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君を飼っても良いですか?  作者: 黒井みやこ


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13/15

13-その正体は


 間に合った。

 彼は、無事だった。

 私は安堵の息を吐いた。


 とは言え、正直状況が何もわからない。

 わかることなんて、彼が凄くピンチであったことだけだ。


 一体なんで街が襲われてる?

 そして何故彼が街を助けるため自分が犠牲になるようなことを?

 そんな自己犠牲溢れるような性格だったかしら?

 それだけあの女性が気に入ったということなのかな?

 ぐぎぎちょっと悔しいけど幸せそうで何より。


 まあわからないけど、それでも、命を犠牲にするようなことはして欲しくなかった。

 そんなことをするために、色々教えたつもりは私はない。

 ようやく幸せになれそうなんだから、彼にはもっと楽しい日々を送ってもらわないと。


 そんなわけで私はどかんと一発ぶちかまし、彼の前に恥ずかし気もなく戻って来た。


「はい状況確認!」

「へ? え?」

「ほら早く答えて!? 無事? そして君の想い人ちゃんは!? 大丈夫! 生きているなら絶対助けるから!」

 私が真剣に尋ねると、みるみる彼の表情が曇っていく。

 そして俯きながら、苦しそうに呟いた。

「いませんよ。そんな人……」

 もしかしてフラれた?

 私地雷踏んだ?

 良くわからないけど、罪悪感覚えるのは後にしようそうしよう。

「ふぁ? え? あ、まあ、うん。被害者がいないなら良し。だったらさっさと逃げて。第一陣はぶちかましたから今すぐということはないけど、まだ全然危ないから」

 ついでに言えば、私もやばい。

 ちょっと悪目立ちするレベルで大技一発ぶちかましちゃったから、私はあの敵たちだけでなく、近隣の魔法使いの追手にも確実に補足された。


 だから私も急いでこの場から離脱しないと――。


 ぐいっと、私は身体を引っ張られる。

 何かなと思い後ろを見ると、彼が、私の腕を掴んでいた。


 それは震えるような、遠慮がちな手だった。


「……えと、どう、したの? 何かお困りなら――」

 ぽたりと、水滴が落ちる音。

 うつむく彼の顔から、大粒の涙がボロボロと零れていた。


「俺が、馬鹿でした。ごめんなさい。……連れて行って下さい。俺を、どこまでも……」

「いや、でも……私しばらくガチの逃避行になるというか、結構不味い感じといいますか……」

 ぶっちゃけ、私の追手はこの盗賊レベルじゃない。

 相手が本気になれば、軍よりヤバい。


 なにせ魔法関連のお偉いさん全員が、私の敵みたいな状態だ。

 ぶっちゃけこの国そのものが私を追ってきている。


 派手に動かなかったら補足はされななかっただろう。

 だけど今さっき、私は千人規模に大規模魔導をぶちかまし、全員を気絶させた。

 それに気づかない程魔法使いたちは無能じゃない。


 それでも……。

「お願い……捨てないで……」

 ぎゅっと、袖を掴む手を強くする彼。

 心から、悔やむ様子が見て取れる。


 前までのような警戒もなければ世界に対し斜めみ見ているということもない。

 ただ、溢れんばかりの罪悪感だけが、彼から感じられる。


「?????」

 私は腕を組み、首を傾げた。


 すっごく狂暴だったらわんちゃんが、キューンと泣いているこの状況が全く理解出来ない。

 ただ、一つだけ言えることはある。


 めっちゃ可愛い。

 大層失礼だとわかっているけど、めっちゃ可愛い。

 不憫で可哀想だけど、めっちゃくっちゃ可愛いしやっぱり綺麗な顔してる。


 泣いていようと、その美貌は一ミリも衰えない。

 いやむしろ煽情的な涙に魅力が増幅されてるまである。

 可哀想な上に美しいのだ。

 そんな彼を、私が引き離すことなんて出来るとお天道様はお思いだろうか?


 そこまで意思が強かったら、私は今頃左団扇で悠々自適な生活を送れていた。

 あとついでに、どうやら私はマジで、顔の良い男に弱いらしい。


「しばらくは、めっちゃ過酷な旅になるよ?」

「構いません。肉盾とし使い潰して下さっても、全然」

 一体何があったのかわからないが、この短期間でよほどひどい目にあったらしい。

 ちょっと精神状況的にほっておけそうになかった。


「お姫様だっこするのとされるの、どっちが良い?」

「――へ?」

「ついて来たいなら早く答えて」

「あの……俺、しばらく風呂とか入ってないから汚くて……」

「ごめんそんな余裕ないのよ! いやマジではよ決めて!」

「じゃ、じゃあ失礼します!」

 慌てて、彼は私を抱きかかえた。


 ……ここで彼を嗅いだらきっと私はヒトデナシになるだろう。

 そう思ったから私はそうするのを我慢して、彼の腕の中で魔法を発動させる。


 ふわりと、小さな風が舞い起きる。

 そしてそのまま二人の身体は宙に浮かび、そして高速で飛翔しだした。


「これ……は……」

 世界が過ぎ去る景色の中、彼は茫然とした様子を見せる。

 驚き過ぎて、涙さえも止まっていた。

「大丈夫? 怖くない?」

「怖くはありませんが……こんな魔法使えるなんて……。いえ、そうか! そういうことですか。貴女は、――賢者様だったんですね!」

 満面の笑みで、彼は叫んだ。


 以前と違う羊の皮を被ったモードじゃない、ガチの敬語なのはわかるが……どうにも馴染めない。

 ちょっと他人行儀感があって、ぶっちゃけなんか寂しかった。


 私は苦笑しながら、首を横に振った。

「残念はずれ。私は賢者じゃないわ」

「そう、なのですか? 空を飛ぶなんてのは、賢者様くらいしか出来ないと噂で聞いたのですが……」

「うん。まあ、この逃避行に一緒ってことはもう、どーしたって諸々に巻き込むんだよねー。だからさ、聞きたい? 私の事情」

「俺が聞いて、貴女が辛くないのでしたら」

「全く辛くないよ。そんな繊細さ私にあると思う? 言いたくなかったのは、巻き込みたくなかったのもそうだけど、恥だからってだけ。あと、ちょっとアレな感じでねぇ……君の重たい過去の前じゃ霞んで言い辛いというか、自分でも馬鹿だったなぁと思うというか……言えないタイプの武勇伝と言いますか……」

「アレな感じ?」

「そ。アレな感じ。若さゆえの過ち的な? えとさ、まず賢者についてなんだけどね、『五つの難題』ってのがあるのよ」

「貴女は、賢者ではないんですよね?」

「まあまあ、話は最後まで聞きんさい」

「はい」

 彼は素直に頷き口を紡ぐ。


 ちょっといい子過ぎてやり辛かった。


「一つ『錬金術の秘奥に達する事』、一つ『歴史を動かす事』、一つ『有限と無を否定する事』、一つ『決して壊せぬ物を壊す事』、一つ『自由に天を駆ける事』。これぞ『五大試練』なり。そんで、この内一つを成し遂げたら賢者と呼ばれるようになります」

「……全然意味わかりませんが……あの……最後の天を駆けるって……」

「長時間、ある程度方向転換も可能のまま空を高速で飛翔する事だね」

「あの、今のこの状況は……」

「そだね。長時間、ある程度というかほぼ完全自由に、空を高速で飛んでますわね。ついでに君も一緒に」


 私はこほんと、一つ咳払いをした。


「遠い遠い北国に。千年に一度の大天才が現れました。彼女の名前は『メリア・リュート』。彼女はなんと、賢者の難題を全て若き身で説き伏せて長らく空席だった『大賢者』の称号を手にしたのでしたー。わーわーはくしゅー。……あれ? あんま驚いていない?」

 彼は私の告白に、一ミリも表情を変えていなかった。


「正直言えば、アレを見た後なので、納得出来ます」

「アレ?」

「千人以上いた盗賊団を、一撃で葬り去ったじゃないですか」

「葬り去ったなんて人聞きの悪い。気絶に留めたのでちゃんと生きてますよ。……たぶん」

「た、たぶん?」

「スタンショックでも最悪の場合があるんで……まあ、コラテラルダメージって奴だよ。たぶん」

 というかそういうことにしておこう。


「というわけで、私の本当の名前はメリアちゃん。大賢者でしたー。って感じで、信じてくれるかな?」

「信じますよ」

「あらあっさり。良いの?」

「はい。貴女の言うことなら、これからは何でも信じます。例えカラスが白いと言っても……」

「それはそれでちょっと違う気もするけど、まあありがとう。実際嘘はついてないから安心して」

「ですが、それならどうして貴女は――」

「メリア、だよ?」

「……め、メリア様は逃走しているのですか? 賢者の時点で英雄相当ですから、国の威信という程の大英雄では……」

「そこで、私のやらかしが始まるのです。ほわんほわんほわんほわん……」


 私は飛翔の暇つぶしも兼ね、"本当に下らない過去"を語りだした――。




ありがとうございました。


楽しんで頂けたのでしたら、どうか高評価ブクマ等の程を。


そして残りも、もうちょっと。

どうかどうか、最後までのお付き合いの程をよろしくお願い申し上げます。


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