14-ついに語られる、恐ろし(く底の浅くて下らな)い過去
それはそれは、まあとても頭が悪くて、そんな単純なお話でした。
平民でありながら魔法学院にてあれよあれとと多大な功績を残した私。
五つの試練をぽんと超え、大賢者と認定され、王様の謁見も決まって最高のサクセスストーリーに足を踏み入れた、その一歩。
まあ成功っちゃ成功だけど、この辺りでちょっと飽きていた。
というか、ぶっちゃけ、ちょっと面倒だなとは思ってた。
『礼節を覚えろ』
『貴族を敬え』
『お前だけ税率九割な』
そんな萎えることを偉い人やら偉くない人やらに矢継ぎ早に言われ、ちょっと大賢者に嫌気がさしていた。
そんなある日のこと……。
魔法学院の総合学園長に、私は呼び出された。
私が通っていた魔法学院を管轄する地位の人、言うなれば魔法教育長とでも言うべきだろうか。
国にとってめっちゃ偉い人で、立場的に言えば大臣に匹敵するらしい(そう本人が毎日のように自慢してた)。
そんな重鎮が私を部屋に呼び出したその理由は、シモの世話をさせるためだった。
当然、性的な意味で。
努力を重ねた女の子に対して権力を傘に好き放題して、泣かせるのが"大層具体が宜しい"と、にちゃっとした笑みでそのおっさんは私に伝えてきやがった。
そして脂ぎった様子が最高潮に達した瞬間、おっさんは、私に襲い掛かってきて――。
『うわっキモッ!』
つい本音と共に全力でパンチを放っていた。
大賢者とも言える魔力を込めた、全力で。
そのままおっさんは戸棚に激突し、ガラスというガラスが突き刺さり、戸棚の中に入っていたおっさんの名誉の証である大量のトロフィーやら賞状やらをぐちゃぐちゃに。
あとおまけに、おっさんは手足は逆間接に曲がり、息も絶え絶えで死にかけのカエルみたいにピクピクしてた。
まあ、かろうじて生きていたから良し! ……というわけにはいかない。
ぶっちゃけ過剰防衛過ぎるし、それ以前に相手は国の重鎮。
平民を殺しても罪に問われないような、そんなお高貴なお身分のお方である。
ただでさえ平民という理由で貴族たちからヘイト稼ぎまくっている私じゃあ、そうあがいてもヤベー末路になってしまう。
『やっちったぜ! よっしゃこのまま逃げよう!』
そうして窓の外からダイブあんどフライ。
私は自由を勝ち取った。
「と、言う流れで今がありますと。だからぶっちゃけさ、国が私をどういう風に見ているかわからないんだよね。結構な頻度で追手が来てるから恨まれてはいるだろうけどさー」
「……酷いですね。ああ、もちろん相手がです。英雄相手になんてことを……。いえ、英雄でなくとも至宝である貴女になんと失礼なことを」
「あまり褒めないでくれまたえよ君。顔の良い君に褒められると照れておかしくなってしまう」
具体的に言えば、魔力制御ミスって地面に頭から突っ込みそうになる。
「貴女は……幸せになるべき人です」
「私は割と幸せだよ? それに、私こそそれを君に思ってる」
「俺みたいな屑はもうどうでも良いんですよ! むしろ俺を使い潰して幸せになって下さい! 貴女の為なら何でもやります。貴族に媚を売ったって良い! 奴隷となっても良い! だから……」
ぽろりと、涙を零す。
「俺を、貴女を裏切り傷つけた俺を……」
ぽんぽんと、頭を叩く様に撫でる。
傷つけたいわけじゃあなかった。
苦しめたいなんて思ったことはなかった。
だから何と言うか、今の彼は、今までと違う意味で見てられなくなっていた。
ちょっと、胸が苦しい。
「私はね、君が思う程良い人じゃないよ。ちょっと魔法が得意で顔の良い男に弱い、それだけの女さ」
最近は比喩じゃなくて、まじでそう思ってる。
ぶっちゃけ大賢者に登る程だから、人と違うんだぞって鼻高々ドヤ顔さんだったけど、この美貌を前にしたら魔法の有無など誤差でしかない。
どんな大魔法よりも、彼は人を魅了出来る。
それが本人の幸せにならないとしても、それは正しく、真実だった。
「でも、貴女は俺にとってはたった一人、俺の為に生きてくれた人です」
「下心だよ」
「でも、手を出してくれなかった……」
「あの時それを望んでいた?」
「それは……」
「そう言う事。君が心からさ、私が受け入れてくれてたら、私はきっと我慢出来なかったよ。その程度の欲深い女――おい、何故そこで赤面する」
彼は真っ赤になりながら、私から顔を反らした。
「だって……望まれていると思うと……嬉しいと恥ずかしいので……」
「立場逆になっちゃったね」
そう呟き、私は微笑む。
君は本当に良い男だね。
私も真っ赤になっているのに、それを指摘しないでくれているんだから。
だから私はそんな彼に甘え、彼の赤面を揶揄って遊んであげた。
もちろん、私自身も自覚があるほどに赤面したままで。




