

 そこまで大きな成果は出ていないが、小柄なモンスターとの実戦までは経験させられたくらい。

 まだまだひよっこだけど、低級冒険者の中ではマシな方になったんじゃないかな。


 そんなくらいで、私は彼を連れその街を離れた。


 本当なら、もう少し彼を鍛え、色々準備をしてから出発したかった。

 だけど、思った以上にこの街は彼にとって良くない場所だった。


『絶世の美男子を貴族が高額報酬で探している』

『男でさえむしゃぶりつくきたくなる美貌を持った男がスラムで隠れて暮らしている』

『老若男女問わず多くの人を壊した美しい芸術がこの街に居る』


 そんな、そこそこマシな噂から品性の欠片もない酷過ぎる噂まで、私は耳にした。

 どこまで事実かわからない。

 だけど、その噂が彼を探すためなのは間違いなかった。


 でも、この移動は彼のためでない。

 ただの私の我儘だ。

 私がそんなものを聞きたくないから、彼を連れだした。


 だけど、その選択を私は少しだけ後悔した。


 街を離れてから、安堵したような表情をする彼を見て、もう少し早くそうすれば良かったなと……。




 徒歩で移動中、彼が尋ねて来た。

「ミリカさん、鍛えてくれているってことさ、俺には才能があるってことなのか?」

 彼の言葉にきょとんとした後、私は困った顔を見せた。

「んー……どうだろ。正直わからないかな」

「わからないって……」

「そもそも才能なんてものが発揮されるのは、ある程度形になってからってのが私の持論。しっかり努力した後に出る成果の差が才能。だから今は才能あるなし以前。土台作りだよ」

「そういうものなのか」

「あくまで私の持論だよ。でも、期待してたら悪いから言っておくけど、現時点で言えば普通。早熟でもなければ目を見張るようなものもない。だけど悪い部分も全然ないし訓練にもしっかり着いてきてる。だから、普通。強いて言えば良い意味での普通かな」

 怒るかなと思ったけど、私は正直にそう評価を伝える。


 だけど彼は怒るどころか「普通か……」なんて呟いて、どこか嬉しそうに笑っていた。




 そうして、次の街に到着した。

 少々規模の大きい街で、門番が入場料以外に裏金を要求しないような街。

 つまり真っ当な街ということ。


 そして真っ当ということは、とても大きな意味を持つ。

 真っ当で規模の大きい街ということは、イコール……ご飯が美味しい。

 全てがそうというわけではないが、やはり発展した街の方がご飯が美味しい割合が多い。


「というわけで、とりあえず名物的な物は食べとかないとね。私はこれの為に旅をしていると言っても過言じゃないわ」

 ニコニコ顔のまま、私は街の門をくぐる。

 フード越しだからわからないが、彼も雰囲気的には楽しみにしている感じではあった。


 さっそく表通りで繁盛している店に入って私はメニューを手にとり、とりあえずとして特産である『マロンフィッシュの姿揚げ』を二つ注文する。

 そのマロンフィッシュとやらがどんな魚なのかも知らないし、どういう味なのか想像もつかない。


 それでも、注文する。

 旨くても不味くても、想い出に残るからだ。

「付き合わせてごめんね。次はちゃんと調べて確実に美味しい奴頼むからさ」

 そう言って私が微笑むと、彼はそっと首を横に振る。

「いえ、食べ物に文句を付けませんよ」

 そう……私と彼が出会ってからまだ二週間程度しか経っていない。

 彼が以前の食生活を、忘れているわけがなかった。


「じゃ、君が食で我儘を言えるようになるのが私のお仕事かな」

「それより、俺、自分で稼いでみたいんですが、良いですか?」

「ふぇ? どゆこと? お金なら心配しなくても良いし遠慮も要らないよ? むしろ遠慮されたら嫌。すっごい嫌」

「遠慮でなく自分で生きていくためです。自力で生きるために、ミリカさんは俺を冒険者にしようとしてるんでしょ?」

「まーねー。でも、そのハングリーさは嫌いじゃないわ。さっそく明日から一緒にお仕事行ってみようか。仕事の選び方から教えてあげる」

「わかりました。お願いします」

「ん。お願いされました」

 そう言ってニコニコしていると、ふとひそひそ声が耳に入って来た。


 自分達の噂ではないけれど、こういう話のアンテナを高くするのもまた旅人として生きる術の一つ。

 なんて建前で野次馬根性全開で私は噂話に耳を傾けた。


「今日じゃない? ()()()が来るの」

「え? もうだっけ!? ついこないだ告知されたと思ってたのに……。月日が経つのは早いわー。それで、来て下さる賢者様ってどんな人だっけ?」

「最年少で賢者になった方だよ。俺ファンでさー」

「ファンって……賢者様なんだから男だろ?」

「だから良いんじゃないか」

「お前は……。でもさ、何しに来るんだこの辺りに? 飯が美味いのとのどかなこと以外何かあったか?」

「さあ? 慰安か流浪の旅か、もしくは何か探してるとかじゃね?」


 そんな話を聞いてから……私はそっと立ち上がった。

「あー……ごめんカイト。本当唐突で悪いんだけど、私すぐこの街から離れないといけなくなった」

「え?」

「ごめん! それでどうする? ついてきてくれるならこの関係は続行。この街が良いならお金渡してさよなら。そっちが良い?」

「本当に急いでるんだね」

「うん」

「事情、後で聞かせてくれる?」

「後で良いなら多少はね」

「じゃあ着いて行くよ」

「ん、ごめんね」

 そう言ってから、私は店の人に詫びと多めの迷惑料を渡し、そのまま街を後にした。




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